それならば…。
「それならば何故、ドッペルゲンガーを見た者は近い未来に死ぬのか…。とある研究によると、脳の側頭葉と頭頂葉の境界領域、つまり側頭頭頂接合部と呼ばれる箇所に、脳腫瘍のある患者が自己像幻視を見る事が多いとされているね。この脳の領域は、【ボディーイメージ】を司ると考えられていて…。機能を失うと、自己の肉体の認識上の感覚を失い、あたかも肉体とは別の【もう一人の自分】が存在するかの様に錯覚する事があると言われているんだよ。 そして、自己像幻視の症例がある患者の大多数が…。統合失調症を患っているのでは無いかと言われている。【患者】は【暗示】に反応して、自己像幻視の現象を経験するんだよ。」
倉木は千崎の瞳の奥を視ている。
千崎は、その視線に心を奪われていた。
「要するに…。脳腫瘍による幻覚なの?」
「そうだね。そうなるね。脳腫瘍を患うから長くは生きられないって事だね。だから、ドッペルゲンガーを見た者は【近い未来に死ぬ】事になる。」
「でも…。そうだとしたら、変だよね?だってさっき言ってたじゃない。同じ人物が同時に別の場所に姿を現す現象も、ドッペルゲンガーと呼ばれる。第三者が目撃する事例もある。って。」
千崎は納得のいかない表情を浮かべる。
「そうだね。確かにそう言った。でも…。そう云ったモノは、様々な要素が絡み合った複雑で複合的な存在とも言ったよ。」
そう言うとー。
倉木は少し姿勢を変えた。
そしてー。
また言葉を並べ始めるのだった。