夢のあとさき
「倉木くん。吊し人って知ってる?」
千崎が学校へ登校する様になってからー。
暫く時が経った放課後の校舎での事。
千崎は倉木の対面の椅子に腰掛けるとー。
倉木にそう、質問をした。
「吊し人?吊るされた人って事?タロットカードの?」
倉木は読んでいた本を閉じると言葉を発した。
「うぅん。違うよ。最近ね、噂になってる都市伝説。」
千崎は瞳を輝かせる。
「都市伝説?聞いた事ないね。何それ?どんな話?」
「悪い事をするとね。吊し人に罰を受けるんだって。」
「吊し人に?言葉のイメージからすると吊し人自体が罪人って感じがするけど…。処罰する方って事だよね?」
あっ…。と千崎は吐息を零しー。
そう言われるとそうだよね?と続けた。
「タロットカードだと…。【自己犠牲】を現してると云われてるね。若い男の人が両手を縛られ、逆さに吊るされているのだけれど、苦しそうには見えない。寧ろ少し微笑んでる様に見える。あっ。死刑囚。刑死者とも呼ばれる事もあるな…。日本の死刑は絞首刑だし…。」
そう言って、倉木は首を擦る。そしてー。
どんな見た目なの?と続けた。
「うんとね。確か…。眼の部分だけ空いた麻袋を被ってて、その麻袋を首元の辺りで縛ってるらしいよ。金属製の鎖だったかな?あとは…。全身が黒尽くめの服。」
倉木は何かを考えてる様に見える。
千崎は其れを見ては微笑んでいる。
違和感だらけだよね。と云いー。
「吊し人。刑死者なのだから罪人なんだよ。絞首刑が執行される時、眼隠しされるんだ。そう。眼隠しなんだよ…。その都市伝説の吊し人は眼だけが見えてるんだよね?それだと逆だ…。」
と続ける。
「逆?それってどういう事?」
「いや…。逆でもないのか…。」
「逆でもない?」
「元通りになるのか…。興味深いね…。」
倉木は微かに笑みを浮かべる。
「吊るされた人。首に鎖を巻いているから、つまりは絞首刑を執行されるかされた人なのだと思うけれど…。姿形は殆ど、執行人なんだよ。麻袋を被ると云うのは、匿名性を守る為なのだろうけど…。それなら執行人って名前の方が、しっくりくるよね?でも【吊し人】って呼ばれてる。名前と姿形の少しの差異が違和感を生み出してるんだよ。多分、その違和感が【吊し人】の正体なのかも知れないね。」
楽しそうに語る倉木を見てー。
千崎も楽しい気持ちになる。
「何方が主体になるのだろう?」
倉木は空間に言葉を放つ。
「【罪人】なのに【執行人】となっているのか…。」
人差し指を立てる。
「【執行人】なのに【罪人】となっているのか…。」
中指を立てる。
「何方にしろ【傲慢】な存在だね。」
倉木はー。
そう言って、微笑んだ。
後日譚ですね。
はい。




