言霊(ことだま)
「良く聞いてね…。」
落ち着きを取り戻した千崎の耳に優しい倉木の声が届いた。
「言霊と云う力がある。言葉には霊力が宿っているんだよ。言葉が、現実の事象に何らかの形で影響を与える。良い言葉なら良い事が起こり、不吉な言葉なら凶事が起こる。」
倉木は千崎の瞳の奥を見つめた。
「信じるのも良いし。信じなくても良い。でもね。現在だけは信じて欲しいんだよ。そうすれば僕は君を救える。だから、良く話を聞いてね…。」
「私を救う…?」
千崎は不思議そうに倉木を見返す。
「そう。僕は君にかかっている【呪い】を解きにきた。」
そう言って、倉木は微笑んだ。
「えっ?」
千崎の瞳からは涙が溢れる。
「泣きたい時は泣いたら良いよ。もう大丈夫…。【呪い】と云うのは、存在はするし、存在はしない。結論から云うとね。」
そう言うと倉木は千崎の頭を優しく撫でー。
「君は誰かに【呪い】をかけられたのでは無いよ…。君が君に【呪い】をかけてしまったんだ…。」
と云った。
「私が私に?」
「正確に云うのなら、確かに、とある人物は君に【呪い】をかけた。其れは事実だよ。でも、その【呪い】に効力は無かったんだ。其奴は失敗したんだよ…。【呪い】とは、正しい方法を正しい順序で行わないと、その効力を失うんだ。」
風が吹く。千崎の嗅覚は、石鹸の香りを感じた。
其の香りは倉木から放たれている。
しかしー。
その石鹸の香りには、少しだけ錆の匂いが混じっていた。
「ちょっと、待って…。私に【呪い】をかけたのは誰なの?」
千崎は倉木に問う。
倉木は優しく諭す。
「ソレは知らない方が良いよ。ソレを知ってしまうと君の【呪い】が、解けなくなる…。君は純粋だからね…。それと…。君にかかっている【呪い】は…。」
倉木は少し間を空けー。
「様々な要素が絡み合った複雑で複合的な【呪い】だから…。」
と続けた。




