感情に飲み込まれていく。
とある日の放課後の教室だった。
「ねぇ。大丈夫?痩せてきたんじゃない?」
倉木くんは私に訊いてくれた。
「うん。」
私は、そう答えた。倉木くんの言った通りだ。
私は、痩せた。痩せ細ってしまった。
異様なまでに痩せ細ってしまったのだ。
「病院には行ったの?原因は?」
倉木くんは、また訊いた。
「少し訳があってね。まだ行ってないよ…。原因は分からないんだ…。私、どうしちゃったのかな…。」
家族が少しずつ少しずつ壊れてしまったから…。
お父さんは、お金が必要なんだよ…。
少しの生活費も、お母さんのアルコール代に消える。
病院に行けるお金なんて…。無いんだよ…。
「何か。おかしいと感じる事はある?どこかが痛むとか?」
倉木くんは、また訊いてくる。
「胸と手足が痛いかな…。たまに肩も痙攣する。あとね…。」
そう。胸と手足、肩にも異変がある。これは【呪い】の所為なんだよ…。あの手紙には…。畜生の【呪い】と書いてあった…。
畜生ってね。
サンスクリット語でー。
【横に這っていくモノ】を意味しているらしいんだ…。
元々は悪い行いの結果を指す言葉でー。
【這いつくばって生きるモノ】にー。
生まれ変わる事を指すんだって…。
現在ではー。
【人間に飼育される家畜】を指している…。
私にかけられた【呪い】、調べてみたんだけど…。
よく分からなかったんだ…。どうすればいいの?
「あと?」
倉木くんは優しく訊いてくる。
「声がね…。」
私の声が…。畜生みたいに…。
「声が?」
優しい声。
「笑わないで聞いてね…。倉木くんと私の秘密にしてね。」
私の声は…。獣の唸り声みたいに…。
「約束するよ。」
約束してよね…。
「私の声がね…。動物が唸っているみたいになる時があるの…。」
助けてなんて言えないよ…。こんなにも優しい倉木くんを巻き込む事なんて出来ないよ…。私の不幸は波紋の様に、周りに広がるから…。
倉木くんは…。
何かを考えている様に見えた…。
倉木くんは、誰にでも優しい…。
でも…。
時折、瞳の奥が暗くなる。そんな気がする…。
「本当に大丈夫?」
でも。ほら。また優しい声…。
「うん。」
やっぱり、助けてなんて言えないよ…。




