楚々奔放
「トト、あまりにも哀れだな。その万能さを買われてヨノマリアさんに捕まったばっかりに…。」
「何、流々川ちゃん?言いたいことがあるならはっきり言いなさいね?」
「いえ、言いたいことなど何一つないです。」
そう答えたルルさんの大きな体もまたトト所長のように萎縮して不破さん並に小さくなっていた。元いた四人に戻りお茶会が再開される。ヨノマリアさんを警戒しながら僕にだけ聞こえるぎりぎりの声で耳打ちする。
「さっき来たのはトト・ゲブラハート。この痕跡索組換研究所の“新”所長だ。」
「やっぱり最近就任されたんですね。さっきのシャオリンさんとのやり取りでもそういうやり取りがあったので気になってました。
…じゃあヨノマリアさんは所長の座から降ろされたってことです…よね?でも今のやり取りの感じだと知識やマネジメント能力みたいなのはヨノマリアさんの方が高いように感じましたけど…。」
ルルさんは眉に皺を寄せるともう一段階声を落として話す。
「いやさー…それが問題なんだよな。元々トトは俺の同期で一緒に正暦保全者として活動してたんだよ。今でこそ研究員をやってるがあいつはあれでもまぁまぁ強くて一緒にやった一対一の模擬戦闘では俺も何度か負けたことがあるくらいだしな。
正暦保全者から保全戦闘で必要な痕跡生物や装備品とかの聞き取りをする研究所の会議があるんだが、そこであいつは自分で試作した痕跡生物を持っていったんだよ。ざっくりとした意見を出すことはあっても自分で試作品を作って持ち込んだことがあるやつなんて初めてだったらしくてさ。それが当時のヨノマリア所長の目に留まって研究員にならないか、って誘われて今に至るって訳だ。」
「トト所長が優秀なのは分かりましたけど、さっきも言ったようにそれがヨノマリアさんよりも優れているという証明にはならないような気がするんですけど?」
「そこは箱嵜の言うとおりだ。実際問題、知識も各方面とのコネクションも他の研究員からの信頼もヨノマリアさんのほうが圧倒的に上だ。なのにトトが所長になった理由は…これだよ。」
そう言うと楽しそうにお茶会をする二人を顔で指す。
「こうしてサボるためだ。サボるというか上手に手を抜くというか…どっちも同じか?
当時ある仕事のせいで精神的に追い詰められていたヨノマリアさんは自分の代わりになる人間をずっと探していたらしい。そこへ現れたのがさっき話したトトだったって訳。
サボってるって言っても研究が行き詰まったラボへ気ままに現れては最適解を残して去っていくっていうお忍びで店舗の視察に来たスーパーの社長みたいなことしてるんだよあの人は。だから誰も逆らえないし慕われてるんだよな。逆らえないのは純粋にヨノマリアさんが俺らの一個上の代っていうのもあるけどな。ちなみに知識量って部分で言うと上からヨノマリアさん、一位さん、大きく開けてトト、少し開けて不破って感じだな。」
「不破ってのは一緒にいた小さな女の子な?不破キララって言うんだけど、彼女もまた同じ理由で正暦保全者から引き抜かれた転職組だ。
なんでも新人としてバートンテイルにやってきたときに初めての保全戦闘で組んだのがトトらしくて、その時に意思疎通が取れないってことでさっきみたいに大喧嘩になったらしくて以来ずっとあんな感じだ。俺らからしたら可愛らしい女の子って感じだけどトトの話になるとさっきみたいに豹変するから話すときは注意しろよ。」
密々と話をする私達を意にもかけずリリーさんとヨノマリアさんは会話を続けていた。
「マリアンヌー。そういえばトレイスの人体補充試験ってどうなったの?」
「うーん。トトちゃんやキララちゃん達にも頑張ってもらってるけどあまり進展は無いわね…。」
「って、ボクシーちゃんは何のことか分かんないか!えっとね痕跡索から取り出したエネルギーのことをトレイスって呼ぶのは前教えたじゃんね?それはリリー達のこのトレイス体の中にも溜まってて、それを土地開発とか時の瓦礫を発動するときに使うんだけど、一口にトレイスって言ってもその二つは全然違くてさ。痕跡索から抽出したトレイスとリリー達の中で生成されるトレイスは相性悪いのか分かんないけど上手く混ざり合わなくて取り込んでも飛んでっちゃうんだよねー。
痕跡索から抽出したトレイスをトレイス体に入れることが出来れば、万が一トレイス切れになったとしてもまた戦えるようになるから戦況を大きく変える!ってことでその研究をマリアンヌ達はしてるんだよー。」
「今の試作品ではどのレベルを目指してるんですか?」
「それは勿論全回復…と言いたい気持ちは山々だけれど完成したとしても技をもう一度使える程度でしょうね……。いつか実現したら真っ先に箱嵜ちゃんに使ってもらおうかしらね。」




