櫻ちゃんは重たい
※殺人描写注意
『櫻は重い』
だからいつも避けられてきた。
他人をモノ扱いすることに、なれていた。
私にとって、他人は物なのだ。物でしかなくて、都合よく動いているとしか思ってない。
好き、になると、相手って物に変わってしまうんだと思う。
人権?
そんなものは恋を前にすれば、ないも同然な乙女の特権だと心のそこから思っている。
中学のとき彼氏との間に出来た子どもは、随分昔に、殺してしまった。
ちょっとお菓子を食べさせようとしただけだったのに。
吐いている姿を見て、苛立って「吐くな」って、強く揺さぶったら死んだ。
かわいい姿を見たかっただけなのに、思ったように好いてくれないし、全然かわいくなくて。親なのに。
自分を愛せないその子に、なんの意味があるだろう?
柚月君を見ていたら、そんな頃を思い出してしまう。
あのときから、なにひとつも変わっていない私。
彼が、私にあんな目をするとは思ってもいなくて腹が立っていた。
私の『物』なのに。
ベッドから起き上がるも、そのまま呆然としてしまう。
なんだかんだいっても好きなのは自分自身で、それはわかってる。私は、ただ愛される自分が好きなだけだ。
「朝飯、どうしよう」
パン?ごはん?
パンがなければ……というあの人の話が頭をよぎる。
殺す理由が無いから尾ひれがついたデマとも言われてるらしいから実はいいひとかもしれないけど、歴史って苦手だ。
死んだ人のことを、あれこれ言っても真相なんかわからない。
「私の日常は、パンがなくても、ご飯を食べられる。
柚月君も、私がいなくても、誰かを愛せる……」
こだわる理由なんて、私にしかない。
私じゃなくたって、別に柚月君は生きていける。
私は、彼に、別に居なくてもいい存在だ。
「なんの、価値も……」
愕然としそうになる。
「なんの価値も!! 私は価値を高めたいだけだっていうの!」
柚月君を突き飛ばしたのは私自身。
どんな理由があったって、そういうことが躊躇わずに出来てしまう子ばかりじゃないことくらい、彼も知ってるはず。
机から手鏡を投げつける。
「私を認めないから!!」
はぁ、はぁっ、と荒い息があがるけど、まだ気持ちが収まらない。
「私! なんで私じゃないの!!! 柚月君は他の人とも話せるんだ、そうなんだ!!!」
――――お前はどうなんだ?
「うるさい、うるさいっ、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさああああああい!! 櫻友達居るもん!! たくさん大量だもん!! マジぱねぇくらいいるもん!! ラインに百億くらいいるもん!!!」
廊下に飛び出して、私は叫び続ける。
「櫻友達沢山いるの!! 羨ましいんでしょ!? 羨ましいからそんなこと思うんだ!! ちゃんと私柚月君以外とも話してる!!」
そこは、誰が居るわけでもない、ただの質素な通路。
最近バタバタしてたから、少しほこりっぽい。
「櫻が独占してるんじゃないのッ! 柚月くんが可哀想だから、櫻は率先して、ただそれだけなのに! なんで私を無視するの!! 私の優しさなんだと思ってるの!!!! リアルアカ百億人なめんな!???」
ふんっ! と鼻息を荒くしながら、部屋に戻ると、パソコンからTwitterを起動する。
美少女なので基本的にフォロワーが3000~4000人以上はいるが、いくらかはインコ教関係だ。
「おはよ(´・ω・`)!今日風邪引いたみたい。季節のかわり目は気をつけないと('◇')
朝飯は、○○社の紅茶と昨日作ったマフィンをいただいて、美味~」
カキコミカキコミ。
「うおらぁ、終わったッ、飯食うじょいー!!!」
ハッ。
「朝食の支度をしなくちゃっ!」
思いの他図太い声が出て少し恥ずかしい。キョロキョロしたが、幸いそこにまだ誰もいなかった。
・・・・・・・・・・・・・・・・
おはようございます柚月です。
寮のベッドから眠くて起きられません。
結局僕は櫻ちゃんのお見舞いに行くとはいわなかった。
あそこは苦手なヌシが住んでるからなと笑い飛ばす度胸もなくて、ただ用事があると言って、そのあとも普段通りに一日を終えた僕は、それからも日々櫻ちゃんが居ない毎日だった。
眠い。とても眠いのと、なぜかとてもお腹がすく。
櫻ちゃんが教室に来なくなって3週間。
安心したのか最近一日四食。
五食のときもあった。
おなかがすくと動けないし眠いと動けないし。
なんでこんなに二大欲求がやたらくるのでしょうかね……
食べて、また食べて、お風呂入って寝て……
寝て……
「あぁ。おなかすいた……」
夜まで寝た。
その日は休日だったのもあって僕は盛大に寝ていた。
最近御飯を食べる時間が苦手だ。
作る気がしなくて結局、下に降りてコンビニでパンを買ったけど、猛烈にご飯が食べたい。
「失敗したなぁ」
櫻ちゃんの顔をずいぶん見ていなくても案外平気だな。
なんて思っていたら携帯に着信。
「電気は消したけどギリギリ起きてるので、ノックしてきてね……」
なんて声。
声。
女の子の声
「さ、櫻――」
「今、あなたの部屋にいます」
2019.9.2.19:51