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そういえば、突き飛ばされたんだった

櫻ちゃん! もうやめて! ( ノД`)

理由なんかなかった。強いていうなら、疲れるから。

ノートに向き合う時間が好きだから。

おこづかいを貰わない僕は、買い食いのよさよりも、ノリで無くなった財布の中身を気にしてしまうから。

道の売店の食べ物より、鉛筆やノートを買いたいから。

誘いが、嫌だった。


 慎重過ぎていただけ。まぁ青春特有の、

誰かとノリで無くしていくものが、嫌だったのだろう。

そりゃだから、なくならないように、ノリが悪くなる。

クラス委員長は飲酒して騒いでるのに今日も委員長だった。誰か呟いちゃえば面白いのに。




ぐるぐると、シャーペンが円を描く。



友達を作らないと、

「あいつ周りをばかにしてる」という被害妄想が、よく一人歩きする。


僕みたいなガキが、一人、そいつをばかにしたってなんら世界は変わらないのに。

「おはよー!!」


 平穏が壊れたのはいつから?

少なくともあのノートに、櫻ちゃんが絡むようになってから。


「あ、柚月君、おはよー!!」

個別に挨拶するな。

とも言わない。


「おはよう」


 入学してすぐの頃。

自席から動かず淡々と作業をする僕に、櫻ちゃんはなにが楽しいのか話しかけていた。

だけど、意味もわからないからと僕は態度を変えたりもしない。


「そんなんじゃ、友達できないよ!」


なんて。

『一見良い人』そうなことを言う櫻ちゃん。

を、無視して僕は本を読む。



心のなかは、みんな友達。

相手が思ってなくてもね。

助け合える。

だから、グループだの定期集会には入れないでくれ。

僕は困ってたらちゃんと助け合える。できる範囲で。

「友達なんかいらないよ」

適当なことを言う。

正確には、定期的に会話するのが面倒だ。

定期的に食事するのも面倒だ。

定期的に遊ぶのが面倒だ。

町内会の集まりかっつーの。

 委員長みたいにふざけて酒を飲み合うグループにはなりたくない。


まぁ、そんなとこ。


 ふざけて危険を犯すのを拒絶してるだけ、くらいなこと。

ノリ悪い、真面目君。

なんてナイスな役。


「今ならお安くしておくよ」


「お高くとまろうよ」



独りが好きです感を

演出してるんですがね……なぜ、踏み込むの。


「僕なんかと居たらいじめられるよ?」


いじめられようが興味はありませんが。


「心配してくれるのっ!! 優しいね!またね」


会話を切ろうとすると、さらについてくる櫻ちゃん。

けれど数分で居なくなる。


授業の準備、が時間を区切るから。

この合間というのはありがたいから好きだ。



……


そんな風に近づく櫻ちゃんをかわす日々だったのに、あの日はチャンスを与えてしまった……

まさか、見てるなんて。


 櫻ちゃんは僕に設定を持っているらしい。

 静かで、大人で、目立たないけど好かれたくて一部にしか好かれなくて同性からは嫌われていて影で泣いている。


……そういう者に、見えるらしい。



「私、っ、私だけなのおおお!」



 静かな読書の時間、睡眠の時間、適当に校舎をふらつく時間、泣いているなんてことは無い。

地味な生活を自分に課したんだから。


ふらついて痛む頭で、櫻ちゃんのよくわからない、僕へのキャラ設定を聞き流す――――


「バカなお前


私見つけた


まさにキセキ


独り占めてたい


実はいつも影で泣いてる

まさに私


道化師同士!



みたいな感じだっただろう。あんまり覚えてない。

櫻ちゃんの執着は、妄信的で、正直誰の話してるのかがよくわからなかったりした。

 この話をするとよく、僕が悪いと言われる。

もっと自己評価が高ければ、僕のことを言うな!と言えたんでしょう。


 だけど、僕は人から直接誉められたことがほとんど無い。

たとえば頑張った成果があっても「ふーん」と言われてしまう人柄。

こんなやつが!

といじめの標的になるだけの弱さ。


まさかそんなキラキラした可愛いげが、僕にあるようにはとても欠片も共感出来ないのだから冷静に自分とは思いもよらない。








周りの表情以外では、僕は、まるきり、気づかなかった。

あまり誉められたりしていなさそうな人が、気付くことなど、無謀に等しい。


 クラスメイトは、櫻ちゃんに好かれているという表面的な妬みで、

僕を見殺し、売った……誰一人も信用出来ないクラスなのです。

ある意味、永遠に(櫻ちゃんに絡まれる以外は)一人を手に入れたけど。



「櫻ちゃん、僕は、もういいから、離れて……」




 永藍さんだけは理解者だ。

こんな話しかけにくいなかで、普通に話してくれる。


だから巻き込んじゃだめだ。

なんだか泣きそう。


「僕のこと……櫻ちゃんはまるでわからないよ」


 投げ飛ばされたことを思いだして起き上がり、櫻ちゃんをにらんだ。

足をくじいたらしくて少しよろけながら歩いた。

櫻ちゃんは必死に、ごめんねごめんねと言う。

謝罪には聞こえないような、むしろ単なる媚びなような。

なにもかもが不快で、僕はついてくるなと言った。


全部が悪いわけじゃないか。

こんな状況でも、話しかけてくれるなんて。

どれだけ特別なのか。

永藍さんのことを考えたら胸が暖かくなる。

クラスのやつらには出来ないことを、簡単にしてくれた。


パンダを思い出した。

 パンダは肉食でもある。だけど、戦いに負け消化に悪い笹を食らうしかないと誰かが言ってた。

嘘かホントかはわからないけど。

人間もみんな『笹』を食べて生きているのかもしれない。




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