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ゲーマー鏡子ちゃん


マッサージはだいじだよー_(:3」∠)_


『しんぞうさんにまっさーじ』を読んでいるだけでぼくはかなりプレッシャーを受けているっ。


鏡子ちゃんは、なかなか来ない!!

櫻ちゃんは舌打ち。

しかしすぐスマイルに!


「柚月くんがそーうなる場面にもし遭遇したら、ドラえもんみたいにどこでもドアでかけつけるねっ」

要らない。

超いりません。

いや、でも死にたくない。うーん。


「あ。


私たちの人工呼吸よりもまず、鏡子を圧迫するのが先かなー? あのメス豚」


櫻ちゃんの目付きがガラリと変わる。


鏡子ちゃんの居場所がわかれば、来ないようにサポートに回れるのに。


それだけでも確実に救命率が上がるはずだ。

呼ぶだけで終わり、ポジティブな方向に流れて欲しい。


戸惑っている。

誰かが動き出せば、連係出来る。

だから、早く誰か!

鏡子ちゃんが来ない、

いや、来て欲しい!

panic!!?

あと1、2分したらこっちが失神しそう……


一人でいい、申し送り要員がほしい!

でも。

助けがもし来ても『しんぞうさんにまっさーじ』を読みながら状況説明は相当苦しい。しかし説明できないとわかって貰えないだろう……

確実に生存率が上がる方法はないものか。


 もし逃げることができなかったら、せめて上着とかで櫻ちゃんに目隠ししてる隙に逃げられないものだろうか。



 頭によぎる深夜アニメ……

 本の次のページをめくるとウシを引き連れた新米刑事がしんぞうさんをマッサージしてる絵。

すげえ話だなおい。


 いや、ちがう現実的に時間を稼がないと。

できる人が多いのは救命率向上につながるわけで……


「し、しんぞうさんにマッサージ。


やれる人が多くて交代しながらが一番なんだ。


きみも、しようよマッサージ」


涙目で読み上げるぼく。

「ああ、いい声。食べ物の匂いとかじゃ感じないのに、柚月くんの声だけなんだよなー なんなんだろう? この感情に名前はないのかしら……


道すがらにいろんなとこから洩れてくる、柚月くんの会話や、ひとつずつ音、それから持ち物の匂いをかぐと、この世界に存在してるのは、私独りだけじゃないって、不思議な安心感を覚えるんだ。


私だけが柚月くんを求めているわけじゃないっていう、共犯者みたいな、なんて、例えが悪いかな。ふふ。



鏡子に共感を求めたら「まったくわからない」ってぶったぎられたんだけど、変よね……?」



変です!

はい、変ですから、だから解放して!!


と言えればいいのだけど、生憎そうはいかないのだ。


「ねえ、櫻ちゃんは、今楽しい?」


「楽しいよ? だってだって柚月くんが、居るから」

ぼくはそうでもない。帰って寝たいな、なんて口が避けても言えない。

「婚約者が居るのに浮気してたと思ってたでしょ、そりゃ言い寄る人はいるし……不倫みたいになってて、謝ったりもあったよ。

でも、自分からは無いのよ!」


「はぁ。でも櫻ちゃん、独占欲強そうなのに、よくそういうの我慢したね」


「相手はねー黙らせたから」


!?


「じゃなかった。お金渡して穏便に裁判を揉み消したの」


「櫻ちゃん、それ実質謝ってないよね」


「どんな相手だったんだろうなぁ……なんかよくわからないけど!」


謝るどころか赴いてもない疑惑。

ぼくが唖然としているのに気が付いてないみたいで、櫻ちゃんはにっこり。


「奥さんには申し訳なかったね。

まあいいの、あんなクズ。寂しかった柚月君のために、今日は一日一緒だよ!」


「お、おう」


「あ。櫻ちゃん……なにを持ってるの?」


 ふと見ると櫻ちゃんの手元には小さめの手帳がありました。


「んー?柚月くん日記~。えへへ」


見たい?

と可愛らしく微笑む櫻ちゃん。


「前の方のページ、なんか汚れてるみたいだけど」


ぼくのことを書いた部分より前の方は、なんだか、赤黒い染みがべたりとついていました!!


絵の具かな。

絵の具でしょ。


そのタイミングで、誰かが教室に来る音。


「あ、鏡子かも!」


ぱたぱたと慌ててそちらに向かう櫻ちゃん。

僕の手元に残った手帳がはらりとめくれ……


るり子るり子るり子鏡子ウザい鏡子ウザい鏡子ウザい鏡子ウザい鏡子ウザい……(略)


とかなんとか羅列された血塗られたページたちがかいま見えた。

ヒイイイイ!


穏便に謝るような人がこんな邪念の籠った物を書くとは思えないけど。


(クズ男、よりも扱い酷くない?)

み、見なかったことにしよう。

「あ、ごめん、おまたせ」

 少しして、櫻ちゃんが戻ってきた。

さっきなら隙を見て逃げ出せたのに。

 本当に、馬鹿な自分を思い知らされる。


「……よし、この個数差なら黒は9個位回収できる筈だ……いけっ!」


ゲーム機片手に、鏡子ちゃんも入ってきた。

肩までの髪をした華奢な、クール美人だけどゲーム好きだ。


「鏡子、柚月君と遊んでるの、ゲームしてていいから居てくれるよね?」


櫻ちゃんが彼女を揺さぶると、ゲームオーバーらしき音がした。


「櫻ちゃん。無念。

他が使わないであろう武器でそれっぽくというのは失敗だったようだ……クッ」


横長いゲーム機を抱えてわけのわからないことをいう鏡子ちゃん。


「ずっと作業ゲーしてると眠たい…ちょっと脳筋してこようかな。しかしこれ、先月、引き継ぎに関するお問い合わせを出したけど未だに応答が無いんだよどう思う。

順番待ち状態なのかはたまた残念、諦めろということなのか」


「こんにちは、鏡子ちゃん」


ぼくは慌てて挨拶。


「ああ、柚月君。引き継いでスタートできたら、遺跡内部の背景が描かれるシナリオが見られるらしい……ますます欲しくなるが、肝心の入手方法がわからないんだ」




・・・・・・・・・・・・・・・・



「それは、すごいね」


「はうっ、達成報酬が牛……!

大きい。これで、実は30位以内報酬なのだとか言われたらもう何も信じられない……っ」


「柚月君、鏡子はこんな子だけど、よろしくね」


櫻ちゃんに言われ、ぼくはうなずきました。

 正直櫻ちゃんみたいなのが二人居たらキツいなと思ったのが本音ですが。鏡子ちゃんなら安心です。

 カチカチカチと、ボタンを連打する音のなかで、ぼくは「しんぞうさんにまっさーじ」を読みます。

「待つのはいいが。

5時には、宇都宮へと受け取りに行かなくてはならないんだ。広田さんが鷹潭(インタン)から帰ってくる……!」


「受けとりって、広田さん荷物?」


櫻ちゃんがクスクス笑います。


「にたようなものだよ」

クールな鏡子ちゃん。


「いんたんって?」


「中国華東地方、チヤンシー(江西)省北東部の、(シン)江中流あたりにある市だ」


 はぁ……

とよくわからない表情を浮かべるぼく。

まあいいよ、と言う鏡子ちゃんでした。

本を開こうとしていると、彼女は言います。


「柚月くんさぁ……私と友達になりたい?」


――――え?



「私、話の成り行きで「友達」と言われるのは嬉しいんだけど……

友達になろうとか「友達だよね!って言われるのは苦手なんだ。

恋人だってそうだよ。

言葉で縛る関係って結局薄っぺらいような、心でお互い友達だと思ってたらそれでいいじゃないかって思ってしまうから」



「柚子月君になんてこと言うの!」


ばん、と強く机を叩いたのは櫻ちゃん。


「別に。そんなこと、ないよ……大丈夫、櫻ちゃん。鏡子ちゃんの言う通り、だね」


櫻ちゃんはなぜか納得いかなさそうな目で鏡子ちゃんをにらむ。


「私は、暇は感じても寂しいって思わなくなってしまったんだ。

多分深入りしないからかな。人を心から信用するのって怖くない?

友達って言葉で信用が成り立つのも変に思うけど自分だけ、相手のこと好きなのではないかと相手を信用出来なくなることも事実で自分でもどうなりたいのかわからなくなるというか……」


鏡子ちゃんが眉を寄せて補足したので、ぼくは言う。


「ま、周りに人がいてくれる環境なら大事にすることに越したことないよ。ねえ広田君って、どんな人?」



「あの人は……私の中で複雑で言葉にするのは難しいな」


とにかく、とても大事な人なんだろう。


「柚月くんは私のものだからね!!」


櫻ちゃんが主張する。

ぼくはぼんやりしていた。



誰かのこと考えるのは疲れる。

だけど相手のことを好きで考えてしまう気持ちは嫌いじゃない。

自分が逆の立場でいろいろ考えて貰えるのは嬉しいから。

まあ、ヤンデレじゃなかったらなあ。

さっきの血まみれ手帳を思い出してしまった。


ぼくは他人にもっと興味が持ちたいし好きになりたいけれど、櫻ちゃんたちとの距離感は、ほんとうに難しい。


「柚月くん、気を悪くしたならごめんねっ!!


私はね! 人の気持ちはなかなか信用できないけど、セールスマンとか他人の言葉はやけに素直に信じてしまう性格なんだよ。他人だから信用して裏切られても大してダメージがないからかなぁ~」



櫻ちゃんの気持ちって普段はよく分からないけどこうやって話をきいていて分かることがある気がする。

「ふうん……そうなんだ、ぼくは、そうでもないな」


わいわいと話しながら、ふと、不思議な気がしてきた。

鏡子ちゃんもいるし、

櫻ちゃんには、友達が大勢いるのだ。




なんで、陰キャラに近いようなぼくなんかに、話しかけたのだろうか。





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