勇者との会話
「よい、堅苦しい挨拶は今は不要だ。そんなことができる体でないのは、お前がよくわかっているだろう」
「…あ…ありがとうっ…ございますっ」
…根っから何かが染み付いておるな…
…恐怖…か?
「…話はできるか?」
「…はい」
「聞きたいことがいくつかある。何故、そのような状態なのだ?」
「…こ…これは……」
「……あえて言うが、嘘をつかぬことだ。ここにいる者達は皆優秀だからな、既に過度な栄養失調に加えストレスをかかえているのは把握している」
多少脅しになるが…こればかりは致し方あるまい。
「…」
「…答えられぬか?、ならば質問を変えよう。他の勇者パーティーはどこにいる?、この付近を探したが見つからなかったのだが」
「………皆とは……別れました……私1人です…」
「…ほぅ……なら何故1人で…この国に…いやっ、この地に来た?。つい最近、東の地の魔王を倒したはずだが……なぜ、勇者1人で遠き我が国に来ているのだ?」
それに、付近に厄介なモンスターがあらわれた等の報告はない。
「………わ…私は……」
「……」
「……っ……わ…ッ…」
「…すまん、急ぎすぎたようだな」
「…ぇ…?」
「今はゆっくり休むといい……ここには敵はおらん」
俺はそれだけ言うと、その場を後にした。
これ以上、話を続けるのはやめたほうがいいからだ。
まさかここまでとは…な…
「…我が王よ」
廊下を歩いている最中、ミランダに話しかけられた。
「…何だ?」
「…お気を確かに…」
「…すまん」
苛立ちで声が低くなっていたか…俺もまだまだ未熟だな…
「……当たりでございますか?」
ミランダが問うてきた。
何についてかなど分かりきった事だ。
「…残念ながらな」
勇者の行動や表情から確信した。
具体的な内容は不明だが、かなり辛い目にあってきたのだと…
「……虐待か…はたまた道具として使用したか……何にせよ、民を守るべき国のやる事ではないなっ…」
自分の事ではないのに、口にするだけで吐き気がして仕方がない。
「…如何いたしますか?」
「…どうもせん…と言うのはあれだが、どうできるものでもないからな」
まったくもって気にいらないが…
結局は他国内での話だ。
俺がどうこう言える立場ではない。
下手に手を出せば、過剰な他国干渉と捉えられ、最悪戦争の引き金になるかもしれん…
…俺の国の民に手を出したのなら話は別なんだがな…
「…ひとまず、勇者の回復が優先だ…どんな理由があるとしても、目が届く範囲で死なれても困るのでな」
「かしこまりました」
「うむ。では、この件はここまでだ。俺は仕事に戻る」
話を区切ると、俺は執務室へと向かった。
…そういえば、また大量の書類が山のようにあるんだったな………
…勇者の事を考えていたから忘れていた…
このまま思い出したくなかったぁ…