勇者への考察
「…すまんな、ミランダよ。既に仕事は終わっておると言うのに」
「構いません。私は自ら王の補佐として、時間を使っているのですから」
「…まったく、よくできた女よ。嫁に迎える者は、幸せ者だろうな」
「…よ…嫁っ…///…それに幸せっ…///」
「……ミランダよ」
「はっ…はいっ…!///」
「…あの勇者…何故あれほど衰弱していたと考える?」
「………そうですね…………しばらく何も口にしていなかったんだと思いますね…ですが2点ほど気になる点があります」
「…金を持っていたことと、持っている量が明らかに少なかったことか?」
「…えぇ、その通りでございます。いくらでも、理由づけは可能ではありますが……」
「……本人から聞くしか、真相はわからなそうだな…」
有力な可能性としては、勇者もしくはパーティーメンバーが、金を散財した可能性…
勇者パーティーであろうと、結局は人間の集まり…
聖人君子ばかりではないだろう。
しかし、それならば国へ支援を申し立ててみたりモンスターの素材を換金すればいい。
勇者パーティーならば、それが可能なのだからな…
仮に、既にもらっていたとしても、あの衰弱ぶりはげせない…
国からの支援ならば、たかが勇者パーティーメンバー達が作った借金ぐらいすぐに返せるだろう。
国の財とはそういうものだ。
それこそ、東の地の魔王を討伐した褒美にでもねだれば良い。
魔王討伐の報酬など、一攫千金という言葉では生温いほどなのだからな。
…しかし、どうしても勇者の過度なストレスがつながらん…
衰弱するほどのストレスを感じるくらいならば、そもそも散財などしないだろうし…
勇者が壊れてしまうほど、立場に負担を感じていたのなら代役を立てれば…それも国が対応すべき…
…
……
……いや……
…前提が異なるのか…?
あくまで勇者パーティーが借金をした過程で進めてきたが……
国からの支援が、そもそもなかったのならばどうだ?
「…ミランダよ、あくまで仮定の話として捉えよ」
「はい、我が王よ」
「通常、勇者パーティーは国宝に等しい。強大なモンスターを討伐し、世界のバランスを整えるために集められた精鋭なのだからな…そんな勇者パーティーに十分な支援を行うのは当たり前と言えよう」
「はい、間違いはないかと」
「うむ。では、その勇者パーティーに支援を行っていなかったとすれば?」
「…はい?」
「勇者パーティーがいること、モンスターを討伐することを当たり前だと思っていた場合、支援をすることはないだろうな。何せ、勇者パーティーとして責務なのだから、金なぞ払う必要はないとな」
「…お待ちを、我が王よ…つまり、国自体が勇者パーティーを軽視していたと?」
「あるいはさらに酷いかもな。事実と前提を照らし合わせた際、矛盾が生まれるならば前提が間違っているのは必然だ。“勇者パーティーほどの存在ならば、国から支援が十分に行われる”という前提があるから、様々な憶測がでてくるが…“国からの支援が十分に行われていない”となれば、話は変わってくるだろう」
「…過度なストレスもそれが原因だと?」
「さあな……そこの部分は憶測がはいってくるから答えを出せんが……現時点において、勇者パーティーが借金まみれみたいな話は聞かんし、東の地の魔王は討伐されたばかりだ……予想外な事態はあるだろうが、勇者パーティー…少なくとも、勇者に背負えぬほどの…なんらかの負担をしいていたのは事実であろうよ」
「……」
「まぁ、あくまで仮定の話だ。事実は勇者が目覚めてからで良い……ミランダよ」
「はい」
「国の周りに捜索隊を出せ…もしかすると、他の勇者パーティーもおるかもしれん」
「かしこまりました」
ミランダは俺に一礼するとすぐさま仕事に移った。
……
……あっ…そういえば…今日の仕事は終わらせたんだった……
すまん、ミランダよ…