幼き聖女との対話
「……」
さて…どうしたものか……下手に刺激するのは…まずいか…
…ふむ…となると…
「…シスターエボラ…あの子の名は?」
「リメラという名です」
「…あの子は、修道院の…?」
「…はい……数年前に発生したモンスター達のスタンピードで壊滅した村の子です…」
「…なるほど…あの時の…」
思い出すのも苦痛となる記憶が呼び覚まされる。
「…覚えておいででしたか」
「馬鹿を言うでない…他国ならまだしも、我が国内で発生した事だ…知らないはずがないであろう」
忘れたくとも、忘れられるものではないからな…
「…申し訳ございません…」
深々と頭を下げて謝罪するシスターエボラ。
どうやら、踏み抜いてはならない地雷の一つとでも思われたようだ。
…いや、別に気にしてはおらんのだが…
…ただ、喜んで懐かしむような記憶ではないというだけだ。
「…あの子と話せるか?」
「…可能かと」
少し考えたあと、シスターエボラはそう答えた。
ならば、第一関門は突破だな。
「…では、シスターエボラよ。すまぬが、“聞いてきて”はくれまいか?」
「はい」
そう返事をすると、シスターエボラはリメラに近づいて行く。
シスターエボラも、こちらの意図を汲んで動いてくれるからな…かなりありがたい。
「…ルドラ王、1つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
ひとまず、結果次第かと考えていたところ…
不思議そうに、ちびっ子…もとい、マーレが話しかけてきた。
「ん…何だ?」
「…いやその……浅知恵で申し訳ございませんが」
…はぁ…堅苦しい…
…相手が相手なだけに、礼儀が必要なのは認めるが…子供がそんな難しい言葉を使うでない。
「だから、そういうのはいいと申したであろう。普通に話せ」
「…ぇ…えぇとっ…」
困惑した様子で、マーレはルキアーナの方を見ていた。
やはり、いくら本人が許可したとしても相手は王族…
というか、王その人…
どうやら、こちらが何と言おうと、マーレからしたら気安く話すというのは抵抗があったようだ。
いや、そもそも…俺のように気軽に話して欲しいなんて言う王の方が稀なのだろうがな…
そういう意味では、最初は暴走したものの、ちゃんと歳のわりに線引きができているマーレは優秀だと言えるだろう。
…しかし…
「…まぁ、ルドラ王がこう仰っていますから」
「「「…」」」
…あきらめろ、マーレ…
聖堂教会内ではどんな振る舞いをしているか知らんが、ルキアーナはこういうやつだ。
…
そう考えると、マーレが苦労人に見えて仕方ないな…
主人であるルキアーナは別に構わない派であり、他従者達もめんどくさい事に巻き込まれたくないからか申し訳なさそうに目を逸らされる…
…まぁ、気持ちは分からんでもないがな…
「ぁ…ぅっ……はいっ…わかりまし…た……で…ですが、多少の敬語はご容赦を……」
「…俺としては別に構わんのだが……まぁそう言うなら…」
とりあえず、妥協点はここらだろう。
…というか、これ以上押し付けてはマーレが可哀想だ。
「……で…ではルドラ王…その…先程の…別に確認など必要なかったのでは…?。王なのですから、普通に話しかけに行っても…」
…ふむ…やはり、よく頭の回る子だ。
マーレの疑問はある意味間違いではない。
王という存在は、国のトップ。
聖堂教会内ような組織ならともかく…
聖女としての価値を求めていないのであれば、リメラは村娘と何ら変わりはない。
ならば、変に気を使わなくても良いのではと思うのは自然の理だ。
だが…
「…そういうわけにもいかんだろ。あの子は今遊びに夢中だ…それを邪魔するのだから、相手が誰であれ確認は取るべきだと俺は思うが?」
「…」
またもや唖然としていた。
…何かおかしなことを言っただろうか…?
「…ふふ…マーレ、ルドラ王はこういう人なので」
「……ん?……別におかしくはあるまい。緊急時ならともかく…人として守らなければならないマナーを守っておるだけだ」
「流石、“平凡王”様ですねぇ」
「…あまり関係はないと思うのだが……はぁ……むしろお前に関してはもう少しマナーを意識してもらいたいものだがな…」
「あら、私はいつも守っておりますわよ?」
「馬鹿を言うな…ズカズカと俺の執務室に入ってくるではないか」
「それは、ルドラ王に対してだけですわ」
「…はぁぁ…お前は変わらんな……」
「…そういえば、ルドラ王はルキアーナ様と古い仲なのでしたね…」
「…ただの腐れ縁だ…」
「いえ、婚約者です」
「えぇいッまだその話を引きずるかッ……はぁ……何故昔そのような…後にめんどくさくなる……いや、現時点でめんどくさい約束を…はぁぁ…」
俺は、頭に手を当てため息を吐いた。
「その反応は些か傷つくますよ…もしかして、あの東方のお姫様の方が良かったのですか?」
「…たわけ、あっちはあっちでめんどくさい……とにかく、俺は結婚なぞに興味はない……いずれは考えねばならぬかもしれんが…今は山のように溜まる書類を片付ける方が先だ……まじで無くならんか…アレ…」
「…ふぅん…」
「…ルキアーナ様…?」
不思議そうに、首を傾げるマーレをよそに…俺は言葉を紡いだ。
「………まぁ……後そうだな……段階は踏んだ方が良かろう」
俺は、頭から手を離すとそうつぶやいた。
「…へ?…る…ルキアーナ様との仲をです…か?」
…はぁ?
何故、ルキアーナとの仲が出てくる…?
「…何を言っておるのだ……リメラの事よ……其方達は…“どこまで見えておる?”」
「…へ…?」
何を言われたのかわからず、マーレは首を傾げた。
…やはり、見えておらんのだな…
…他の従者達も同じか…
「…まぁ…そうやすやすと見えるものではないが……」
「…えと…いったい…?」
「…マーレ、それに皆にもあとで説明します…ルドラ王、どうやら」
「うむ…」
タイミングよく、シスターエボラが戻ってきた。
「お待たせいたしました。大丈夫との事です」
「すまぬな」
「いえいえ……ほら、リメラ。ご挨拶を」
とシスターエボラが、下を向いて話しかけた。
「……こ……こんにっ…ちわっ…」
とりあえず、まず一言…
ただ、驚かされた。
シスターエボラに抱きつきながら、怯えたように挨拶をした子が…
先程まで楽しそうに遊んでいた女の子と同一人物とは思えないほど…
警戒心を露わにしながら挨拶をするリメラがいたからだ。
「…」
俺は少し眺めたあと、ゆっくりと膝を下ろし…
リメラと目線を同じにした。
「初めまして、リメラ……急な呼び出しに応じてくれて感謝する。俺はルドラ……一応この国の王だ」
「…は…はじめましてっ……王様っ…!。…し…シスターエボラから聞いていますっ…」
「…挨拶がきちんとできて偉いな…」
俺はそっと頭を撫でようと手を伸ばす…
が、やめた。
なぜなら…
「…ッッ…」
「…すまんな、怖がらせてしまったか…」
こんなにも震えた様子で、こちらを見て怯えておるのだ…
…やめるのも当然であろう。
…
…しかし、この怖がりよう…
…かなり傷は深いのだろうな…
「……ただ話をしたいだけなのだ…其方の”友達”の事についてな」
「…と……友達…?」
「…さっきまで、其方が一緒に遊んでいた“精霊達”の事だ」
「…きらきらちゃん達の…事?」
「…ほう、きらきらちゃんと言うのか」
「…きらきらしてて…綺麗だから…」
「…そうか…」
「………王様も見えるの…?」
「あぁ」
「……」
「信じられぬか?」
「…他の子は見えなかったから…」
「…彼らは特別な存在だからな…そう簡単には見えぬのだ」
「…王様だから…特別な存在…?」
「…そう言われると反応に困るな……答えになるかはわからんが……彼らが友と認めてくれたから、特別なのだ」
「………本当だね…王様の周りにもきらきらちゃん達…いっぱい集まってる…」
そう言われ視線を周りに向ければ、精霊達が周りに集まっていた。
俺の肩に乗ったり、側に座ってこちらを見たりしている…
…周りを埋め尽くすほど…沢山…
…いくら、精霊達と契約した俺といえど、ここまで集まられた事はない…
…つまり、この見た事ない現象の理由は、リメラがここにいるからだ。
「……其方は精霊達にとても好かれておるのだな…」
「…みんな…大切なお友達だから…」
「…そうか…それは良い事だ……リメラよ、いつから彼らと友達になったのだ?」
「…ん?」
「…普通は彼らの事は見えないのだ……だから、彼らと友達になるのは難しいて…何せ、見えないからな…だが、其方は彼らを見ることができた…それはいつ頃の話しかわかるか?」
「……」
「…覚えておらぬか…?」
「……話しちゃダメだから…」
「…何故…と聞いても良いか?」
「…」
言いづらそうな表情を浮かべると、シスターエボラの服に顔を埋めたリメラ……
…話してはダメ…ときたか…
…
…となると…
「…リメラ、最後に1つだけ……話してはダメというのは、誰かとの約束か?」
「……うん」
小さく…だが、確かにはっきりと頷いた。
…なるほど……であれば…
「…そうか…すまんな、話してはダメな事を聞いてしまって…」
そういうと俺は立ち上がった。
「…シスターエボラよ、後で修道院に菓子を持っていこう。貴重な時間を邪魔したお詫びだ」
「…ふふっ…ありがとうございます」
「………では、戻るとするか」




