勇者の容体
「…こちらですッ」
アーリャに案内されて、病床に来てみれば、そこには衰弱した女性が横になり、何人かが看病していた。
「…間違いございません。お会いするのは初めてですが…勇者ユーリ様でございます」
ミランダは人相と持っていた聖剣を確認した結果、勇者だと断定した。
「…他は?」
「見つけた時は勇者様お一人だったと…」
勇者パーティーは、勇者1人ではなかったはずだが…
…なら、他はどこに?
何より、一番気になるのは…
「…これは王よ、慌ただしい中が挨拶できず申し訳ございません」
「…急を要するのだから不要だ、シスターエボラよ」
現れた老婆は、この病床の責任者でもあるシスターエボラ。
医学の知識もあり、治癒魔法も使える貴重な人材だ。
本来なら、聖堂教会から派遣されて来る者が責任者としていたが、俺はその制度を廃止した。
なんせ、送られて来る者の質が悪いのだ。
先代の王である俺の父もそのことで悩んでいたが、まだマシな部類の人材だったから廃止まではしなかった。
だが、代替わりの際、軽く試験をしてみればどれだけ無能であるかがはっきりしたので送り返してやったわ。
その時に目をつけたのが、小さな病院を営んでいたシスターエボラだ。
同じように試験をしてみればまさかの満点合格…
ある国の小さな病院で働く女性と、聖堂教会本部で教育したはずの男になぜこれほどの差が生まれるのか…
まぁ、わかりきったことだがな。
「シスターエボラよ、この衰弱ぶりは?」
「…栄養失調…さらに目の隈から極度のストレス状態にあるのではないかと」
「極度のストレス…」
勇者パーティー…しかも、勇者という立場ならかなりほ重圧がかかるのは理解できる。
だが、この衰弱ぶりは予想以上だ。
それほどまでに重圧が凄まじかったか?
それとも、極度の小心者か?
…そうだとしても、この衰弱ぶりはおかしいであろう…何故、ここまで…
「…容態は?」
「衰弱が酷かったですが、活力剤を元に体力回復をしております。余程の負荷がない限り死ぬことはないでしょう」
「そうか…シスターエボラよ。そして、働き手達よ。急ではあったが、迅速丁寧な対応感謝する」
「…もったいなきお言葉でございます」
「褒美はまたおって与えよう」
「…王よ、お気持ちは嬉しいのですが、当たり前のことをしただけでございます」
「わかっておる。それがお前達の仕事だからな。しかし、何事もやって当然だからと割り切るのもおかしかろう…さらにいえば、此度は急な対応の中での治療だ。少しばかりでもその労を労っても悪くはあるまい…それに、良き働きに対して良き褒美を出す事で、次へのやる気を促すという思惑も込めておる」
「…王よ、それは秘密にしておくものですよ」
「たわけ。こうでも言わんと、納得せんだろう…あと、この際だ。これまでの報酬もだな」
「受け取りませんよ」
「…はぁ……シスターエボラよ。あなたの功績を考えれば、司祭や神官にすら生温いのだが?」
「私は生涯シスターがいいのです。それに、人に教えを説く立場なんてものは、私には務まりません」
「…急な流行病に加え、犯罪者達の会心活動…さらには、災害時の的確な指示出し…これだけの事をして不相応など…ならば、どんな人材なら可能だと言うのだ…まさか、教会本部にいるような人間とは言わんよな?」
「…ふふ…もしかしたら、該当する方がいるかもしれませんがねぇ」
「ふん、五十歩百歩程度だろう。少なくとも、我が国の基準ではだがな……はぁ………ならば、教会や病院への寄付金として用意しよう。清掃費や修繕費、さらには研修費など教会の教えに触れぬ程度でな、ミランダ」
「かしこまりました。案が纏まり次第お持ちいたします」
「ありがとうございます、王よ。そしてミランダさんも」
「…ふん…勇者が目覚めればすぐに知らせよ。…何があったか…直に聞きたい」
「はい、かしこまりました。ですが、心理状態が危険な場合は…」
「そこの判断は一任する。休ませる必要があるなら休ませてかまわん」
「かしこまりました、王よ」
そう言い、俺とミランダは病院を後にした。