聖堂教会からの火種
「……」
「って、わけでぇ〜。エリクサーをドバドバッとね!」
翌日、執務中に部屋に殴り込んできたマデリーアが死地回復のための案を聞いていた。
というか、いきなり入ってきたかと思えば、紙芝居みたいな舞台を無言で組み立て出してプレゼンをし始めたのだが…
その名も、“エリクサードバドバ大作戦”…
…まじか…おい…
とりあえず、頭が痛い…
「て感じでどうよ〜!?」
自信満々にプレゼンを終えたマデリーアのドヤ顔…
「…いや……どうよと言われてもな…」
「ん〜?、なんか問題あったぁ〜?」
「…問題しかないであろうっ……エリクサーがどれだけするか知っておるのかお前はっ…」
「え〜と…大体1本1000万ジェネぐらいかなぁ〜」
「それを数万本とかお前馬鹿だろ!?」
「だってぇ〜広大な土地に対してエリクサー1本じゃ雀の涙にも満たないくらいだし〜、てかもっと量を多くして欲しいよねぇ〜」
「…それだけ希少価値が高いと言うことだ……量産なんてできるなら、その技術にどれだけの価値があるかっ…………はぁ……しかし、エリクサーか…」
呆れが嵐となり、頭の中で盛大に暴れているが……希少価値の高さに目を瞑れば、案外悪い案ではないのかもと思えた。
「私としても、アプローチとしては間違ってないんじゃないかなぁって思ってるよ〜。てか、そのレベルのアプローチくらいしか残ってないってのが本音だけど〜」
「……」
エリクサー…
ありとあらゆる病気をたった一雫飲むだけで、治癒することができる滅多に出回らない万能薬だ。
確かに、エリクサー程の薬ならば効果がありそうだが…
「…そもそも1本手に入れるのすら難しいというのに……この案は却下だ」
「えぇ〜!?そんなぁ〜」
がっくり…という表現が似合うほどの落胆ぶり…
こやつ…パントマイマーの才能もあるのだろうか…
「だが、案としては悪くない。何とか代用品になりそうなものはないのか?……馬鹿みたいに金がかからないのなら、こちらも資金は用意できるが…」
「んんぅ〜…精霊との親和性が高い効力が高そうな薬とかないかなぁ〜って探した結果のエリクサーだからねぇ〜………やれるとしたらぁ〜、後は純度の高い魔石とか魔草とかぁ……でも、魔石がそもそも土地に対して使えるのかわからないしぃ〜、魔草は微弱な力しかないから、ほんとっ大量に用意しないとねぇ〜」
「……なるほどな…」
代用品は代用品で問題ありか…
「まぁ、ちょっと考えてみるよ〜」
「…すまん、頼む」
「いいっていいって〜。そのかわりぃ〜、上手くいったらそれなりのご褒美を」
“コンコンっ…”
「失礼しますっ…」
と何かをねだろうとしてきた瞬間、扉をノックする音がなり、ミランダが入ってきた。
その様子はどこか、慌てている感じだった。
「…どうした、ミランダよ?。何やら慌てておるようだが…」
「ミランダさん、どうしたのぉ〜?」
「…我が王よ…こちらを」
「ん………これは…」
急ぎ足のミランダから渡されたのは、聖堂教会の判子が押された封筒だった。
しかも、“教会の判子”がな…
つまり、この封筒の中身は聖堂教会から送られてきた正式な書類に他ならない。
「…おおよその見当はついておるが…」
封を開けて、中に入っていた紙を読む…
「…やはりか…」
「…教会からは何と?」
「…精霊の愛子を迎えにいくから用意しておけ…とのことだ」
なんともまぁ…
聖女を連れて行くことを前提とした文面だな…
「…相変わらずだねぇ〜聖堂教会は…」
「神の言葉は絶対だと、信じてやまない宗教団体だからな……大方、精霊の愛子が誕生したと神託があり、ならば迎えに行かねばと張り切っておるのだろう」
「…うわぁ〜…ありえそ〜…」
「…いかがいたしましょう…?。我が王は探さないと申しましたが……すぐにでも聖女を探すように…」
不安そうにこちらを見てくるミランダ。
「……はぁ……放っておいて良い」
「…え…?」
「放っておいて良いと言ったのだ」
「…よ…宜しいのですか?……教会からの正式な書類ですが…」
ミランダが言わんとしていることは理解できる。
相手は大陸内で巨大な組織の1つである聖堂教会…
いくら、国相手では無いとはいえ…そう易々と無視できる相手ではないと考えているのだろう…
まぁ、その通りなんだが…
でも、だからと言って従う気もない。
「この国の王である俺が必要ないと判断したのだ。それを教会如きに覆させるわけなかろう」
「わぁ〜王様かっこいぃ〜」
「ふっ…そうであろうっそうであろうっ」
「よっ、世界一〜」
「うむっ、それは言い過ぎであろうっ」
「…我が王…ですが……」
「……はぁぁ〜…ミランダさんは頭がかたいねぇ〜」
「…これはかたいとかそういう問題ではっ」
「…ミランダよ、言いたいことは分かっておる。聖堂教会といえば、各国とのつながりが非常に強い宗教組織…それなりの対応をしておかねば、痛い目を見ると言いたいのであろう?」
「…その通りです」
「…まぁ、安全をとるなら今すぐにでも聖女を探しだし、教会からの使者が来た際に、引き渡すことはなくとも紹介ぐらいする準備は整えておいた方がいいのかもしれんが………だがそもそも、聖女に選ばれたからといって教会にて紹介する義理も道理もない」
「…まぁそれは……ですが…」
「ん?…ぁぁ…国の経済については心配せずとも、十分に内部循環出来る…それに、幸いな事にこの周りは資源が豊富だからな…危険はあるが…他国からの供給がなくとも何とでもなる」
「…そういった面の考慮はわかっておりますがっ」
「話は以上だ…少し出てくる」
「我が王っ!」
そういって、無理やり話を打ち切ると俺は執務室を後にした。
…
……
…少し頭を冷やしに行くか…
「もぅ〜…ミランダさんはぁ、よく見てるようで見てないよねぇ〜」
置き去りにされた執務室内で、煽るように言うマデリーアに、ミランダが噛みつく。
「…どういう意味でしょうか?」
「おぉっ…こわっ………そ…そんな怖い顔しないでぇ〜…ほっ…ほらほらっ第一、王様が今回みたいな内容に対して、はいそうですかって頭を縦に振るはずないんだし〜」
「…それは…」
「ミランダさんもわかってるでしょ〜?。王様て、“国より民の方が大事”で“民を道具のように扱われるのが大っ嫌いな人”なんだからぁ〜…いくら言ったって聞かないよ」
「……」
「まぁ〜、アレだよアレっ。国王って立場なら、ミランダさんの考え方は正しいんだよ〜…でも、私達の王様は平凡王様だからねっ……」
「……」
「…ふふっ…それじゃっ、私も仕事に戻るよ〜、まったね〜」
そう言うと、マデリーアも部屋を後にする。
残されたミランダは、なんともいえない表情で…ただじっと…何かを考えるしかできなかった。




