噂をすれば突然やってくる…
「失礼いたします、我が王」
不意にコンコンと扉を叩く音が鳴り、ミランダが戻ってきた。
「どうした、何か忘れ物か?」
「いえ、作業中である我が王への差し入れでございます」
ミランダは、ティーポットと菓子運んできた。
「…仕事の時間は先ほど終わっただろう…そんな事せずとも」
「はい、ですから私は自分の時間として、我が王へのご奉仕に時間を当てているのです」
と、ミランダはにっこり微笑んだ。
「…そういう言い方はずるいであろう……」
俺だって男だ。
身近な美しい女性からそんなことを言われれば、少しは動揺する。
…少しばかりだからな?
「…ふふ……えぇ、私はずるい女ですから。こちらは、先日リュミンティアで収穫した茶葉茶でございます」
「おぉ…リュミンティアのか。今回は良作だったと聞いているからな…さぞかし良き味であろう」
リュミンティアは我が国の領地にあり、主に茶畑の世話をしている場所だ。
自国自慢になるが、我が領地内の生産物はとても良いものばかり…これも、民達がしっかり働いてくれているからだ。
頭が上がらんとはこの事だな。
「うむ…良き香りだ」
良き風を充分にあび、精錬された爽やかな香りに思わず感嘆の息を吐いた。
「…味も申し分ない。これならば他国に売り付けても問題はなかろう」
「ではその通りに…」
…まったく賢い女だ…ミランダは…
俺は一枚の書類に目線を向ける。
この茶葉の販売に関する書類だ。
…まったく、本日分の仕事は終わりだと伝えたのに…さりげなく対応しおって…
こやつはマジの王命でもくれてやらねば休まないんじゃないかっ?
「また、こちらもご賞味いただければと…収穫した野菜を用いて調理した菓子でございます」
「ほぅ…良き香りがするではないか。では一つ」
側から見れば、王への給仕みたいなものだが、実際は国内の案件対応。
少しでも、力になろうと気遣ってくれる彼女なりの優しさだろ。
…まぁ、俺としては、腹も満たせながら書類が片付いていくのだから何も問題は無いが…しかし、美味いなこの菓子はっ
ぽりぽりと、菓子をたべながら、書類の対処をしていく。
ミランダが作業をやめ、俺だけで進めているがさっきより断然早い。
…空き腹が満たされただけで、こうも効率的に進むのは不思議で仕方ないのだがな…
と、内心でミランダの優秀さを改めて実感していると…
「…そういえば、遠き東の地に現れた魔王ですが、勇者パーティーに討伐されたとのことです」
「ほぅ…手際が早いな。確か、現れたのは一週間ほど前であろう」
「その通りでございます」
「…ふむ……此度の勇者達はかなりの手だれ達みたいだな…あまり、活躍の噂を聞かなんだから、てっきり実力がともわない者ばかりだと思っておったが…」
「…確かに謎が多いですが…東の地にて感じられていた膨大な魔力は消失しておりますから、事実なのは確実かと」
「……確かにな……」
噂が流れてこないのは気になるところだが、わからん事に時間を費やしても仕方ない。
不明点は多いが、勇者パーティーは義務を果たしたわけだ。
誰も文句は言えんよ。
「…まぁ、会うこともないだろうしな」
「…国の王としてお会いすることがあるのでは?」
「こちらの地に、魔王が現れれば会うこともあるかもしれんが、まぁこの国では必要もなかろう。それに、そうそう現れるものではないしな」
てか、そう何度も現れてはたまったものではないがな…
「…それは…そうですね」
「…何だ、会いたかったのか?」
「会える機会があるのでしたら、会ってみたくはありますが…」
「…ふふっ…」
「…あの…どうされましたっ?」
「いやっなに……お前はよく働いてくれておるが、そのせいであまり浮いた話は聞いたことがなかったからな…未婚のままとなると、お前の両親に顔向けができん」
「…か…考えすぎではっ?…」
「考えすぎなわけがないだろう。容姿端麗で優秀な1人娘がいきおくれるなど、許容できるものではあるまい」
「…よっ…容姿端麗っ……///んッ…んんっ…!……か…勘違いなさらないでください、我が王よっ。勇者パーティーという珍しさに興味が惹かれただけでっ…異性として興味があるというわけではっっ///」
「ふっ…そう必死になるな。白馬の王子様に憧れるなぞ、よくある事ではないか」
「そッ…そういう意味ではありませんッ!///」
滅多にない、ミランダをからかう機会を堪能していると、突然扉が開いた。
「…おッ王様ッ!失礼しますッ!」
バタバタバタバタッ!っとなだれ込むようにしてメイドが駆け込んできた。
「ん…アーリャか、どうした?」
駆け込んできたメイドのアーリャ。
騒がしいのはいつもの事だが、その慌てぶりが少し気になった。
「…ぉッ…王様ッ…たッ大変ですッ…!」
「…見ればわかる。で、なにが大変なのだ?」
「ゆッ…勇者様です!」
「…はぁ?」
まさかの話題に上がっていた人物が現れたみたいだ。
「…何だ?、俺に会いにでも来たのか?」
「…お会いする予定はなかったはずですが…」
「あっ、いえッ…そうではなくてッ倒れていたのです!森の中でッ!」
「…はぁ?」