始まりは玉座ではなく執務室
俺の戦いの場は玉座ではない。
玉座など、ただの威厳を示すための場所だ。
王という存在を示すためのな。
…まぁ、優秀であった先代の王達ならば、玉座の間であろうと問題なく作業できるのであろうが…
あえて言おう。
そんなことができるのは、優秀な王だけだ。
…平凡王である俺には到底無理な話だな…
そして、平凡な王である俺は尽きぬ書類の山と悪戦苦闘を繰り広げるのだ。
「…えぇいッ!、何故こうも仕事が減らないのだッ…」
思わず叫んでしまったが、許してほしい…
やれどもやれども、俺の部屋に溜まっていく書類の束…
ストレスを感じない方が無理であろうっ…
「仕方ありませんわ。国内に関する問題なのですから」
落ち着いた声に俺に話しかけてくるのは、臣下のミランダ。
優秀な人材で、俺のサポート役として働いてもらっている。
「そうだとしても、1終えたら10増えるとか頭がおかしいだろうッ。どれだけ問題が発生しておるのだッ…!」
「…まぁ…それに関しては、時と立地と情勢がそうであるからとしか申せませんね…」
「…そんな三重苦など滅びてしまえっ…」
「誠に同感ではありますが、手を動かしませんと」
「…問題は無い…ちょうど考察が必要だった案件だからな…考えがまとまったところだ」
息抜きの時間すらままならず、こうして案を模索せねばならぬ状況…どうやってこなして来たんだ…先代の王達は…
「流石我が王、愚痴を溢しながらも仕事をこなすとは」
「ふん、平凡王であろうとこれぐらいできなくて何が王か……むっ…もうこんな時間か」
気がつけば、窓から差し込む陽の光量が少なくなっていた。
つまり、そろそろ仕事を終わる時間帯だという事だ。
「…ミランダ、今日はもう上がるがいい。あとは俺がやっておく」
ミランダに帰宅の命令を出す。
書類の束は相変わらずだが、終わりは見えている。
まぁ、少し時間はかかるだろうが、俺1人でも終わらせれない量ではないからな。
「…我が王よ…」
「ん…ミランダよ、お前は十分に働いておるであろう?、ならばその働きに見合った対応を出さなければならない。何のために終わりの時間を決めたと思っておるのだ」
決められた時間を超えて働かせるなど、緊急時以外にやるなど馬鹿げておる。
非効率だ。
そもそも、そんな状態に陥るならば、体制や取り組み方に問題があると大っぴらに叫んでおるようなものでは無いかっ…
「…わかりました、我が王よ。では、お先に休ませていただきます」
「うむ、夜道には気をつけよ」
「はい、では失礼いたします」
ミランダは一礼するとその場を後にした。
まったく…優秀な人材ほど、損な役回りに動いてしまうものだな。
俺としては大助かりだが、あやつの凄さを周りに示す機会が少ない…
…少しばかり、機会を設けて…いや、目下問題が山ほどある状態だからな……なかなか手が出せんか…
元は公爵令嬢だが、器量もよく、まるで精巧に作られた人形のような容姿…
さらには、優しいと他の臣下達からの評判も高いと…
…あれっ?
俺より優秀なんじゃ無いか?
…説明があればそつなくこなすし…ミランダに国政を任せた方が…