奇録-陸- 闇夜の着物
お友達と ドライブ
濡れた着物 寒くないのかな
気絶したけど 楽しかったよ
友人三人と車で遊びに行った帰りのことだった。
俺は助手席に座り黙って夜の風景を眺めていた、車内は友人達が騒いでいたが時々相槌を打つくらいで何処か上の空だった。
道は繁華街を抜け、辺りは街灯がどんどん減っていき暗闇が増え始めていった。
前方を見ると最後の街灯が近づいてきていた、あぁもう直ぐ真っ暗になるなぁと思っていたが街灯の下に何かが照らされているのに気づいた。
車が横を通るときに確かめようとじーっと見ていた。
だんだん近づいてくるとそれが、真っ黒な着物を着た髪の長い女性とわかった、その女性は進行方向に向いて少し俯いている感じで、街灯の下に立っていた。
横を通るとき顔は見えなかったが全身が濡れているのが分かった、少し過ぎたところで運転席の友人に問いかけた。
「なぁさっきさ、着物の女の人居たよな?」
「はぁ? 誰も居なかったよ」
友人は誰も居ないと言い張った、それまで騒々しかった車内は静まり、俺とその友人は口論を始めた。
数百メートル走ったところでそこまで言うなら戻って確認しようということになった。
「ダメだ、絶対戻ったらダメだ」
それまでのやり取りを後ろで黙って聞いていた一人が突然強い口調で反対した。
「お前も見たのか?」
後ろを振り返り確認をした。
「ああ、見たよ、だから戻ったら絶対ダメだからな」
その友人は、隣の友人を揺すりながらそう答えた。
必死に戻ることを拒否し隣では気を失っているような感じの友人がいた。
幸いなことに少し進んだところにコンビニがあった。
そこで、気絶していた友人が気付いたので、拒否をした友人に理由を聞くことにした。
どうやら、後部座席の二人は俺と同じく濡れた着物の女性を見たらしいのだが、違ったのは二人をじっと睨みつけるようにこちらを見ていたというのだ。
その後、一人は気を失いもう一人は気を失った友人を揺すり何故か声を出せずに前の二人のやり取りを聞いていたという。
それが戻るとなった時、それまで何度も声を出していたが声にならなかったのが、突然出るようになったそうだ。
全員がその女性に睨まれていたとしたらどうなっていかと想像したら身が竦んでしまった。
「愛生華、楽しかったのは間違いないけど」
「......」
「『愛生華もドライブ行きたい』ってごめんね、運転できなくて」
「......」
「元の姿に戻ったらドライブでも何処でも連れて行ってあげるよ」」
「......うん」