奇録-伍- 棲家~狂~
どうして盛塩したのかな
お腹が空いた 怒るよ お友達
ご飯連れて行ってあげて
二階建ての戸建てに住んでいることを聞きつけた数人の友人が遊びに来ることになった。
その日は、夜中まで飲み明かし次の朝一人を残して帰っていった。
「ごめん、暫く泊めてくれないか?」
一人残った友人が頼み込んできた、理由は呑んでいるときに聞いていたがまさか本気だったとは思わなかった。
まぁ、部屋も空いているし良いかと了承した。
二階は和室、洋間の二部屋空いていて引っ越して以来物置としてしか使っておらず、初日に見て荷物を置いたきり使ってはいなかった。
洋間が空いていたのでそちらを使うように勧めた。
「なぁ、あの部屋なんかさ......」
翌日、友人がボソッと言ってきた、その時は苦笑いしながら大丈夫だと言い、続きを飲み込んでいた。
その日、家に帰り夕飯を一緒に食べようと二階の部屋へ向かうと部屋の前に盛塩がされていた。
不思議に思いながらドアをノックして開けると友人が暗いなかボーッと、部屋の真ん中に座っていた。
「おい」
何度か声を掛け肩を叩きこちらを向かせると、ハッと今気づいたかの様な感じだった。
とりあえず夕飯を食べに外へ連れ出し何があったのか聞くことにした。
「あの部屋なんかさ、おかしいんだよ」
そう言うと暫く黙り込んでいたので、部屋を変えるよう提案した、そもそも何処か別の家に住めば良いのだが直ぐにそう出来る訳では無かった為、隣の和室へ移動するようにした。
それから仕事の都合などで友人とは、すれ違いになっていたが一週間が過ぎたころ、キッチンで食事の用意をしていた時、階段を降りてくる足音が聞こえてきた。
すると突然腕にもの凄く熱い物が押し付けられた感じがした。
慌てて振り払い怒声を上げ振り返った。
「何するんだ!」
と共に怒りの形相が驚きの形相に変わった。
目の前にいる友人は余りにも痩せこけ、一週間前の姿とは別人の様になり憎しみに満ちた顔を向け煙草を吸いながら俺を睨んでいた。
「騒ぐなよ」
友人の声色は少し高めなのだがその時の声は明らかに違い、今まで聞いたことのない低く押し殺した感じの声だった。
危険を察知し携帯をとり近くの引き違い窓から外に飛び出した、後を追って友人も飛び出して来たが敷地の外までは何故か追って来る事は無かった。
その後、家から離れた所から別の友人に連絡を取り二人で戻る事にした。
戻ると友人の姿は無く、中へ入ると玄関に座り込んでいたので、声を掛けた。
「二人してどうしたんだ?」
本人は先程の事を全く覚えていない様子で何故ここにいるのかも分からず、ここ一週間の事も覚えていなかった。
「愛生華、お腹が空いて怒ったんじゃないよ」
「......」
「『え? 違うの』って、お腹が空いて襲うとか無いよね」
「......」
「その握り拳は何かな?」
「ぐぅ......」