奇録-弐- 棲家~蟲~
一人暮らし お風呂 虫いっぱい
気持ち悪い もう嫌だ
仕事から帰宅すると必ず行うことがある、風呂に入る事だ。
何故なら今の仕事が肉体労働の為、汗で身体中ベタベタになっているからだ、風呂に入ってさっぱりしない事にはどんなに腹が減っていようと、疲れて眠かろうと不快で仕方ない。
住み始めて数日が過ぎた頃、勤務時間が変わり夜中に帰宅することになった。
帰ったら風呂といつものように浴室に向かい脱衣所の電気を点けようとスイッチを押すが、何度やっても点かず仕方がないので、そのまま浴室のスイッチを押すも同じく点かず、電気を替えようにもストックは買っておらずコンビニでは売っていない型の為、諦めるしかなかった。
浴室の位置的に廊下の明かりが脱衣所までは入り込むくらいで暗闇の中手探りで入るしかなかったがまぁ、いいかと、汗でぐっしょりの制服を脱ぎ捨て浴室に入り頭を洗おうと椅子に座り洗っていると足元に何かが触れた感じがあったが、気のせいと無視した。
頭を洗い流し、身体を洗っているとまたしても足元に何かが触れる、今度は気のせいではなかった。
何故なら何度も何度も触れ、膝の下辺りまで感触があったからだ。
慌ててシャワーで洗い流し浴室から出ようとした時。
「痛っ」
足裏に痛みが走ったが、それ以上に違和感の方が勝りそのまま浴室から出た。
何か堅い物を踏んだ感じはあるのだが、柔らかさもあったそれが一点であればまぁまぁ我慢できるだろう。
それが、指先から踵まで全体にあった時の感触は全身に寒気が走り鳥肌が立った。
濡れたままの身体で廊下に出て足裏を見ると、黒い物体が貼り付き何かの何かが少し刺さっていた。
居間から懐中電灯を取ってきて恐る恐る浴室を照らし出すと、懐中電灯の当たるところは普通の色なのだが薄っすらと光の当たるところは真っ黒に染まっていた。
どうやら強い光を当てると本来の壁や床の色になるようだった。
「あぁ……」
もう何と言ったら良いのか理解できたのは、浴室一面が何種類ものの虫に覆われているということだった。
『フフ……』
微かにだが笑い声が聞こえた気がしたが、はっきりとは覚えていない。
その日以来、浴室を使うことは無かった。
「愛生華さん、更に短くなっているし、ほぼ感想だね」
「......」
「『キモイ、キライ』って、それお父さんの事じゃないよね」
「......」
「虫の話はもうしませんから、叩かないで」
「......ぐすっ」