奇録-壱- 白い世界
切ない 真っ白な世界
真っ黒な世界 おじいちゃん ありがとう
胸をキューっと締め付ける、とてつもない切なさが込み上げる。
目の前には真っ白な世界が広がる、周囲には何も存在しないあるのは自分自身のみ、立っているのか浮かんでいるのか分からない。
物心がつき始めた頃、毎晩この真っ白な世界にいる夢を見続けていた、その時はこのまま起きる事が無いのではないかという恐怖で大泣きしながら目を覚ましていた。
しかし、今いる世界は昔とは違っていた、夢なのか現実なのか分からず切なさがどんどん膨れ上がっていた。
夢ならば覚めてくれと固く目を閉じひたすら願っているが、全く目覚める気配が無い。
半ば諦め目を開き辺りを見回すが何も変化がない、時が流れているのかも分からず変化しているのは胸を締める悲しみとつらさの強さだった。
そして、締め付ける切なさに合わせる様に胸押さえ身体を丸めると、突然真っ白だった世界が一転して真っ黒な闇に覆われた。
すると、先程まで苦しいほど締め付けていた切なさが消え安堵したとたん今度は背後から身を凍らせる程の殺意を感じ意識が遠のいていった。
気が付くと隣には親父が座り、心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
目覚めた俺を見て安心したのか何も言わずに部屋を親父は出て行った。
右手には、親父が握らせたのか数珠を持っていた。
思えばこの時親父がいなければ、あの時感じた殺意から逃げられず目が覚めることはなかったと思う。
「愛生華、これから記録をお願いする身としてはなんだが、もっと詳しく書いてくれないか?」
「......」
「え? 『私の出番もセリフも無いから嫌だ』っていやいや、これから出番が......」
「......」
「えーっと、愛生華さん好きなもの買ってあげるね」
「......ちっ」