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8月3日  ― 消失


 ■■■


 青い水晶を吊り下げ、意識を集中させる。

 ダウジングは、俺が無意識下で感じたものが、水晶の揺れに現れる。俺は何度も、百瀬の家や、あいつが通った場所に通い、百瀬に繋がる痕跡を探し続けた。


 俺は今、百瀬の部屋にいた。水晶は、微動だにしない。汗を拭って、手を洗う。

 百瀬の部屋は、きれいに片付いていた。もともと物の少ない部屋だったが、それが更に整理整頓されている。そして泉さんにも、分かっていることだろう。

 百瀬は、ここを自分の意思で出て行ったことを――


 その時、スマホが震えた。泉さんからの電話で、すぐに出る。


「泉さん――」

『水落くん、あのね、私、調べたの』

「調べた?」

『7月31日に、数彦の部屋から、顔を隠した人が、数彦と一緒に出てきたところを、近所のおじいさんが見てたって』


 泉さんの声に、俺は驚く。


「調べた? 聞いて回ったの――?」

『だって。水落くんが一生懸命調べてくれてるのに。私だって、数彦のこと、心配で――』


 泉さんは、百瀬の職場や、育った施設に聞き込み回っていたらしい。そして、目撃証言を見つけた――


「そ、それで……」

『その後は見てないって言ってた。でも、でも! その人を見つけられたら。数彦を見つける手がかりになるかもしれないから――』

「……」


 悲痛な声が聞こえる。

 俺は唾を飲み、どうにか言葉を絞り出した。


「少し……少し、時間をくれないか。今、ちょうどダウジングで探してたところだったから」

『う――うん。ごめん。集中してたのに、ごめんね。何かわかったら、連絡して』

「ああ……」


 俺は、百瀬の部屋を出た。鍵をかける。毬の形の鈴が、ちり、と揺れた。


 俺は、どうしたらいいんだろうか。

 もう、水晶は微動だにしない。百瀬の部屋には、もう俺が見つけられる痕跡は何一つ残っていない。


 ■■■


 気が付けば、俺は図書館の中にいた。

 その本は、検索してみたところ、普段は貸し借りが少ないため、書架に並べられず、書庫の奥深くにしまわれていた。


 古い紙の匂いが溜まる、冷たい空気の場所で、パネルを操作して、本棚を動かす。暗い書庫の中で、そこだけが明かりをつける。


 『画図百鬼夜行』と記された本を手に取り、そのページをめくる。


 ――木霊(こだま)。百年を経た木には神霊がこもり、姿を現す。

 ――河童(かっぱ)。全身は緑色または赤色で、頭頂部に皿があることが多い。

 ――猫又(ねこまた)。猫が年老いて化けたもので、二本足で歩く。


 江戸時代に描かれたというそれら妖怪の絵は、鳥獣戯画のようで古めかしい。俺はさらにページを繰る。


 ――鎌鼬(かまいたち)。つむじ風に乗って現れ、人を切りつける。刃物で切られたような鋭い傷を受けるが、痛みはなく、傷からも血は出ないとされる。


「……百瀬……。」


 今更、あいつの身に降りかかった怪異の正体を調べることに、何の意味があるのか。

 それでも、俺は。


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