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MD  作者: みど・ないと
8/9

一撃

 野試合に負けた(と本人は思っている)タケルは、レイカたちの見立て通り、自信を失い、以前にも増して元気が無い。

 学校には来ているが、休み時間のほとんどは机に伏している。レイカも無邪気に話しかけるのは控えている。さゆり(委員長)に至っては完全に無視している状態だ。

 ヨッシーやカナキの嫌がらせが無いことだけが救いであった。


 間が悪いことに、学校では変な噂が流れている。なんでも、転校生の鈴木レイカが別クラスの戸部と恋仲だとかどうとか……。級友の女子からは真偽を問われ、男子からはからかわれる。タケルに対する「いっしょに帰ろっ!」は学級内で関心を集めたが、それを打ち消すかのように瞬く間に、学級内はおろか学年中に噂はひろまってしまった。レイカにとっては迷惑な話である。


 野試合の件のみならず、この噂も意識してのことだろう、タケルもレイカを避けている。

 レイカは、なんとか二人きりになるチャンスを伺うが、そんなときは決まってさゆり(委員長)が割って入る。この時もタケルの反応は鈍い。

 放って置いてくれと言わんばかりに、距離をとってしまう。



 ある日の休み時間。廊下にいたレイカに戸部が近づいてきた。噂の二人の接近に、その場に居合わせた生徒たちが好奇の目を向ける。

「前に言った養成所の訓練。今度、見に来ないか? 興味あるだろう?」

 周りには聞かれたくないのであろう、小声で、顔を近づけて話しかける。レイカは動かない。返事もしない。

「なぁ、聞いているのかよ。本物の戦闘剣術を見せてやるよ」

 噂に感化されているのか、異様に馴れ馴れしい。

(噂を流したのは、このヤマザル本人だと思っていたけど…… 違うのかな?)

 戸部の態度に嫌悪感を覚えつつ、考えを巡らせるレイカ。

 そんな折、背中側を通り抜けていくタケルに気付く。

(ヤバっ、タケルくんに変な誤解される)

 そっぽを向きながら戸部から離れる。スカートと長い髪とがふわりと揺れる。戸部のアプローチを拒絶する振る舞いなのだが、それすら魅力的に映る。彼女を避けていたタケルも無視できず、つい視線を向けてしまった。

 そこで、タケルに気付いた戸部と目が合ってしまう。


「おうっ! へっぽこ剣術道場の格好つけ弱虫野郎!」

 イキリながら、得意のローキックがタケルを襲う。レイカに格好いい(と本人は思っている)ところを見せつけたかったのだろう。

 一度は(こら)えるが、二度三度と続けばさすがに厳しい。レイカとのコミュニケーションに失敗した八つ当たりでもあるのだろう、執拗に蹴りが続く。タケルは痛みに耐えかね、壁にもたれしゃがみ込んだ。


「そういや、オマエ。ガキの頃『レクシーネになりたい』とか言っていたな」

 突然、レクシーネの話題を出す戸部。たしかに、タケルは子供の頃からレクシーネに憧れていた。

「七夕の短冊に『レクシーネになりたい』と書いたこともあったなぁ。格好つけやがって。まさか、今でもそう思ってんじゃねーだろうな」

 戸部はタケルを見下した態度をとる。


 今度は、タケルの憧れであったレクシーネをこき下ろすことで、優越感を得たいのであろう。

「馬鹿じゃネーのか。あいつらは怪物退治を理由に好き勝手な事をしていた、ただの税金食いつぶし集団だったの知ってるかぁ?」

(そんなの嘘だ!)

 自分が知るレクシーネは、そんなものではなかった。悔しそうな顔をするタケル。だが、言葉で返せない。いや、できない。

「ニュースでもいろいろ批判されていただろう! 覚えてねーのか? 現実はろくでなしの似非ヒーローだ! なにが怪人事件対応の特殊部隊だよ。子供、怪我させたりよぉ! 他にもいろいろ不祥事を起こしていたよな」

 決めつけるように言う。


 得意満面の戸部。

「オマエみたいなダッセーやつ……」

 タケルに対して雑言を言いかけた次の瞬間、戸部の両脚に鈍痛が走る。

 もんどりをうつように倒れる戸部。それでもすぐに、身を翻し態勢を立て直す。さすがに剣術・武術をたしなんでいるだけのことはある。

「ィッテーなあぁぁっ! 何しやがる!」

 突然の一撃に声を荒げ激怒する戸部。


 見上げると、そこには冷ややかな視線を向けるレイカが立っていた。

「同じこと。自分がされると怒るんだ」

 彼女は近くに設置されていた消火器を手にしている。これで戸部の(ひざ)裏をローキックの一撃のごとく(したた)かに打ったのだ。


 相手がレイカと知り、唖然とする戸部。

 レイカは消化器を彼の目の前にドスンと置くと、こちらも唖然としているタケルの腕をとり、半ば強引に立たせる。

 そして二人はその場を離れてしまった。

 レイカに腕を引かれるタケルは、無言の彼女の顔を見ることができない。脚の痛みと、反抗できない情けなさ。先日の野試合で、みっともない姿をみられている羞恥もある。

(俺……。情けない……)

 それでも助けてくれる彼女に対する負い目。礼の言葉も出てこないタケルは自分を責める。


 教室まで戻ってきたところで、レイカが口を開く。

「レクシーネのこと。悪口言っていたからムカついた」

 タケルの顔は見ずに、窓の外に視線をむけたままレイカがつぶやいた。

「ごめん……」

 タケルの精一杯の返答だった。

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