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MD  作者: みど・ないと
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空に舞う影

 タケル、レイカ、サユリ(委員長)の三人が、教室で話し込んでいた頃、ヨッシーとカナキは自分たちの教室に戻っていた。タケルに対する嫌がらせを楽しんでいたところを、見知らぬ転校生が割り入って追い返されたとあって、ヨッシーはかなり不機嫌の様子。

 空気を読んだのか、クラスの違う戸部はすでに二人と離れ、さっさと帰ってしまった。


 ヨッシーの腰巾着であるカナキは、根拠無く見下した物言いでタケルを馬鹿にする言葉を並べながら、かつ、突如現れた転校生に対してアレコレと不満を口にしている。ヨッシーの気持ちを代弁していると言わんばかりだ。いわゆる御機嫌取りなのだが、これもヨッシーにとっては(しゃく)(さわ)り気に入らない。


「うるせー! ウザいんだよ!」

 けっして大きな声ではないが、ドスの効いた口調。

「カスが! 一人で帰れよ!」

 カナキに当たり散らすヨッシー。その剣幕は凄まじい。


 薄っぺらい鞄を手に一人すごすごと教室を出て行くカナキ。だが、廊下の端まで歩き階段を降り出した頃には、例の薄気味悪い笑みを浮かべていた。

(ヨッシーの奴。相変わらず面白いな)

 一見、服従する態度をとってはいるが、実はヨッシーの反応を面白がっている。威張り散らすヨッシーに対して、暴力による危害を加えられないようにと配慮しつつ、内心では馬鹿にしているのだ。御機嫌取りも、その反応を楽しむため。しかし、腹いせに当たられたことに対しては不満がある。

(人をカス呼ばわりしやがって。いつまでもいい気になってんじゃねーぞ)

 昇降口を出ると振り返り、まだヨッシーが残っているであろう自分たちの教室を見やる。

「フンっ!」

 カナキは爬虫類を思わせる顔を再び薄気味悪く歪ませて笑いを浮かべると、校門を出て行った。


      ◆


 家に帰り着いたタケルは部屋着に着替え、椅子に座り窓の外を眺めていた。二学期が始まって早々(そうそう)にいろいろあって、多少なり気持ちがグチャグチャとして冷静さを欠いていたが、自室でリラックスできたのであろう、精神的に落ち着きを取り戻せたようだ。


『レイカ』


 ふと、転校生の少女の名が脳裏に浮かぶ。なにか記憶に引っかかる。

 中学……、いや小学生の頃の同級生? 卒業アルバムを引っぱり出し見てみるが、その名は無い。もしかして保育園の頃? 卒園アルバムにもその名は無い。

 ドラマか映画の登場人物、あるいは役者さん? どこかで同じ名前を聞いたのを、なんとなく記憶しているだけなのか? 彼女の端麗な顔立ちも、記憶には無い。


『レイカ』


 やはり引っかかる。この引っかかりはどうにも拭えない。


 もう一つ、彼女のことで気になる件がある。

 自分が三人組から嫌がらせを受けていた時に、彼女はどうして助けてくれたのだろう?

 その表情や言動から、気が強いことは解る。しかし、相手は男三人。暴力的行為に及んでいるのだ。一人で割り入っては、逆に危害を加えられる恐れもあったわけで、あえて見て見ぬふりをすることもできたはず。

 あの状況を放っておけないほど、正義感が強いのか?

 三人組の嫌がらせに関してネガティブな感情が脳裏をよぎるが、それ以上に『レイカ』のことが気になる。


 さらに、どうして彼女は僕の名前を知っていたのか? 

 唐突に名前で呼ばれ、そのまま流れで応対したが、よく考えると転校してきたばかりの彼女が、一度も会話をしていない一介のクラスメイトである自分の名前を明確に知っているはずはない。知っていたとしても、いきなり名前で呼びかけたりはしないだろう。

 おまけに、互いに苗字ではなく名前で呼び合うことを求められたのだ。

 とにかく不思議な女の子だ。


 レイカのことと言えば〝レクシーネ〟についての談議もあった。

 高校に進学してからは、あの三人組の嫌がらせに気を取られ、〝レクシーネ〟に関しては、しばらく忘れていた。今日、レイカがその名をつぶやいたことで、そして語り合えたおかげで、再び記憶を呼び覚ますことができた。

 そして、語り合った話の元が、お互いに子供の頃の記憶に()ったままであることに気付く。

 高校生になって物事の認識も当時とは違ってきている。

(少し調べてみようかな)

 改めて〝レクシーネ〟ついて詳しく調べてみたくなった。


 そして女子二人と一緒の帰り道。

 他の男子からうらやましがられる状況だったと、今更ながら気付き赤面する。現実にそんな状況に直面するなど考えたこともなかった。

 別れ際に声を掛けられた時に、背を向けたまま素っ気なく手を挙げたが、もう少しマシな応対はできなかったものだろうか? 自身の不器用さに、少々、後悔の念を(いだ)くタケルであった。


      ◆


 そんなことに思いを巡らせ、夕飯までの時間を過ごしていた頃。

 ズシンッ! と、川の方角から破壊音が聞こえてきた。一瞬地震かと思うほどの空気の振動。事故? あるいは何か工事でもしているのか? それにしても不穏な音だ。しばらくして、今度は電子音とも発砲音とも付かぬ音が散発に聞こえてくる。


 タケルは好奇心旺盛なタイプではないが、今回はさすがに気になって窓から川の方角を見やる。家から河岸までは二百メートルほど離れている。以前なら堤防や対岸の建物が見えたのだが、今は家が建ち並び直接見ることはできない。


 音のした方角。対岸の河川敷の辺りだろうか。

 二体の影?

 空を舞うように飛んでいる? 人?


 小学生の頃にスポーツ観戦のため買ってもらった双眼鏡を引っぱり出し、空を舞い飛ぶ影を追うタケル。

 近隣の家の屋根越しに確認できる影は、やはり人のようだ。そのシルエットから女性のようにも見える。 それらは盾とも槍とも、銃とも見られる不思議な形状の物を身に纏っている。

 先ほどから聞こえる電子音は、その槍とも銃ともつかぬ物から光弾が発射される音だ。空間を走る光弾は、地上の何かを標的にしているようだ。地上からも空を舞う人影を狙うように光弾が飛んでいる。空と地上とで光弾を撃ち合っている。


「何だ? あれは?」

 まるでSFの世界。


 空を舞う人影は三体に増えた。後から現れた人影は目立って長い槍のような物を持っている。他の二体と比べ明確に人のシルエットが見て取れる。長髪の女性で間違いない。

 三体目が加わってからは、空を舞う人影の動きがより機敏になり、規律を持って動くようになった。ある時は三体が固まり、次の瞬間にはそれぞれが距離をとって、リズミカルに地上からの攻撃をかわす。折を見て槍状の物から発射される光線が、矢のように地上の目標に突き刺さるように延びる。先ほどまでの光弾の飛び交う様子とは状況が変わってきた。


 ほどなくして光弾を撃ち合う音が止む。空を舞うように飛んでいた三体の影は、いつの間にか姿を消している。パトカーや消防車のサイレンが鳴り響き、警察や消防が現場に到着したようだ。野次馬も集まっているらしく、河川敷が騒がしい。


 タケルは、改めて〝怪人〟の存在を認識する。タケルの知る限り、今回の事象を端的に説明できるのは、その言葉だけだ。

(そういえば、帰り道で委員長が〝怪人騒ぎ〟がどうとか言っていたな)

 確信はあっても、ここ何年も目にしていなかったので実感が薄れていた〝怪人〟の存在。それが再び身近に現れた、ということか?


 それにしても、戦っていた女性たち(タケルにはそう見えた)は何者なのだろう?

 〝怪人〟と戦うと言えば、タケルの記憶と知識では〝レクシーネ〟なのだが、双眼鏡で見た空を舞う人影は明らかに別の者たちだ。


「今日はいろいろ起こる日だな」

 先ほど取り戻したはずの落ち着きはどこへやら。奇妙な緊張感を覚えるタケル。

 御守りとして身につけていたペンが、今は手元に無い事が心細く感じられた。

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