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プロローグ

 初投稿です。

 どうか宜しくお願いします。


「あら? どうやら成功してしまったようね」


 唐突に、どこか色気を感じさせる声が耳朶を叩いた。

 それは聞き覚えのない音で、おそらくは言語なのだろう。

 頭の中に意味だけがダイレクトに伝わってくる。

 鈍く痛む頭はその状況を受け入れたらしく、多少の違和感くらいしか感じない。

 とりあえず辺りを見回したところ、後ろには綺麗に片づけられた机があり、その奥は分厚いカーテンに覆われていた。

 カーテンがあるのだし、そこに窓があるのだろうが、今は光が入ってきていないので昼か夜かの判別もつかない。

 足元には魔法陣(?)らしき図柄が描かれており、自分がその中心に立っていることがわかる。しかも等間隔に魔法陣(?)の外側に10数本の蝋燭が立っており、ボンヤリと足元から部屋の全景が浮かび上がって見えた。

 これが光源になっているせいか随分と本格的な雰囲気が漂っている。

 左右の壁際にあった本棚には、高そうな装丁の本がギッシリと隙間なく揃えてあるのも本格的な雰囲気ってやつに一役買っていた。

 なにせ、その本のどれもが俺の持つ魔導書なイメージ通りの代物だったからだ。 

 次第に鈍痛がなくなり、ハッキリとしてきた頭で考えるまでもなく、そこが書斎のような場所なのだと理解するには充分だった。


「そろそろいいかしら?」


 そこで努めて意識的に無視していた存在からお声がかかった。

 魔法陣(?)の外側でこちらを眺めていた女性は、一言で言うなら妙齢の美女といった風情だった。

 初めに目についたのは、その非常に整った容姿だった。

 控え目に言ったところで、彼女以上に美しいと感じられる存在を俺は見たことがない。

 肌は白く、長く美しい髪は腰の辺りまで流れている。

 その色は、うっすらと紫色に思えるが蝋燭の光源では判別できない。

 更に一目で高価そうだと思える、夜色に金の刺繍の入ったローブに身を包み、その上からでも判る程のプロポーションは圧巻だった。

 ローブのせいで肌の露出が少ないのは非常に残念ではあったが、足元の蝋燭の灯りから浮かび上がった彼女の姿は、とても幻想的で美しかった。

 そんな彼女の存在感にのまれ、マジマジと見つめ続けてしまった俺に疑問を持ったようで再度、彼女は声をかけてきた。


「言葉が通じていないのかしら?」

「いやいや、ちゃんと理解できてるよ。ちょっと見惚れてただけだから」


 こういうのは最初が肝心だ。

 本心から女性を褒められる瞬間を逃してはいけない。

 会話の中で自然に本心ですって感じで褒めておけば機嫌が悪くなる事もないだろうといった打算もある。

 なにせ、この状況の説明をしてもらわなくちゃいけないし。

 稼げるポイントは見逃せない。


「あら、もしかして口説いてるの?」


「ふふっ」と満更でもなさそうに美女は目を細めて笑う。


「いやいや、まさか。口説くなんて彼女いない歴イコール年齢の草食系男子には色々とハードルが高すぎて……うぅ、嫌な事思い出した」

「……えーと? ごめんなさいね。」


 急に落ち込み始めた俺に、困惑したようで謝る美女。

 ――話題を変えよう。

 もしこのまま、親身になられて何があったのか聞かれても誰も幸せにはなれない。うん。そろそろ質問しよう。

 よし、レッツ質問ターイム。

 その前に自己紹介は忘れちゃ駄目だな。


「まずは自己紹介させてもらうけど、名前は鳳秋斗。んで、ここは異世界で召喚された俺は勇者様ってことでオーケー? あぁ、それと年齢は18だ」

「半分正解よ。それで半分は間違いかしら」


 どうやら半分は正解したらしい。


「まず、私の名前はゼノビア・バーネルハイド。そして貴方にとっての異世界であり勇者召喚陣での召喚というのも正解ね。だけど、現在は魔王陛下が不在のため勇者は必要ないの」

「ん? 魔王いないの? それなら俺は勇者じゃないし、戦わなくてもいいってことか」


 内心ホッとしながらも少し残念な男心。

 けど、いきなり魔王討伐よろしくって話じゃないのは安心するとこだよな?

 だって痛いとか嫌だし、恐いじゃん? ――魔王。


「何かしら知識を持っているみたいだけれど、この世界では戦う術は持っておくべきよ。それに勇者召喚陣で召喚したのだから、まったくの無力という事はないでしょうし、オオトリ・アキトの居た世界では戦う事は無かったの?」

「ああ。俺の居た世界というか国では、戦争なんかは随分と昔にしなくなったから、わざわざ戦う方法を教える事もないしな。それと秋人でいいよ。この世界だとアキト・オオトリになるのかな。」

「そうなのね。それでは宜しくアキト」


「ああ。宜しく」と返事を返しながら今の会話の中にあった言葉を吟味する。

 そもそも魔王の実在する世界のようだし、間違いなく魔物とかいるっぽい。

 更に勇者召喚陣で異世界から人を引っ張って来れるわけだから魔法もあるってことだな。

 更に更に俺は、その魔法陣で来たわけだからズバリ俺は魔法が使えるって事になるよね? しかも無理に戦わなくていい。最高じゃないデスカ?

 そこまで考えたところで唐突に疑問が浮かんだ。

 あれっ? 俺どうして呼ばれたの? 魔王いないんでしょ?

 

 ――嫌な予感がする。

 

 確かに俺は、元々こういうファンタジーに憧れていた。そんな種類のラノベなんかも読んでたし、来れちゃった以上はテンプレ通りに帰れなくてもいいかなって思わなくはないけど、そこはこの世界の生活環境に左右されるわけで。

 これって戦争の為とか、そういう流れか?

 分らない事は分かる人に聞くべきだよね。

 さしあたって目の前のゼノビアさんに。


「あのさ、俺どうして召喚されたの? 魔王いないんだよね?」


 ゼノビアさんは、そっと視線を逸らした。

 ――あ~。これ絶対ダメなやつだ。


「実は昔に少しだけ勇者召喚陣を見たことがあって、興味があったから研究していたのだけど結局一度しか実物を確認する機会がなかったから、独学なんかで色々大変だったんだけど、ついに研究の目途がついたのよ。それで実験がてら試してみたのね。……だから成功しちゃったのは予定外というか想定外というか。私も驚いてるの。うふふ」


 要約すると「興味本位で勇者の召喚陣を試してみたら成功しちゃったの……エヘッ」と言うわけか。

 国が関わってないのなら、バレなきゃ戦争とかに利用される心配はなさそうだが、逆に言えばラノベなんかにありがちな援助なんかも受けられないわけだ。

 加えて、俺はこの世界の事を知らないのだから常識すら分からないし、お金なんかがあるわけもない。

 生活すらできないじゃん。


「あ~因みに、このまま元の世界に送り還したりなんか出来たりしませんかねぇ?」


 恐る恐る訪ねてみたところ。


「ごめんなさい。分かってるみたいだけれど、今回だって召喚が成功するなんて思っていなかったのだし、ましてや送還陣なんて聞いたこともないの。本当にごめんなさいね」


 ははは。解ってたさ。これでハッキリした。

 なんとしても彼女――ゼノビアさんに今後の面倒を見てもらわないと詰む。

 覚悟を決めろ秋斗。

 ここは、選択を間違えるわけにはいかない場面だ。

 深く深呼吸をした俺は、ゼノビアさんと視線を合わせる。

 静かに未だ立ったままだった魔法陣の中央で膝をつき頭を垂れた。

 いわゆる土下座だ。

 ゼノビアさんが息を呑む気配が伝わってくる。

 この瞬間、場を支配していたのは俺だった。

 こちらの要求を突きつけるなら今だ!!


「養って下さい! お願いします! 三食、昼寝とお小遣い付きで!」


 俺は、誠意を込めて一言ずつ声に力を込めてお願いした。

 地べたに頭を押し付けたままで。

 これまでの人生でこれ程までに必死だった事は無いんじゃないかと思う。

 これは、必要なことだった。

 もう一度言う。これは必要なことだったんだ。

 だって下手に出てお願いしないと、断られるかもしれないだろ?




 

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