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フロントエスケープ  作者: yen・sin
2/7

飛田と言う男

岩井田興信所に雇われた男「飛田宏司」

過去を隠している様で明け透け、それでいて無防備、しかしその実体は。

はたまた「村井木ドリーム建設」代表取締役むらいき 村井木重蔵しげぞうの身辺調査を依頼して来た人物とは。

岩井田が初めて飛田に会った時は変わった男だと思った、岩井田が受けたストーカー事件解決案件で犯人と思しき男を説得する為にファミレスに呼び出した際、ストーカーの男が仲間を4人も連れて来て、ファミレスの駐車場に連れ出されてしまった。


岩井田は今年53歳で頭の薄い身の丈170cm、小太りのオッサンだ、しかし、そう見えて元公安特殊捜査課で急襲部隊の一員でもあった、少なくとも20年前まではその辺のチンピラが束になってもそう簡単に負けはしない剛腕の持ち主だった、岩井田は「先頭のヤツは腰に警棒か何か持ってるな、武器を持っているヤツから先に絞めるか」等と考えている内に駐車場に到着した、今回の依頼人がストーカーと言っていた男の車は最新車にも関わらず、LED装飾が施されており低音がブンブンとなっている。2000年代初頭、国道で時々見かけたが、最近ではレトロヤンキーと言うジャンルでこの手の車がリバイバルしている様だ。岩井田は男達に一声かけた。


「オジサンさあ、トイレが近いんだよ、逃げないから先にトイレ行かせてもらえねえかな」


するとストーカー犯と思しき男が、しゃくれた顎を更に上げ威嚇する様に言い放った


「あ?オッサンなめてんの?関係ねぇ、やっちまうぞ」


と岩井田に詰め寄り、腰から特殊警棒を出そうとした瞬間、岩井田は相手の襟元と特殊警棒を取り出そうとした右手の袖を持ち、大外刈の様な体制で特殊警棒の男を駐車場の床に叩き付けた。

その他の連中は、付き合いで来たはいい物のオッサンに投げ飛ばれている息巻いた張本人を見て目を丸めるばかりだ。


「え?なんすか、コレ」


一歩半前に出ていた半笑いの黒ジャージを着た仲間が言葉を発するやいなや、岩井田は自分の片手分の間合いに歩み寄り、握りしめた拳から親指の先だけ出した物を、相手の喉めがけてぶち込んだ。


「グウ」


正にグウの根とはこの事だろうか、バタリと前屈みに倒れ込んだ2人目を見る間無く、また一歩前に進もうとした瞬間、岩井田は後頭部に鈍い痛みを感じると共に

「しまった、最初の野郎、とどめをさしときゃあ良かった」と感じた。

最初に倒した特殊警棒を持ったストーカー男が目を覚まし襲って来たのである。その時だ、駐車場に面したトイレのドアが開き、独り言を言いながら1人の男が出て来るのが見えた。


「日本のトイレって動く物に反応するセンサーがついてるから自動で電気がついたり消えたりするのか…座ってて急に電気消えた時マジで焦った、帰りの便で一緒だったグルカ兵のナイフ使いにも教えてやりたいぜ」


男は中肉中背、髪はボサボサ、無精髭が生えているがリクルートスーツの様ないでたちでトイレから出て来た、それが飛田である。

そしてスラックスの尻の部分で手を拭きながら、目の前の状況を見て一言。


「昔の漫画みてーなシチュエーションだな、お前が持ってるの通販で買った特殊警棒だろ、それで人を殴ると曲がって引っ込まなくなるぞ」


と言った、特殊警棒の男は岩井田に投げられてまだフラつくのか、苛立った様子で


「あぁ?かんけーねーだろうが、お前も殴られてーのかよ」


と噛み付いた、すると特殊警棒の男はその台詞を言い終わるか否かと言ったタイミングで

「カプンッ!」

と変な音を立てて直立不動のまま真横に倒れた、恐らくスーツの男のパンチがアゴに入ったのだろう、動きが早く大したヒット力だ、岩井田は心の中で「ケンカ慣れしていやがるな」と思いながら横たわっていたが、ドロリとした感触を後頭部に感じ「切れたか、タオル持ってて良かったな」とポケットから小さいタオルを出し起き上がるついでに止血した。


その間何分位経っただろうか、前に2人、1人は岩井田が倒し1人はスーツの男が倒し、残る3人はどうなったのかと見上げると奇麗に車の前に並んで横たわっており、スーツの男は黙々と各々の上着やら車内にあったタオルやらで足と手を結んで行っている、そして目を覚ました岩井田に歩み寄りながら


「大分出血してるのによく動かなかった、良い判断だ、救急車も呼んだし俺がいるからもう大丈夫だ」


と話しかけて来た、救急車が来るまでずっと住所や家族の事、名前や持病、年齢やその他様々な事をリラックスした様子で聞いて来る、そして最後には必ず「大丈夫だ」と言う。



後でその時の話しを飛田から聞くと、まず気絶した人間を並べたのは以前軍に所属していた時、予定外の戦闘で倒した相手の詳細を知る為、まず生きている場合は縛り上げるか、躯の場合でも並べて各々の所属や民間人かどうかを調べる習慣があったからだそうだ、飛田本人曰く「一応身元だけ確認しようと思ったんだが、奴らクソ真面目に全員免許証持ってたし、警官が来たら手間が省ける様に、まとめて車のボンネットに置いて来てやったよ、日本の不良はやっぱ真面目だな」と言っていた。

そして怪我人介抱の際の声がけも、自分の経験からなのだそうだが「俺がついてるから大丈夫」と言い続ける根拠は何も無いが、死ぬにしても生きるにしても「これなら安心して逝ける」と感じると生還出来る確立が全然違うらしい、飛田自身が怪我をしてヘリで運ばれる際、仲間から「俺が来たからにはもう安心だ!」と言われて「お前は神か何かか?」と問い返したら、仲間は何の躊躇も無く「そうだ!今のお前にとって、俺は神にも近しい存在だ!」と言いながら大笑いするのを見て、理由は分らないが「ここで死んでも安心して逝ける」と感じたそうだ、そして勿論生きて帰って来たからここにいるのだが、戦場で死を認識して生きる確立が上がるのと、こんな所で死ねないと感じて生き残る力が湧くのとは人それぞれで異なるそうだ、飛田曰く「死なねえ為に苦しい訓練をする訳だが、死ぬ時は死ぬし、生き残る時は生き残るんだ、そう言う物なんだ」らしい。


そんな飛田が何故岩井田興信所の様な所でしがない探偵をしているのかと聞かれると、そこで助けられてからのご縁としか言い様が無い。



岩井田は救急車で搬送され頭を数針塗ったが、当日帰宅出来ると言われ、先ほどのファミレスに帰ると警察が来ており、面倒を起こしたく無い岩井田は飛田に車を取って来させた、その後ストーカー撃退依頼を求めていた依頼人に連絡を取ったり、車で事務所に向かう所まで飛田に世話になったが、その時岩井田は飛田の服装がおかしなリクルートスーツだと言う事に再度気が付き


「そう言えばアンタ、何でそんな変なスーツ着てるんだい?」


と聞いた、すると飛田は


「俺、この間まで外国にいたんだけど日本で就職しようと思ってね、でも戦場上がりじゃあ駐車場の管理人すらやらせてくれねえ、あっちじゃ命令で人殺ししたり人助けしたりしてればボーナスまで出たのにな、ランボーも同じ様な事言ってたっけな」


と言いながら大笑いした。

岩井田はそこで「ウチで探偵やってみねえか?」と誘ってみた、部屋は2部屋余ってる、そこで寝泊まりしてもらって良い、そんな感じだったと思う、しかし飛田は大喜びで探偵をやると言う。


探偵と言うと聞こえはカッコ良いが、実に地味だし戦後は日本の安全神話も崩壊して治安もあまり良く無い、こう言う仕事は本当に嫌がられるので新人を探すのに大変苦労する。

そんな矢先、目の前で5人ものチンピラを蹴散らした腕っぷし、それにタイヤが付いている物ならほぼ運転出来る、何ならヘリの操縦免許も持っているそうだ、ヘリは非常に難しい乗り物で積載重量にしても燃料の量に対してもとてもシビアだが、ヘリに乗れるだけでこのご時世ありがたい。


また、武器に関しても概ね使えると言う、戦前の日本は銃に対してかなり規制が厳しく銃アレルギーも強かったが、戦後は闇ルートを使って護身用に銃を入手する輩も多く、様々な銃の入手が可能である。新しい物から古くは90年代物まで幅広く日本海を渡ってやって来るのだ。

岩井田は飛田を雇うに当たり身分証の提示を要求した、飛田は「この間までここにいた」とプラスティックカードの身分証を岩井田に手渡した、その身分証には「アカデミア社 警備員証明証」と書かれている、岩井田は(アカデミア社、アメリカのPMSCじゃねえか、まあ軍での在籍経験があって金がいるなら民間軍で一儲けするか、しかしそんな戦争屋が何故今更日本に帰って来たんだ?)と思いを巡らせたが、危うい所を助けてもらった恩人である事に変わりは無い。

すると飛田はプラスティックカードを岩井田から取り返しパキッと割ったかと思うと、中からマイクロチップの様な物を取り出し


「これには俺の戦歴やらアカデミア時代の情報が入ってる、アカデミアのサーバーに潜り込めるなら経歴を見てくれても構わねえよ、その前の軍歴は記録がねえ、正直アカデミアには正規の入社の仕方をしてねえんだ」


と言った。

そんな事があったのが1年程前、岩井田興信所に飛田がやって来たのだ。



そして今回の村井木重蔵むらいき しげぞう周辺調査の仕事が舞い込んだ、これは興信所始まって以来のビッグビジネスになる。

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