小学校教師とヤンキー彼女の人生
彼と彼女が結婚してから20年以上の月日が経過する。
「男は50代をどう生きるかだよね。50代の過ごし方って難しいよ」
「パパは、臆病なくせにプライドが高いからね。そして、自分大好きだよね」
こんな言葉を彼女は躊躇せずに伝えてくる。
「パパみたいなタイプはね、上を目指していくことでバランスがとれるよ」
「私が支えるからがんばりな」
彼が45歳を過ぎるころから彼女はこんな言葉を彼に言うようになった。
そう彼女は、彼の性格を理解し、彼の人生のレールを敷く女性へとなっていた。
彼が結婚した当初、「私と結婚して絶対によかったと思わせてあげる」そんな言葉を実現させてみせた。
「人の上に立つって言うことは、悪口・陰口を言わない人になるってこと。簡単に悪口言う奴にな
るなよ。一番軽く見られるから」
「人に頼る、人に期待すると腹が立つから、あんまり人には期待するなよ」
「腹が立つ奴もあとから考えたら必要な脇役だと思えるときがくるって」
「まあ、なんとかなるって。死にやしねーから」
彼女のこんな言葉に彼は今なお力をもらい、働いている。
彼女の言葉には今も魂がこもっている。
彼50歳、彼女53歳・・・。いくつになっても彼女は強い。そして、その強さは確実にプラスの強 さとなってたくさんの人を支えている。
「ママは幸せを感じるときはどんな時?」
「そうだねえ、家族みんなで食事できること、パパが毎日仕事に行って家に帰ってくること、娘が学
校に行っていること、お父さん・お母さんとも元気でいてくれること・・・」
「なーんだ、ママだったらもっとすごいこというと思ったのに」
「パパ、毎日、当たり前のことが当たり前にできることが一番幸せなんだよ。普通に一日が終わるこ
とに私は何よりも幸せを感じる・・・」
「私、いろんな人見てきた。特に夜の世界に入ってからは・・・。強がっている人、威張りたい人、 金持ちな人、地位の高い人・・・、けどね、一番幸せそうだなあと思う人は、そういった世界で生きている人よりも普通のささやかな暮らしをしている人じゃないかと思う・・・」
「一生懸命にひたむきに生きている人が幸せを感じていることがなんとなくわかってきたんだ」
「だから、パパと知り合った時も、ひたむきに子供たちと向き合っている姿勢が好きになったの・・・。とても新鮮だし素敵だった・・・、夜の公園で二人で鉄棒の練習もしたよね。明日、子供たちにいい見本を見せたいから付き合ってくれって・・・。ああいう姿を見て、この人となら幸せになれると思ったんだ」
「人の幸せのために生きているパパはかっこいいよ」
そんな言葉をかけてくれる妻のレールを彼は生きてきたのだ。
「お前の母さんって、昔、刑務所に入ってたんだって」
娘が三年生になるころ、学校から家に帰るとお母さんに聞いてきた。
人間の情報はどこで過去の接点とつながるかわからない。たまたま彼女が昔つきあった男性の
友達が娘の同級生の父親だった。彼女も面識はあった・・・・・・。
人生は本当に苦しみの連続・・・。せっかくつかんだ幸せもどこかで音を立てたように崩れていく。人生はいいことも悪いことも連れだってやってくる。
彼女は彼にも内緒でその男を待ち伏せた。
「おっなんだよ」彼女の殺気立った雰囲気に男は驚いた。
男は彼女に何かを言われるものと思っていた。しかし、彼女は男をずっと憐れんだような目で
みるだけだった。
男は「いいたいことがあるなら言えよ」、そう言った。
「私の過去も含めてて、うちの人は受けいれてくれた。だから何にもこわくない。娘もそう・・・。小学生だけど受け入れれてくれる」
「だからなんだって言うんだよ」
「お前みたいの人間のクズって言うんだよ」
それだけ言って彼女は立ち去った・・・。
彼が彼女と結婚して学んだこと。それは、結婚生活がうまくいくための基本的なルールは
いかに相手に心配をかけないようにするかということ。そして、派手できらびやかな生活も
いいけれど、いかに日常の中で小さな喜びを感じて生きていけるかということである。
周りの人を大切にして、小さな喜びを感じていく結婚生活は、必ず、二人を幸せにしてくれる。
苦しくなったら二人で空を見る・・・その時に自分は一人ではないことに気が付く。
そして、子供ができたら、子供と一緒に空を見上げるのだ・・・。
自分はたくさんの人のおかげで生きていることに気が付く・・・。
今彼は一生懸命に生きている。そして、彼女や娘、たくさんの人たちに支えられて生きていることに感謝している。
もちろん不安になりおびえる日もある。そんなときは、頼りになる彼女がいつも彼を支えてくれる。
彼は彼女にいつまでも恋をしている。
50代を迎えた彼女も昔と変わらず素敵である。今も彼は彼女を尊敬し好きでいる。
そして、彼女もまた彼のそういった素直さが好きなのである。




