4話 召喚理由を聞かせろ下さい
「ふむ…勇者の召喚は出来なかったがその武器は召喚出来たと申すか。」
「はい、先ほどご説明致しました9品が鑑定により実用に足る物かと。」
たったの9個の武具でどうなるものか…
エレンディア王国国王、クレメント=バル=エスティリマは、宮廷魔術師筆頭のシディルスと宰相のザハルクの説明を聞きながら失望を感じていた。
魔族との戦争、国が落ちるのも時間の問題という劣勢の現状を、大規模魔術による勇者召喚にて一気に挽回する、という計画を宮廷魔術師から聞かされ、藁にも縋る思いで逼迫する前線への支援を削り、召喚の為の魔力確保を許可した。
にも関わらずの結果がこれである。
「それで、シディルスよ、その武具で何が出来ると言うのか。たかが数本の武具で万を越すであろう魔族の進攻を止められると言うか?それこそおぬしの広域魔術攻撃の方がよほど物の役に立とう?」
「陛下、まずは彼のモノの話をお聞き下さいますよう。」
そう言ってシディルスは背を向けて後ろに並べてある武具の一振りを手に取る。
話を聞けとはどういう意味か、問いかける前にシディルスが重そうにしながらロングソードを手に戻ってくる。
確かに美しい剣ではある、ブレードは両刃で透き通る様な銀色、ガードは広げた羽の様な意匠で中央には青い宝石があしらわれている、グリップは通常のロングソードよりも長めに取ってあり、ツーハンドソードの様な印象も受ける。
「陛下、これなる剣は異世界より召喚せし意思もつ剣、聖剣レンゼリアにございます。」
「意思持つ剣とな…?」
「レンゼリア様、陛下へ先日のお話をお伝え下さい。」
(あっ…ゴホン。聞こえるか?そなたが私を呼び出した国の王か、我が名は聖剣レンゼリア。)
「おぉ、声が聞こえるぞ。」
(王よ、答えよ。そなたがこの女神が創りし聖剣、勇者エレンの携えし聖剣レンゼリアを呼び出したのか。)
「如何にも、我が国…いや、人類族の世は魔族の脅威に晒されておる、明日にもこの王城へ魔族が攻め込んでくるやもしれぬ。本来ならば…その勇者エレン殿を呼び出し、助力を請おうと思っておったが…力及ばずでな。その武具の召喚に留まったと言うわけよ。」
(ふむ…私の他にも幾つか異世界の武具が並んでおったが…少なくとも今の状態では何とも言えんな、私の世界とこの世界では勝手が違おう。ただ、そこな武具達は私には及ばぬものの近い程度の力を感じる。(一つを除いてな)そなたらの言う魔族とはどの程度の力を持つのか?)
「最も下級のものであればここに居並ぶ騎士達の相手にはならぬが、兵数が問題でな。それに奴らの上におるものは底が知れぬ、一軍の将ともなれば、手練れの騎士と魔術師が束になっても追い返すのが精一杯よ、未だ姿を見せぬが魔族の王ともなればいかほどのものか…」
(なる程…ところで、私の操者…私を振るう者は誰か?そなたではあるまい?)
「ザハルクよ」
「はっ!騎士団長オクトーよ、ここへ!」
壁際に並ぶ騎士よりも中央寄りに並んだ騎士の列の最前列に居た中年の騎士が前に出る。
シディルスの後ろまで進み出て来た騎士は膝をつき頭を下げた。
「聖剣レンゼリアよ、これなるは我が国の騎士団長オクトーで、わが国で最高の(この者では無理だな。)?」
王とシディルス、宰相のザハルクと騎士団長のオクトーの4人が驚きにレンゼリアへ向けた顔を歪めた。
(この者の力量は高いのだろう、それこそこの場においては最も強者なのやもしれぬ。だが私を扱うには適当では無い。)
シディルスが焦った声で手元の剣へ話しかける。
「レンゼリア様⁈オクトー殿は騎士でありながら高い魔力量と卓越した剣技をお持ちなのですよ⁈レンゼリア様に合わぬとはどういう…」
(だからそれはこちらの世界の話であろう?こちらの魔力とやらは私にはあまり意味が無い。そこの者、私の声が聞こえるであろう?こちらへ)
壁際に居並ぶ騎士の最も入り口に近い場所に立っていた年若い騎士が小さく悲鳴を上げた。
(そう、そなただ。この場に居るならばそれなりの騎士なのであろう?そなたが最も適正が有る。そなたならば私を携えるに足る勇者となろう。)
15、6歳程の若い騎士が真っ青な顔で王の前に進み出て、震える足で跪いた。