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俺が指輪の物語(仮  作者: トム麻呂
27/45

27話 始める前に 前編



 マキナウス家の客室、室内の支度を終えたメイド二人は主人達の準備が終わる僅かな時間、この数日について話し合っていた。


 帰ってきて早々にメイド服に着替えたエナさんは旅の疲れを感じさせる事もなく、レッセンと手分けしてベルが貯めた仕事を消化する。この客室のセッティングもベル3割、エナさん7割の速度であっという間に完了していた。

 仕事しながら小言を貰っていたベルだったが、どこか嬉しそうにしていたな。


「ふーん、アンタ本当に喋れるんだ?ずっと半信半疑だったけど、実際に会話してみると結構普通だね?」


 客室での作業を終えて後は主人達を待つばかりとなり、二人は普段控えている部屋の入り口で束の間の姉妹時間。…まぁ俺も居るんだが。


(ああ、元は人間な訳だしな、普通の会話が出来て当たり前だろ?)


「失礼な口は慎みなさいベル、トーノ様は私の命の恩人なのですよ。」


 エナさんの掌に乗る俺を、まだ微かに赤みが残る瞼を擦りつつベルが覗き込んだ。


 旅装を解いているエミリアやデラクを待つ間、フリュッソンとゼーリカは特務の伝達の為にマキナウス領治安部へ、レッセンは不在時の未決済事項の確認へ、というわけでほんの少しの空きが出来た2人は待機の時間となっていた。レンゼリアはデラク預かりでまだデラクの部屋に居るはずだ。ディクスはデラクの護衛として付いて回っている、実家なんだがなぁ。



 夕食前に一度集まって話をしようという流れになった一同は、各々に準備を終えるとこのマキナウス邸の客室に集まる事になっている。


(あぁ、エナさん。それはもう気にしなくてもいいですから…)


「そうは参りません、冷たくなっていく体を包んで下さったあの暖かな光のご恩は、私の命を捧げてもお返しする事が出来ないのですから」


 潤んだ瞳を掌に近づけてそう言ったエナさんは、その手をギュっと握り胸元に押し抱いた。

 うーむ、体が無いのが残念だが、エナさんの想いが最近天井知らずである。どこかで落としておかんとな。


 因みに、エミリアの指に嵌ってないのは少し確認したい事があったので、一時エナさん預かりにして貰った為だ。レンとエミリアには訝しげな眼と剣先を向けられたが。


「うーわ、お姉ちゃんちょっと行き過ぎじゃないの?そりゃお姉ちゃんを助けてくれたのは本当に感謝してるけど、アンタ指輪じゃん。」


 対照的に少し引きながら不審な輩を見る瞳で俺を睨め付ける妹。そりゃその通りだが少しは言葉を選んで欲しいもんだな。


(俺もそう思うがな、帰ってきたエナさんに泣きながら突っ込んできたお前も姉に対する愛が行き過ぎなんじゃね?無事なのは連絡が行ってただろうに。)


 意趣返しをされたベルがあからさまに不機嫌な声で返す。ちょっと大人げなかったか。


「姉が大怪我したって聞いてれば誰だってそうなるハズよ。もう治ってるって言われても、そんなの信じられる訳ないんだし。」


 少しづつベルの俺に向ける目つきが険しくなってくる、気づいて無いだろうがそのベルを見るエナさんの目つきもヤバくなってきている。


「あたし達はたった2人の姉妹なんだし当たり前じゃん!アンタがお姉ちゃんに手ぇ…は出せないだろうけど、どうこうしようってんなら許さないからね!」


「ベル、あなた…(わかったわかった俺が悪かったよ、言っておくがエナさんは俺にとっても大事な家族だと思ってるからな、変な真似なんぞする訳がない。勿論お前も大事な家族の一員だぞ、ベル。)…トーノ様…大事だなんて…。」


 片手を頬に手を当て、顔を赤らめてエナさんが呟く、さっき好感度落とす発言をしたな?コレは不可抗力だからノーカンだ。



「う…、うん。まぁとにかく礼だけは言っておくわ!………ありがとね…、お姉ちゃんを助けてくれて。」


 姉妹喧嘩一歩手前の雰囲気がふわりと和んだところで客間にノック音が響く、ベルの返事が終わる前に執事服のレッセンが音もなくドアを開けた。


 二人の前に立ち周囲をゆっくりと見回してから…なぜ俺を見る。視線を上げて二人に向き直った。


「ふむ、エナ、ベル、もうここは良いのですかな?」


「はい、後は皆様をお待ちするだけですわ。」


「やっぱりお姉ちゃんが居ると捗るわ〜。一人だと大変だったもの。お姉ちゃん様々よ。」


 調子よく答えるベルをレッセンが見据える。


「ベル、貴女にはまだまだ仕事の指導が必要の様です。何時もの事ですが明日から覚悟しておくように。はぁ、毎度毎度たったの数日だというのに…」


 姉の肩に頭を預けて笑うベルに向き直ったレッセンの目が笑っていない。ヒっと息を飲む音が悲しいな、ベルよ。


 さて、と視線をベルから俺に移したレッセンが居住まいを正して静かに頭を下げた。


「トーノ様、遅くなりましたが改めまして御礼を。エナが無事であったのは貴方のおかげです、私がついていながらお嬢様をも危険に晒して…誠に面目次第もございませんでした。」


 頭を下げたままのレッセンにメイド二人は何も言えず、レッセンも頭を上げようとしない。……ここで俺のとばっちりって言うべきなんだろうか。気が重い。


(いや、あのなレッ「ですが、ひとつだけトーノ様にお聞きしたい事がございます。」…え?)


 すっと直立の姿勢に戻ったレッセンの瞳からは、先程までのエナやベルに向けていた温かみが消えていた。まるで部外者、いや、敵対する者でも見据えるかのように冷たく、貫くような鋭い視線を俺に向けている。


「粗方の事情はデクス様より伺いました、神託、人魔大戦、聖剣、そしてトーノ様。貴方がこれから為されようとする事も。それ故にお伺いしたい事があるのです。」


 指輪の体でも威圧を感じるレッセンの雰囲気にメイドの二人は全く動けずにいた。

 あぁ、レッセンが何を言いたいのか分かった気がする。


 ふっと威圧感が薄れて、小さく震えていたエナの掌から視線が外された。何時もの穏やかな声でメイドの二人に告げる。


「エナ、ベル。少しトーノ様と二人にさせて貰えませんか?貴女達はお嬢様とデクス様のご様子を見てきて頂きたい、この後ここに集まる方々のお茶も用意しなければ。お願い出来ますか?」


「っ⁉︎は、はぃっ!直ぐに!お、お姉ちゃん、ほら、行こう⁈」


 ビクリとベルが直立になり、引きつった返事をしながら姉の手を引いて部屋を出ようとしたが、エナさんは掌を上に向けたまま動こうとしなかった。


「ちょっ!お姉ちゃん⁈」


「レッセンさん、あの…私もここに居たい…と言ったら…お二人のお話を聞かせて頂くわけにはいきませんか?」


 全く表情を変えずに先程と同じ声で、ゆっくりとレッセンが答えた。

 


「…エナ。聞けば貴女も今のままでは居られないかもしれません。それなりの覚悟が必要ですよ?」


 見据えるレッセンの眼を真っ直ぐに見つめなおして、ベルに掴まれた手を離し、俺が乗る掌に優しく被せた。


「一度は無くした命です。私はトーノ様のお側に。」


 俺は何も言えずにいた、目の前で見つめる少女の意思が硬いと見ると、小さく溜息が聞こえレッセンの視線はドアの前の少女に移る。


「お、お姉ちゃんが居るなら…あ、あたしも!か、覚悟とかよくわかんないけど…一人になるのは…い、嫌だもん…」


(エナさん、ベル…あのな…レッセンは)


「トーノ様、この二人にも聞いて頂きましょう。もう時間もあまりございませんので。それでエナ?トーノ様を一旦こちらへ渡しては頂けないのかな?」



 胸の前で両手を握った少女はトンと両手を自分の胸元に引き寄せ、目の前の執事に柔らかな笑顔を向けた。

更新再開します。

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