21話 乱立するフラグにご用心
王国歴476年 夏の月3日
レンゼリアが強引に同行を決めた翌日の早朝、マキナウス家の面々は改めて全員、王城のレンゼリアの部屋に招かれた。
翌日の4日には帰る予定となっていた為、ものの半日で色々と調整したらしい。
国王とレンゼリア、その後ろに布の塊を抱える衛兵とメイドが控える。相対して座るのはデラクとエミリア、レッセンとエマが後ろに居るのだが…エマさんの冷や汗が止まらない。倒れないでね?
デラクが困惑気味の表情で切り出した。
「陛下、お呼びとの事でしたが…我が家の家令とメイドまで登城せよとは…」
「皆の者、楽にしてくれ。ここにはそなたらと、ワシが信頼している者しかおらぬ。昨日顔を合わせておるが紹介はまだだったな、この部屋付きの衛兵ヨハンソンと専属メイドのケイナだ。二人とも衛兵とメイドの中では唯一、レンゼリアの声を受けられる者だ。」
二人が会釈する。スッと衛兵が国王の脇からテーブルに布の塊を置いた、ゴトリと重い音がする。
「レンゼリアが同行するのは構わん、言っても聞かないだろうからな。だが対外的に王国の最も重要な祭器にして最強の武器が王都の外にあるのは…大変宜しくない。」
(全く、そんなに大した事ではないと言うのに…。)
「いや、大した事なのだレンゼリア。それくらいは理解して欲しい。」
(レンゼリアは脳筋だからな、国王が言いたい事は勿論分かる、それで?)
ガタンと飾り台が揺れる、固定具が増えて居る気がするが…気のせいだな。
「続けるぞ?なので、レンゼリアが王都に無い事を知っている者は最低限にせねばならん、この二人はその為の選任だ。」
レンゼリアに何らかのトラブルが有った時に情報操作をし易くする為、だな…中々考えてるな国王。という事はその布の中身は…
俺がそう予測すると同時に国王が布を開いた。期待に反せず、レンゼリアのレプリカがそこに有った。
「この剣はこの部屋に置いておく、この二人もいつも通りに職務を行う。ある程度の期間なら問題は無かろう、そして同行させる人員も情報が漏れる恐れがある為最低限とする。」
(おい、ドル「レンゼリアが行かぬと言うなら一個中隊を付けるのだがなぁ、だが、そんな人数はどうやっても誤魔化せぬ。皆お前の姿は知っておるのだからな。」…ぐぬぬ…)
国王ドヤ顔は止めろ、バレるとまた面倒だぞ。
「なので三人、三人だけ同行させる。ヨハンソン、呼んでくれ。」
衛兵のヨハンソンが部屋の外へ音も無く出て行く、あいつ唯の衛兵じゃないな。多分あのメイドのケイナもだ。軽装とはいえ物音一つ立てずに歩けるもんじゃないし、メイドの方は手前で組んだ手の中に何が握ってやがる。
お前らは忍者か。
暫くしてノック音が響く、ヨハンソンに連れられて入って来た一人目を見てマキナウス家は全員驚いた。
「「ディクス!」兄様!」
止まって手を振るエミリアの兄は後ろから小突かれてたたらを踏む。
続いて大柄な女騎士、その後ろに中年の騎士が部屋に入ったところでヨハンソンが扉を閉めた。
入り口側の壁に三人が並び、最後に入った中年の騎士が胸に右手の拳を当てて敬礼する。隣に並ぶ二人もそれに倣う。
「陛下、特務騎士隊隊長 フリュッソン=アレント、特務隊員 ゼーリカ=ミスマデル、第三騎士隊隊員 ディクス=マキナウス。以上三名、御下命により参上致しました。」
フリュッソンなるおっさんが名前を呼びあげた、白髪混じりで細身だが目が鋭いのが印象的だ。
ゼーリカって女は…デカイ、とにかくデカくてゴツイ、身長は2メートル近くあるんじゃないか?真っ赤な髪をポニーテール…いや、後ろで縛っただけか、女騎士ってより女戦士だな。あとここが重要だが、美人で凄まじい巨乳だ、体がデカイだけに迫力が半端ない。くっころどころかオークを素手で引きちぎれそうだな。
ディクスは…まぁいいか。デラクを若くしてメガネを外したらディクスだ。
「うむ、ご苦労。デラクよ、この三名を護衛として付ける。フリュッソンは特務騎士隊の現隊長でな、特務はワシの直属の部隊よ。ゼーリカはその隊員じゃ、グレイプニールの装者でもある、レンゼリアの指名じゃな。そして騎士隊のディクス=マキナウス、身内なら安心じゃろう?」
「まさか息子が付けられるとは思いませんでした、陛下。」
「身内ならばなにも心配する必要も無かろう?おぬしら三人にはマキナウス子爵の次女、エミリアの護衛を任ずる、詳しい内容はこの後伝えるゆえ、少し待っておれ。」
(なら俺も自己紹介しておこう、マキナウス家に伝わる異世界の指輪だ。装者はここに居るエミリア=マキナウス、宜しく頼む。)
エミリアが慌てて右手を向ける。
ディクスが見るからに狼狽えてるな、エミリア笑うんじゃありません。
後の二人は頭を下げるだけで動揺は無かった。
「よし、顔合わせは済んだな。明日の朝の出立、南門で集まるが良い…いつ頃が良いかの?6の鐘辺りで問題無いかの?」
「はい、陛下。それでは明日の朝6の鐘に南門にて。」
(エミリアよ!明日から宜しく頼むぞ!)
「よし、ならばディクスよ、家族を城の外まで送ってやるがよい、初の特務じゃな」
はっ!と返答したディクスは部屋から出て行く、マキナウス家の面々もそれに続く。エナさんがよろめいてる、限界だったんだな。
部屋の中には五人と一振り。フリュッソンが扉を見つめながら嘆息と共に口を開いた。
「ふぅ…陛下…レッセン殿が居るのですから護衛など不要なのでは?」
「お、隊長!やっぱりあの爺さんデキるんだよな?いやー、すげーヤりそうな雰囲気がプンプンするわ、是非一度お手合わせ願いたいねぇ。」
「念には念をだ、デラク子爵とエミリアだけではない、マキナウス家全体の護衛として考えよ。…レンゼリアが他家にあると知ったら何が起こるかわからん。」
(魔族…でも来るかもしれんと考えておるのか?ドルフよ。)
特務隊の二人も魔族の名前が出て雰囲気が変わる。
「ゆえの念押しよ、野党の類ならまだしも、万が一魔族がくれば話は別だろう、だからこそのお主ら二人よ。レンゼリアも単独で魔族とはやりあえぬのだろう?」
(装者あってこその剣だ、それは仕方なかろう?)
「それゆえ頭を悩ませておると言うに…はぁ…。不安だが、人魔大戦の再来かもしれんと言われれば断る事もできぬし、約束もしてしもうたし…頭の痛い事よ。」
(ドルフよ、案外この事が後に大きな意味を持つかもしれんのだ。王都は騎士団に任せる、何かあればマキナウスの街に潜ませるであろう連絡員を寄越せ。)
「さぁっすが聖剣サマ、なんでもお見通しで。」
(茶化すなゼーリカ、日頃の鍛錬に抜かりはなかろうな?いざという時グレイプニールを振れぬなどと言わせぬぞ。)
肩を竦めるゼーリカを見やり、レンゼリアはリョウにそのグレイプニールの件をどう話したものか思案していた。




