20話 レンゼリアの解決方法
(待たせたな。ドルフ、マキナウスよ)
(みんな待たせてすまない、とりあえず終わったから。いきなり悪かったな、エミリア。)
唐突に聞こえた俺とレンゼリアの念話に、残されていた三人が、手に持つカップやフォークを皿に置いた。
メイドさんにお菓子用意して貰ったんだな。
「レンゼリアよ、今のは話に聞く…そなたの中の館へマキナウスの指輪を招いたのか?」
(そうだ、我が身の内の館にて相談しておった。中は時間の流れが遅いのでな、ゆっくりと話す事が出来たわ。…色々と…な?)
目を細めてレンゼリアと俺を交互に見る国王、小さくワシだって行った事が…とか呟いてるな。意外とお茶目だな。
「リョウってば、詳しい事を何にも言わずに無言になっちゃうんだもの…国王様に伺わなかったらまた心配するところでしょ。」
デラクは笑みを浮かべて飲み物を楽しんでいる、ここでも紅茶か。
(いや、それはごめん…。で、レンゼリアと少し相談してきたんだが、何か名案を思いついたらしいんだ。)
(うむ、リョウの成長度の件は先程の話で皆理解しているな?そこでエミリアよ、そなたに聞きたい事がある。)
ふえ?っと会話が自分に向くのが予想外だったのか、妙な声を返すエミリアにレンゼリアが続けた。
(リョウ、この場に居る者にはやはりある程度話した方が良い。任せてくれるか?)
(あぁ、任せるよ、レンゼリア。)
レンゼリアまず、事態は思いの外大きく、まだ全ては明かせないがと前置きして、近い将来全人類族に取って良くない事が起こる可能性と、それを防ぐ、もしくは対処するのに俺の成長度を高める必要があるかもしれない事を伝えた。それをする為に必要な事も。俺はレンゼリアの説明を黙って聞いていた。
(リョウの能力が上がった事はその良くない事の前触れよ、我ら異世界の武具はこの世界を守らねばならぬ。)
「聖剣よ、その…良くない事というのは、具体的には分からぬのか?」
(禍々しい内容だが、ある意味神託の様な物よ。ハッキリとは分からぬ。だが、最悪人魔大戦に匹敵するやもしれぬ、…今度はそれが逆の結果になるとしたら…だから対処を考えねばならんと言ったら?)
国王は半信半疑の様だったが、世界を巻き込んだあの人魔大戦と聞いて腕を組み、目を閉じて考え始める。出来の悪い予言めいたレンゼリアの説明だが、実際に当時から存在し続ける伝説の剣が言うのだ。
(して、ここまで話しておいてエミリアよ、そしてその父よ、そなたらに問おう。ドルフも聞いておくがよい。)
「は、はい。聖剣様。」
「…お答え出来る事であれば。」
部屋の空気が重くなる。レンゼリアからの圧力を指輪の身に感じた。
(まずエミリア、定かでは無い、起こるかどうかも分からぬ人類の危機に対して、またリョウの為に、その手を血に染める覚悟は出来るか?……そなたはまだ幼い、これに否と答えても決して責めはせぬ。そしてその父、マキナウス子爵よ、同じく娘の手が血に塗れる事を是と出来るか?)
「リョウの為…人類の為…」
エミリアが自分の掌を見ながら呟く…まだ10歳なんだぞ…俺は…「出来ます!私も貴族の娘です、民の為、国の為に出来る事は何でもやります。」
(その血濡れの手は結果無駄になるやもしれん、その不確かな未来の為に、獣や魔族、もしや同じ人族を手にかけねばならんとしてもか?)
(おい、レンゼリア。)
「私がリョウの声を聞けた事には何か意味があるはずです。それが聖剣様の仰る事になろうとも…必要なのであれば躊躇致しません!」
っ!…あのクソ神の気まぐれなんて言えねえな…張り詰めた緊張感の中で、エミリアの目は真っ直ぐにレンゼリアに向いていた。
(では、その父よ。そなたはどうか。)
「…聖剣様、私も貴族の末席に名を連ねるもの、その精神は民の為、国の為に捧げています。ただ、それでも親なのです。娘が血濡れになる事を望む親などおりましょうか。」
(そうか…では…)
「ですが、娘は既に私以上に貴族としての義務を果たそうと懸命に答えました。それを敢えて止めようとは思いません。古の英雄、勇者王、その側に仕えたデクス=マキナウスに誓って。」
エミリア…デラク…。
(エスティリマ国王ドルフよ、この二人の覚悟を何と見る。そして王としての返答は。)
この場に居る全員が国王に向いた、国王は…流れる涙を拭いもせず、二人を見据えていた。
「ワシは…ワシは今伝説の英雄を支えた者達を見ておる、かのランデウス王の側に仕えたデクス=マキナウスもこの様な覚悟をもって古の戦いに臨んだのであろう。そなたらの覚悟は確かにこのドルフ=バル=エスティリマが受け取った。ワシは国王の名において、そなたらの進む道に協力しよう、無論、全力でだ!」
国王が滂沱の涙もそのままに立ち上がった。
(よし!ドルフ、確かに聞いたぞ?全力で全面的に協力するんだな⁈)
国王に向いた視線がまたレンゼリアに戻る。こいつ…まさか…
(エミリアよ!国王の許可は出た。これより私の装者はお主だ、エミリア=マキナウスよ)
エミリアとデラクの口が半端ない程開いてるな。
国王が物凄い勢いでレンゼリアに向き直る。
「ちょ、王家の聖剣が何を仰っているのですか⁈あなたを帯剣出来(ドルフよ。)は、はいっ!」
(貴様…王の名においての先程の言、よもや違える気では無かろうな?)
振動しながらレンゼリアが浮き上がる、電気のスパークする破裂音が響き、部屋の調度品が揺れ始める。
国王がさっきまでとは違う涙目になってるな。
「そ、その様な事は決して!で、ですが聖剣は王家の証し、城から出られては…それにマキナウスの娘を装者になどと…騎士団も派遣しますし、金銭での支援も充分に行い、ひいっ⁉︎」
レンゼリアの後ろにゴゴゴゴゴって擬音が見える気がする。ついに刀身からの放電で飾り台が焦げ始めたな。
(年に一度のお披露目にしか使われぬ聖剣に何の価値があろうか!騎士団にエミリア自身の戦いをいかにして補助させる!金で何が出来るものか!この馬鹿者が!)
王様を壁際に追い込むな、王家の証しよ。
そしてレンゼリアは剣先を国王に向けてトドメを発した。
(我がエミリアの手の中で文字通り幼き娘の刃となり盾となる、それ以上にエミリアが守られる策があると言うなら、今すぐここで述べよ!)
結局国王は折れた。ただし、騎士団からのお目付け役兼護衛を側に置く事と、問題が解決した後は必ず王家に戻ってくる事をレンゼリアに確約させていた。
デラクは以上のやり取りの間中、ずっと頭を抱えて唸っていたし、エミリアは虚空を見つめて私が聖剣の装者、私が聖剣の装者とハイライトの消えた目で呟き続けていた。
(上手くいったな!これでしばらく一緒だぞ!リョウ!)
確かに、確かに名案だったが…王様に同情を禁じ得ない。後の収拾はどうしたもんかな。と、考えていたら
(ドルフよ、ついでにグレイプニールも持って行くからな!護衛にはゼーリカも連れて行くぞ!)
あ、国王が崩れ落ちた。




