15話 200年目の真実は
王国歴 476年 春の90日
今俺は磨かれている。それはもうキュッキュッと。
王家への目通りを明後日に控え、建国祭の前日の夜、部屋でベッドに腰掛けたエミリアの向かいの椅子に座るエナの手の中で。
「トーノ様、お加減は如何ですか?」
(あ、あぁ。丁度いい、です。)
「良かった…精魂込めてお磨き致しますね、トーノ様。」
このやり取りは、磨かれ初めてから今のでもう5回目になる。
エナはメイド服に着替えていた、旅装は血濡れで一着使い物にならなくなっていたので、替えの服と交代で着ているらしい。
俺が目を覚ましたのが昼過ぎで、それ以降エナは俺にベッタリ…表現はおかしいがとにかくベッタリだ。エミリアに頼み込んで暇さえあれば俺を磨いている。
腕は多少の引き攣りを感じるが問題なく動くとの事、痛みも無いそうだ。
それで今は…今日の夕食が終わってからエナはエミリアの部屋で延々と俺を磨いている。
デラク…主人の世話はいいのかメイド。それと俺、すり減ってきてないよな?
エミリア、いい加減ジト目で見るんじゃない。俺はただ磨いて貰っているだけだっての。
(浮気ものー。)
(聞こえが悪い!嵌めてサイズ調整出来るのはエミリアだけなんだから俺の操者はエミリアだ。俺はエナが磨きたいって言うから)
念話が聞こえる様になった後、落ち着いたエナに試させたがダメだった。物凄く残念な顔をしていたな。
「トーノ様?念話でしたら私にもお願い致しますね?」
(ちょ、え?なんでわかるん…ですか?)
「やっぱり。だってそんな気がしたんですもの、ふふ。」
薄く笑いながらエナさんの俺を磨く布に力がこもる、熱い熱い!摩擦が熱い!怖いから光沢の消えた瞳で見るのはやめてください。
「浮気ものー。」
「あらあら、お嬢様ったら、ふふふ…あぁ、トーノ様、素晴らしい輝きですわ。」
俺を部屋の中央に浮遊する魔力光にかざして恍惚の表情を向けるエナ…さん。
エナさんってこんな人だったかな…。
馬車が狼、グレイウルフという種類だった、に襲われたのが5日前の夕方、治癒魔術で外傷はなくなったものの、大量の出血でエナさんは丸1日、初日の宿泊町から動けなかった。
翌日出発して、フラつく体で無理をしつつ2日掛けて王都にやってきた。春の89日の事だ。それからまた一泊、王都の宿屋にて過ごして翌日の朝食後、エミリアに充てられた部屋で俺は目を覚ました。という流れだ。
俺の念話を受け取れるようになったのはエナさんだけじゃなかった、デラクとレッセンにも何の問題も無く念話を届ける事が出来る様になっていた。二人とも初めて声をかけた時はデラクは昼食を吹き出し掛けて、レッセンは今まで見た事がない程口が開いてたな。
エミリアを介した会話は少々手間が掛かっていたので楽にはなったが、急にエミリア以外に念話が通じる様になったのは…多分ステータスの魔力の数値が上がったせいだと思う。
レンゼリアは普通に勇者以外と念話してたからな、あくまで推測だが。
それに複数人と同時に会話が出来る様にもなった。
エナを治癒した事を聞かれたが、出来る様になった。としか答えていない。俺自身目が覚めたばかりで、何一つ確かな事が分かって無いからな。
色々と確認した後で説明すると濁しておいた。デラクとレッセンはこの件を王家にどう説明するかずっと相談している。
成長度…か。デクスは何かと戦った事は無かったし、領主になってからは尚更荒事とは無縁だった。その後は俺を指に通す事は出来ても、本当の意味で装備出来た奴は居なかった。だから今まで成長度、なんてのが伸びたりしなかったんだろうな。
【本当は200年前に伝える予定だったんだよー】
【設定じゃ、成長度が1になったらすぐここに来る予定だったんだからー。いくらなんでも遅すぎだよねー。】
【貴方臆病過ぎて何の役にも立たなかったじゃなーい】
クソっ!ふざけるなよ!
「トーノ様?どうかなさいましたか?」
(い、いえ、エナさん、なんでもありません。)
「さん、などと。エナとお呼び捨て下さいトーノ様。貴方は私の命の恩人、ご主人様とお呼びしてもおかしくない方なのですから」
(え、いや、エナさんでお願いします…)
クスクス笑いながらまだ俺を磨いている。だからエミリアはジト目を止めろっての。
念話に漏れてたかな…ちょっと前からエナさんの感知能力が凄い。
とにかく、あの自称神様の言うにはこうだ。
俺は死んだ。地球の日本であの日死んだ、確かめる術は無いが、俺の意識は今ここにある、長い間戻る事も出来なかったからこれはもういい。
次に、武具の召喚は俺がメインだったって言ってたな、レンゼリアと他の7つはおまけだとも。あんなおまけがあるか、おまけがメインの菓子みたいな気分だ。
あと、成長度1になったら役目を伝えるってとこだ、多分俺を魔族討伐の為にもっともらしい理由や嘘で焚きつけるつもりだったんだろう。清々しい程ぶっちゃけやがってクソが!
…ふぅ…縛りってのは…多分デクスの事だな…戦闘力皆無の奴にしか装備出来なくしたのが縛り、としか思えん。デクスは悪く無い、あいつなりに頑張ってたし、俺が全力で殺し合いから遠ざけたからな。悪いのはあのクソ神だ。
それから…スパイス…気まぐれ。これが多分エミリアの事だ。もしかしたらあの妙な狼の襲撃もそうかもしれんが、とにかくエミリアが百数十年振りに俺を装備出来たのは奴の仕業だ。間違い無い。
…最後に【バランス】ってのと【次のイベント】ってのがよく分からん。神だから世界の調和が…とかか?【次のイベント】って事は前のイベントがあるハズだ…それは…。
「エナぁ、そろそろいいでしょ?リョウが擦り減っちゃうわよ?」
「お、お嬢様、もう少しだけ…ほらご覧下さい、磨けば磨くほどトーノ様の光沢が…」
(あー…エナさん、今日はもう休んで下さい。また…明日も俺を磨いてくれますか?)
「はっ⁈あぁ…トーノ様…はいっ!喜んで!お嬢様、また明日起こしに参りますね、それでは…」
エナが真っ赤な顔で部屋から出て行った。
エミリアがため息をつきながら俺を嵌めてサイズ調整する。
「リョウ、この女ったらし。いやらしい。」
(いや、俺指輪だからね⁉︎ああでも言わないと…ちょ、エミリア、そんな目で見るのはやめて欲し…叩くんじゃない。叩かないで下さい。)
機嫌の悪いエミリアを寝かしつけて、考えを再開する。
俺自身の事だ、魔術が使える様になった。エミリアを起こさない様に魔術を発動させてみる。
(光…薄っすら光る玉…魔力を切れば光は消える光源…魔力光。)
部屋の中央、床のすぐ上に小さな光が現れる、俺は魔力を切ってすぐに消す。
(…魔力光。)
全く同じ場所に小さな光が現れた、またすぐに魔力を切って消す。…ふむ。
(ステータス。)
頭の中にデータが現れる。
◇異世界の指輪◇
装備分類:リング
成長度:1
防御力:0
魔力値:6
アビリティ:筋力増強+1
サイズ調整
アクティブ:鑑定
パッシブ :魔力自在化
視覚自在化
思考制御
◇説明◇
詳細不明の金属で出来た指輪。
魔力は減って無いな、消費が少ない魔術だと1に満たないから変わらないのか…固定値なのか…それともステータスには魔力の消費は反映されないのか…実験が要るな。エミリアと相談してマキナウス領に帰ったら色々試そう。
…さて、これが一番興味を惹く。【鑑定】だ。
異世界転生モノだとこの鑑定ってのはやたらと使い勝手が良いチートだったりするが…さて、どうなるかな。
手始めにまず、
アクティブ:鑑定 を【鑑定】してみよう。




