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俺が指輪の物語(仮  作者: トム麻呂
12/45

12話 旅の間は迂闊な会話に注意しろ






『んー、……だけど…………いっかー』







(ん?エミリアなんか言ったか?)


「え?何も?」


王国歴476年 春の月85日


「どうしたんだいエミリア。」


「いえお父様、なんでもないわ。王都までは…3日程かかるのよね?」


 そう言いながらエミリアは馬車の窓から外を見ている、旅装に身を包んだエミリアは、冒険者の風体だ、レッセン曰く、豪華な装いでの旅は、良くも悪くも人目を引き過ぎるから控えた方が良いと。なので領主のデラクも貴族と言うより、商人みたいな見た目になっている。


 いやー、超久しぶりの遠出だな。


「そうだね、順調にいって3日目の昼過ぎ位かなぁ。夏の1日には充分間に合う予定だよ。ただこの時期は王都行きが多いからね、数日の余裕は持たせてるから焦らずにゆっくり行こう。」


「お嬢様、ご心配されなくても大丈夫ですわ、毎年早く着き過ぎて少し持て余すくらいなんですから。」


 エナがエミリアの隣でニコニコしながら答えた、エナも旅の間はメイド服では無く、旅装となっている。出発の前日ギリギリまで、ベルとどっちが行くかの熾烈な争奪戦をしていたのは内緒だ。


(目通りは建国祭2日目なんだよな?)


(そうね、初日は王家も祭の行事に忙しく動かれるそうだから、中日の2日目に呼ばれてるみたい。)


 今俺たちはマキナウス領を出て、王都に向けて馬車を走らせている。建国祭で国王に目通りするっていうから、普段はデラクとメイドのどっちかとレッセンだけで行くんだが、今回はエミリアも同行している。


 この世界の暦はわかりやすい、春夏秋冬の4つの季節にそれぞれ90日づつで360日、これで一年だ。何処の地球だよって突っ込みたい位に似て居るが、転生モノのお約束なのかもしれないな、似た様な星にってのは。


 原始時代に転生させられたり、虫や化け物なんかに生まれ変わるよりはよっぽどマシだ。

 ただ次があるなら、できれば生き物を希望したい。ちゃんと寿命がある、な。


「街道沿いに北上するだけですからな、途中に宿町もございますし、天気も良さそうですし、順調な旅になるでしょう。」


 御者台で会話が聞こえたのか、レッセンが振り返った。二頭立ての馬車で操るのはレッセンだ。ホントなんでも出来るなこの執事。


「街道沿いと言っても、道中では何があるかは分からないからね、レッセンが居るから問題は無いと思うけど、エミリアも迂闊に一人で出歩いちゃダメだよ?」


 戦争は無いとか、世の中は平和、とか言っても、犯罪者ってのはいつの世にも居るもんだ。マキナウス領から一歩出れば、町や村を繋ぐ街道が伸びるだけ、行き交う旅人や馬車、警備隊は所々に配備されているが、賊の被害に遭う者も居るらしい。野営中に野生動物に襲われた、なんて話もそんなに珍しいもんじゃない。


 流石に魔族が出た、とかは聞かないけど、この武闘派執事が居れば問題は無かろう。

 断じてこれはフラグじゃないからな。


「大丈夫よ、お父様。毎日の様に訓練もしてるし、コレもあるし。」


 エミリアが傍に置いたショートソードをポンポンと叩く。


(それに、リョウもついてるしね。)


(エミリア。お前はまだ10歳なんだぞ?その剣を使う様な事態になる事がそもそもダメなんだからな。)


「エミリア、そういうのは親の前で言ってはいけないよ。剣を持たせたのは危険な事をさせたいからじゃないよ?」


「もう、お父様もリョウも同じ事を言うのね。」


 荷物の中から革製の水筒を取り出し、膨れた頰に一口水を流し込んだ。


「お嬢様、実戦は訓練とは違いますぞ?お嬢様はまだまだでございます。」


「お嬢様、奥様がご心配なさいますので、無茶な事はなさらないで下さいね?」


 レッセンとエナが続く。


「もう!みんなして子供扱いするんだから!」


 ふくれるエミリアを横目に、周りは全員苦笑いだ、変なフラグが立ってエンカウントイベントなんぞ起きなけりゃいいがな。そん時は勿論全力でエミリアを逃すぞ。


「トーノ殿、エミリアの事を良く見てやって下さいね。」


(エミリア、デラクに分かったって伝えてくれ。)


「もう、知らない!」


 荷物に勢い良く水筒を突っ込みながらエミリアがドスンと席についた。


 向かいのデラクがため息をつきながら、エミリアの指に困り顔で視線を落とす。分かってるよデラク、エミリアは俺にとっても娘みたいなもんだからな。

 コラ、エミリア、俺をペシペシ叩くんじゃない。



 そんな会話の中で馬車はポクポクと順調に進む、行き交う旅人や荷馬車も増えてきたな。夕方前には宿泊予定の町へ着くそうだ。





 そろそろ日が傾いてきたな、エナは船を漕いでるが、デラクが寝かせてていいって言うからそのままに、レッセンは相変わらず順調に馬車を走らせる。

 エミリアもいつからか席にもたれて眠ってるな。


 あー、ひっさしぶりだなぁ、この感じ、デクスん時はたまーに勇者んとこに報告やら顔出しやらしてたが、代替わりしてからめっきり出歩いたり、遠出する機会も無かったしな。


「旦那様、予定の街が見えて参りました。」


(テンプレやフラグ回収が無くて良かったな。昔はバンバン回収してたもんだ、懐かしい。)


 馬車は順調に町へ向かっていった。







 …?なんだ?


(おい!おい!エミリア、起きろ!後ろからなんか聞こえないか⁈)


(ふえっ⁈)


 背後の街道が騒がしい、男女の悲鳴の様なものが聞こえる、なんだ?物凄い勢いで周囲の人間や馬車に体当たりしながら走って来る何かが…うお⁈狼か⁈


「エナ!起きて!お父様!レッセン!後ろが何か変よ⁈」


「は、はいっお嬢様⁈どうされまし?…ひぃっ⁈」


「どうしました⁈エナ、なっ…こんな町の近くにグレイウルフですと⁈しかも大きい…」


 後ろを確認したレッセンが馬に鞭を入れる、馬車が加速し、エミリアとエナがよろめいて床に手をついた。


「こんな町の近くでウルフが旅人を襲うなんて…レッセン!馬足を早めろ!どんどんこっちに向かって来るぞ!」


 遠くに見えた狼は、周りの旅人や馬車を跳ね除けながら町に向かって凄い勢いで走って来る、馬を急がせて町に向かって走っているが、全力で走るイヌ科の生き物に対して二頭立てとはいえ馬車の速度が敵うはずもない。しかも、前方にも旅人や他の馬車が居る為、全速で走る事も難しい。


「お、お父様、どんどんこっちへ!」


「お嬢様!旦那様!奥へ!」


 既に狼は全身がはっきりと見える距離まで近づいて来ていた、狂った様に走りながら周りの馬車にぶつかったりすれ違いざまに引っ掻いたりしているが、ほぼ一直線に町の方を目指している。


「エナ!エナ!手綱を変われ!旦那様!奴は町へ向かっている様子、一旦街道から逸れて馬車を止めます!」


 レッセンが後ろを振り向いて御者台へエナを呼ぶ、馬車を大きく左に向けると、未舗装の地面になったのだろう、馬車の揺れが激しくなる。エナは揺れと恐怖でエミリアにしがみついていた。その声に反応したのはデラクだった。


「レッセン!私が変わる、後ろを頼む!」


 かなりの速度で走る馬車の中でデラクが御者台に向かう中、俺は見た。


 そこまで迫って来ていた狼が、急に此方に向かって進路を変えるのを。



◇異世界の指輪◇

装備分類:リング

防御力:0

魔力値:3

アビリティ:筋力増強+1

サイズ調整

パッシブ :魔力操作

視覚自在化

思考制御


◇説明◇

詳細不明の金属で出来た指輪。

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