学校〜始業式で静かなハプニング〜
『ーーーるか、起きて。晴香』
次第にはっきりとしてくる声と揺さぶられる体につられて目をさます。
『おはよう…。』
大きく伸びをして起きた晴香は、瞬間我に帰る。昨日と同じ感覚に事の次第をはっきりと把握すると朝から憂鬱な気分になる。
『さ、おきて。今日から学校よ?初日から遅刻なんてしたくないでしょ。』
エプロン姿の真澄は腰に手を当てて晴香の布団を剥ぎ取る。おそらく朝食を作っていた最中なのだろう。時計の針は6:20を指していた。
『お、起きるから…先にご飯食べてていいよ?』
真澄にばれないように無駄な抵抗を見せる。しかし、晴香の思考など全てお見通しの真澄には軽くあしらわれる。そして、真実を突きつけられるのだった。
『何言ってるの。もう私は先に済ませちゃったわよ。それに、私が今からお部屋でちゃったら誰がはるかのおむつ替えるのかしら?』
おむつの部分だけあえて強調してそういうと、半ば強引に晴香のおむつに手をかける。
『いや、自分でできるから…。真澄、まって。』
抵抗も虚しく、体格的に有利な真澄に抑え込まれる。
『ダメよ。自分でやって万が一にも漏れ出したら洒落にならないわ。それに、晴香は私に任せておけばいいのよ。ふふ。』
後半は含みのある言い回しであったが、晴香はそんな事に気付くほどの余裕はなかった。
♢♦︎♢
『朝ごはん…これ?』
強引におむつを取り替えさせられ、そのあとも手取り足取り着替えをさせられた晴香は朝食をとるために席に着いたが、朝食をみて思わず口に出した。
『そうよ〜。晴香に食べて欲しかったの。これ、この前習ったばっかりで試したかったのよ〜。それに今の晴香にはお似合いでしょ?』
真澄が出したのは、ジャガイモや人参が細かくペースト状に刻まれたスープだった。もちろん、味は薄味である。これは、離乳食として用いられるものであった。
『でも…。』
不満を隠せない晴香だが、昨日からなんとなく逆らえない晴香であった。
『おむつ履いて、お漏らしもしちゃう晴香にはお似合いだと思うけどな〜?うそうそ、泣かないで晴香。さっきも言ったけど、習ってから試してなかったから作ってみたの。あ、食べさせて欲しいのかな?』
スプーンをもってすくうと、晴香の口元に持っていく。
『自分で食べるっ。』
“ふんっ”と言わんばかりの態度で、スプーンを真澄からとると食べ始めた。
『残念だわ。食べさせてあげたかったのに。』
言葉ではそう言いながらも満足そうに席を離れると、エプロンを外して制服に袖を通し始めた。
♢♦︎♢
『え〜、というわけでーーーーーーーーー。以上、今年も良い高校生活を過ごしてください。』
『気をつけっ。礼っ。』
『つぎにーーーー。』
校長や司会の教師の定型文にまみれた面白みのない話を聞き流しながら晴香は小刻みに足を震わしていた。
『晴香、出そうなんでしょ?』
小声で晴香にそう囁いたのは真澄である。
『うん…。』
小さく頷く晴香。
『我慢できないの?』
深刻そうな顔をして覗き込む。
『ぁ…。』
とっさに目をつぶり、足を寄せ先ほどより大きく足を震わせる。
この時、少しだけスカートが膨らんだが、そんなことに気付くのは真澄だけであった。
『晴香、でちゃったでしょ?履いててよかったわね。終わったら、変えてあげるわね。』
晴香にだけ聞こえる声でそういうと、誰にも気づかれないように晴香のスカートに手を忍ばせ、そのぬくもりを確認すると満足したように手を戻した。
(なんで…急に我慢できなくなったの。こんなこと初めてだし…。本当に私どうしちゃったの。)晴香は心の中でそう呟いた。
この時、1人の生徒はこの一部始終を眺めていたが、真澄の巧みな角度はその生徒の視線を拒んでいた。そのため、その生徒には何が起こったか確認する術はなかった。しかし、これが後々決定的な確信へと変わってしまう事になるとは誰が想像できただろうか。とはいえ、それはまだ先の話である。
♢♦︎♢
『いっぱい出たわねぇ〜。こんなに我慢しちゃって。さ、右足から上げて…そう、次は左足よ。』
2人しかいない保健室で晴香のおむつ替えをしていた。
『そんなに大きい声で言わないでよ、真澄。それに…自分でできるのにぃ…。』
晴香は、替えのおむつを自分で持っていない為真澄の言う通りにするしかなかった。真澄が替えるのを拒めば、渡さないと言われるのは目に見えていたからである。もしくは、本当にそんなやり取りがあったのかもしれない。
『大丈夫よ。誰もいないから。それに、2人で治すって言ったでしょ?』
不満そうな晴香を黙らせるにはこれ以上ないほど効果的な一言であった。
『さ、できたわよ。もう、替えのおむつないからお家まではちゃんとトイレに行くのよ?ふふ、それにしても替えのおむつ本当に使っちゃうとわね〜。昨日約束した通り、昼間も毎日おむつしてもらうからね。』
いいと終わると、“ぽんっ”と優しく晴香のお尻を叩く。その仕草は晴香の羞恥心を掻き立てる。
『ふ、ふんっ…』
約束をしてしまった以上、犯行のできない晴香は不満げにそっぽを向いて答えるが、それはイエスという意味であることに変わりはなかった。
♢♦︎♢
初日の学校を終えて、寮の部屋へ帰ってくる。帰り道の電車の中でもう一度失敗してしまった晴香は、その状態のまま寮の部屋まで帰らなくてはならなくなっていたようだ。
部屋に入ると真澄はそのまま、慣れた手つきで晴香のそれを交換する。
『じゃ、私少し出かけてくるわね。夕飯のお買い物もついでにしてくるから。晴香は疲れたでしょ?休んでていいわよ。』
そう言い残すと足早に部屋を去っていった。
♢♦︎♢
『あら…○○もーーなのね。いいわよ。ふふふ。』
なにか話す声が聞こえるが、小さい声は雑音にかき消されてうまく聞こえない。
話していた女と思われるシルエットはもう片方の少女に何かしている様子だった。
『じゃあ…また来るわね。それじゃ』
影は足早に去っていった。
♢♦︎♢
数時間後、スーパーのビニール袋を幾つか持って帰ってきた真澄はそのまま夕飯を簡単に作り晴香と食べた。
夕飯は甘口のカレーであった。
因みに、この寮はそれぞれの部屋にトイレ、風呂、キッチチンまでもついていてとても高級な仕様となっていた。
既に学校は始まった。ここから、本格的に様々なものが動き出すことであろう。人は歯車のようにお互い噛み合って回る。隣の歯車はその隣の歯車と噛み合って回る。歯車は一つが動けば連動して動き出すのだ。