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晴香の黄色い青春  作者: じゅん
3/10

春休み〜最後の日〜

深夜3:00頃。


“がちゃっ…バタン”

ドアの鍵が空いて、何かが入ってくる。

足音は次第に大きくなり、熟睡した晴香の前で止まる。


『ふふ。よく眠ってるわ。三時なら当たり前よね。あら…布団がめくれてるわね。』

掛け布団が晴香の体からずり落ちていたのをかけ直す…その時。


『あら、この子ったら…ふふ。』


意味深な笑みをこぼして、布団をかけ直す。


『さあ、私も寝ようかしら…』


女は、晴香を起こさないよう小声でそう呟くと荷物を置いて寝巻きに着替える。そしてベッドに入り、すぐに寝てしまった。


♢♦︎♢


朝、晴香は目を覚ますと昨日までの違和感を感じなかった。

『やった!今日は平気だったみたい』


眠気が一気に飛んで、ハイテンションでそう声に出す。


『ふふ、晴香、おはよう。今日は平気だったって…昨日は何がダメだったのかしら?』

聞いてきたのは、昨夜帰ってきた真澄である。晴香はこの時初めて真澄が帰ってきたことを知る。


『え、真澄、帰ってたの?てっきり今日の昼頃帰ってくるのかと思ってた…って、平気だったってのは…べつに何でもなくて…夢…そう!夢でそんなのみたの!だ、だから何でもないからっ。』


慌てて、取り消す晴香。しかし、この時晴香は気づいた。

(そうだった…今はあれ履いてるんだった…。それになんか少し重いし、じくじくする…これって…まさか?)


『ふーん?そうなんだ〜。まぁいいわ。朝ごはんにしましょ。』

全てを見透かしたかのような含みのある言い方をして部屋を出ていく真澄。


真澄が出て行ったことで少し安心した晴香は、スカートをめくっていま履いているそれを確認する。

(なんだか…黄色く染まってる…。でも、お布団とかには漏れてないみたい。さ、はやく脱がないと…)

その時。


『あ、そうそう。晴香…。あーら、晴香ちゃん、やっぱりなんでもなくなんてないじゃない〜。』


急に部屋に入ってきた真澄は晴香のスカートの中のものを確認する。この時、真澄は晴香にたいして“ちゃん付け”で呼んでいるが、今までこんな風に呼んだことは一度としてなかった。

晴香も見られていることに気づく。そのせいで晴香は頭が真っ白になってすこしの間固まっていた。


『それにしても…おむつとはねぇ。あら、いいのよ。晴香ちゃん、おねしょが治ってなかったなら仕方ないわよね〜』

さほど、驚く様子もなくむしろその雰囲気からは愉しんでいるようにも見える。


♢♦︎♢


その後、味のない朝食を食べ終えお茶を飲みながら事情を真澄に話す晴香。その顔からは、恥ずかしさからくる顔の赤みが抜けることは終始一貫してなかった。晴香のお茶が減ることはなかった。


『ーーーーーということで、昨日からお…おむつしてたの。』

おむつをしていた経緯を話し終える晴香。その様子は、下にうつむいたまま手は広げて膝の上に置き、膝はぴったりとくっつけており、体には力が入っていた。


『そう、それは大変だったわね。』

ティーカップを片手に言う。真澄は足を組み、左の肘たててその手で顔を支えている。その様子はさながら、おいたをした幼い子の言い訳を聴いている母親のようである。


『でも、大丈夫よ。私、誰にも言わないもの。2人で治す方法考えましょ。』

微笑んでそういう様子は、真澄の晴香へ対する想いの大きさでもあると言える。


『あ、ありがとう。真澄に話してよかった。』

すこし元気を取り戻した様子の晴香。それでも、顔の赤みがなくなることはない。


『でも…おむつは毎日するのよ?私もフォローしてばれないようにするし、なによりばれない為にも毎日してね?いい?』


『うん…。わ、わかってるよ。』

ふいっと、顔を逸らして答える。


『昼間もよ。』

と、付け加える真澄。


『え?』

夜だけだと思っていた晴香は驚きを隠せないでいる。


『だって、晴香昨日お漏らししたでしょう?』

“ふふ”と微笑むかのような顔でそう言い当てる様子は、探偵が犯人を特定して言い当てる瞬間に似ている。


『な、なんで知ってるの?』

話していないことを言い当てられた晴香は先ほどより困惑している。こちらも、犯行を言い当てられた犯人さながらである。


『簡単よ。だって、スカートにおしっこの臭いが付いてたもの。朝、びっくりしたわよ〜。ま、その後みたおむつの方がびっくりしたけどね。』

(本当はそんなことでわかったわけじゃないけどね。晴香には秘密だわ。)


『…。』

(そんな…。ちゃんと洗濯したと思ったのに…。)


『さ、わかったわよね?昼間もするのよ?いい?お返事はどうしたのかしら?晴香ちゃん?』

覗き込むように晴香の顔を見る。


『う…。きょ、今日大丈夫だったら、夜だけだからねっ。』


『それでいいわよ〜。さてと、勿体無いからしっかりお茶飲むのよ。私、ちょっと用事あるから数時間出かけてくるわね。』

真澄は椅子から立ち上がって、そう言い残すと鞄をもって寮を後にした。


『忙しくなってきたわね。向こうはそろそろ手がかからなくなってきたわ。案外簡単だったわね。』

小さい声で呟くのは真澄である。真澄は、人ごみの中へと消えていった。どこへ行ったか知るものはいない。


♢♦︎♢


『さ、そろそろ寝ましょ。明日は始業式よ。準備に怠りはない?』

晴香にそう話しかけると、部屋の電気のスイッチに手をかける。


『大丈夫。忘れ物はないよ。』


『じゃあ、おやすみ、晴香。』


『おやすみ、真澄。』


と、同時に部屋の明かりは落ちた。

部屋のゴミ箱には、ビニール袋の口が堅く閉められたゴミが2個入っていた。


明日からは学校が始まる。晴香はと真澄、そしてじゅんを交えた物語は既に幕を開けた。

甘酸っぱい青春の時間を懐かしい匂いを漂わせた時間へ。黄色く染まる青春は匂いを帯びて、すぐそこまで来ている。

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