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10th Round  作者: 藤島高志
護るべきモノ
27/44

IX

涼と凛の2人は真っ直ぐ寮へと帰るようなことはしなかった。

なるべく人が少なく、巻き込む物が少ないところへと歩いて移動していた。


「かなり近くに感じるのですよ!」


リーンがそう叫び、涼と凛はすぐに周りを警戒するように辺りを(うかが)う。

すると明らかに法定速度を無視したバイクが、前方の曲がり角から飛び出してきた。

運転手は服装から女性であることはわかったが、顔はフルフェイスのヘルメットで隠されており視認(しにん)することはできない。


「ミア、今すぐ結界を張ってくれ。」


涼は切羽詰(せっぱつ)まった声で言ったが、そんな涼とは対照的にミアは大きな欠伸(あくび)をして、気の抜けたような声で応える。


「良いだろう。それで、付与(ふよ)する効果はなんだ?」

「効果?お前…俺にまだ結界について説明してないだろ!」

隔離(かくり)不可視(ふかし)人払(ひとばら)い!この3つよ!」

「ほう。誰かさんと違って優秀だな。了解した。」


ミアは指先に蒼炎を灯し、空めがけて投げ上げた。

徐々に大きくなった炎は上空で爆発するように飛び散り消え去る。


猛スピードを維持しながら華麗(かれい)にドリフトを決めたバイクはさらにスピードを上げて涼達の元へと突っ込んできた。


「凛、後ろに下がってくれ!」


凛を(かば)うように涼が身構えると、バイクの運転手はスピードを上げたままバイクから飛び降り、操縦者を失ったバイクだけが高速で涼めがけて突進して来た。


「くっ!蒼炎よ、宿れ!」


涼は右手に剣を喚び出し、水平に()ぐ。

剣閃(けんせん)の延長線上を突き進んでいたバイクは真っ二つに斬り裂かれ燃え上がった。

飛び降りた運転手は無事に着地しており、フルフェイスのヘルメットを脱ぎ捨てながら涼へと馴れ馴れしく話しかける。


「なかなかやるじゃねぇか。やっぱりジャパンのサムライは(あなど)れないな。」


ヘルメットを脱いだ少女は明らかに日本人ではない風貌(ふうぼう)をしていた。


日本人(ジャパニーズ)だからって安易(あんい)にサムライ扱いされるのは好きじゃないな。それに…お前どこ出身だ?」

「私は中東出身だ。訳あってお前の後ろにいる女を殺そうと思って来た。眷属(けんぞく)程度だろうと思っていたが、まさかお前も契約者とはな。」


浅黒い肌に、彫りが深くパッチリとした眼が印象的な女は唇の端を吊り上げながら笑う。

ショートカットの藍色がかった黒色の髪は艶やかな色を放っていた。


「なぜいきなり襲ってきた?まずは話し合えば分かり合えたかもしれないじゃないか」

「話し合い?なんの冗談だ。お前と、お前の後ろにいる金髪と、何の能力かは知らんが2つとも私が奪ってやるよ。」

「なら、力尽くでやってみろよ。やれるかどうかはわからないけどな」

「お前、面白いな。サムライとの死合(しあ)いだからこそ、正々堂々と行こうか」


女は瞳に濃密な殺意を宿らせると、冷たい笑みを浮かべながら胸元からガラスの小瓶を取り出す。

何か液体の入った瓶のコルクの栓を抜くと、目を(つむ)り小さな声で呪文を詠唱(えいしょう)し始めた。


「聖水よ、宿れ。聖水は全てを阻み我が大地を潤す大いなる恵みとならん!」


女の言葉を受け、輝きを一層強く放つ小瓶からは明らかに容積の10倍以上の水が噴き出す。

しばらくすると収束した水は大小2つの円となり、女の身体の周りを回転しながら(ただよ)い始めた。


「おい!サムライ!死にたくなければ投降(とうこう)する機会を与えてやる。どうするんだ?」


涼の答えは聞かれるまでもなく最初から決まっていた。


「俺の名前はサムライではない!投降(とうこう)する気もさらさらない!」


女はニヤリと笑いファイティングポーズを取ると、足を半歩後ろに引いた。


「そうか。お前のその純粋な闘志を讃え名を名乗ってやるよ。私はレイラ・ルルーシュ。中東の掃き溜めのような街で生まれ、元々はテロリストをやっていた。」

「どういうこと…っ!」


聞き慣れない言葉の意味を尋ねようとした涼は襲いかかる無数の水でできた針を回避するために横に飛ぶ。

剣を前に構え、20メートルほど開いていた距離を詰めようと蒼炎を纏ったが、すぐに水の針による追撃を受けることとなり、安易に近づくことはできない。


「その程度か?もっと本気を出せ!」


防戦一方の涼は1度空中へと飛び、間をとる。

相手を近づけさせないために直径1メートルほどの蒼炎の火球をいくつも作り出し、レイラに向かって投げつけた。


しかし、レイラは水の翼を生やし空へと飛び上がることで全ての弾丸を難なくかわした。

当然のことだが、放った火球は消えることはなく道路のコンクリートに着弾し、辺りを破壊する。


「攻撃を外せば外すほど、また土木作業の真似事をしなければならんぞ。」


傍に浮かぶミアが涼を小馬鹿にしたように揶揄(からか)ったが、水の針の攻撃を回避することに専念している涼はまともに反応することができなかった。


「なかなかやるな。サムライ。お前の名前も聞いてやろう。ほら、死ぬ前にさっさと名乗れ。気が向いたら後世に語り継いでやっても良いぞ。」

「促されて名乗るのは本当は好きじゃないんだが…俺の名は(かがり) (りょう)だ。」


言い終わるやいなや、涼は魔力を爆発的に増幅させ、一気に間合いを詰めて油断しているレイラに斬り掛かる。

回避し切れないと即時に悟ったレイラは、両腕をクロスして掲げて涼の剣戟(けんげき)を防ぐと同時に水の針を数十本作り出し、涼へと放った。


「生身で剣を防いだのか!?」


涼は驚愕の声を漏らしつつもバックステップして針の攻撃を回避し、休む間もなく再び突進し斬り掛かった。


だが、今度も剣が身体に傷を付けることは無く、右腕一本で防がれてしまう。


涼が剣を振る運動を中断されたことによる身体の硬直から抜け出す前に、レイラは左の掌に円錐状に水を集め槍を作り出すと、それを涼の右肩に躊躇(ためら)いもなく突き刺した。


「ぐああああ!!」


涼は想像以上の痛みに顔を(しか)め、右腕から力が抜けてしまう。

右手に持っていた剣は魔力供給が途切れたため光となって消える。

涼は肩をかばいながら、間合いを取ろうと後ろに飛んだが、その動きを読んでいたからのように涼が後ろへ下がる速度と全く同じ速度でレイラが前に踏み込み、勢いをつけて涼の腹に水の棘を纏った右足の飛び蹴りを叩き込んだ。

涼は地面に向かって吹き飛ばされ、地面をゴロゴロと転がる。


「おいおい何をやっている我が契約者よ。こんな戦いではいずれ魔力切れになってしまうぞ。そろそろ相手をまともに倒そうとしろ。」

「してるっての…!」


涼は血が溢れ出す右肩をさっと左手で撫でると、小さな蒼炎が出現し、炎が消えると血が止まり傷も塞がっていた。


「お前の能力は回復に特化しているのか。なら、全力でいっても簡単には死ななさそうだな。」


レイラは驚異的な治癒力に一瞬目を見張ったが、すぐに薄く笑うと地上に向かって滑空し、その勢いを乗せた拳を突き出す。


涼は上段蹴りで拳の方向を逸らすと、左の拳に燃焼の力を込めた蒼炎を纏い、勢いのついたレイラの身体にボディブロウを放った。

しかし、拳が当たる直前にレイラが水の障壁をつくり、レイラは衝撃で吹き飛んだが、涼の攻撃は肌を軽く焼いただけに終わる。


「くそっ!」


涼はそのまま接近し、拳と拳での格闘へと持ち込んだ。


ただ、相手は百戦錬磨の現役の戦士であり、平和な日本で暮らす少し運動神経がいい程度の、派手な喧嘩もしたことがない高校生にとっては無謀な挑戦だと思われた。


しかし、それはただの殴り合いであった場合の話だ。今2人が展開する殴り合いはところどころに魔法を交え、もしどちらかの一撃がまともに入れば致命傷にもなりかねない殴り合いだった。


涼は蒼炎を腕に集中させ、レイラの肌を徐々に焼いていく。

一方で、レイラは水で細かい棘をいくつも腕や手に作り、涼に対して派手な効果はないものの、ダメージを蓄積させていった。



殴り合いの勝負を分けたのは回復力の差だった。

涼は、魔力を込めればレイラから受けた傷をすぐ治せるのに対して、レイラは回復特化の能力ではないため、蓄積したダメージからの回復が遅く動きがだんだんと鈍くなっていった。


「これで、終わりだ!」


涼はそう叫びながら蹴りを放ち、レイラを吹き飛ばすと、すぐに手に先ほどの3倍以上の大きさの蒼炎の火球を作り出し投げつけた。

火球が着弾し、轟音(ごうおん)と粉塵が辺りに撒き散らされる。

漂う熱波(ねっぱ)は涼の肌をチリチリと焼いた。


「おい。敵を倒すためには多少は仕方ないと思うが、道路を壊しすぎでばないか?」

「はぁ…はぁ…。確かに多少やりすぎたか…?」


火球の爆発により立ち上った埃や煙が晴れると、着弾点には火球によるダメージを全く受けていないレイラが立っていた。


「あれを防がれるとは…」

「どうしたカガリ。まさか勝った気だったのか?」


レイラの足下を見ると、レイラを中心にして円状にアスファルトが綺麗に残っていた。

つまり、レイラは自分を中心として半円状の水の防御壁を作り出し、涼の攻撃を防いだのだった。

涼の攻撃はレイラの防御壁に込められた魔力を貫通することはできず、結果として回復するチャンスも与えてしまったのだった。


「マジかよ…。そんな防ぎ方をされるとはな…。」


涼は剣を右手に出現させ、右足を半歩引き、突撃態勢をとった。


「さっさと決めんか。長引かせる意味もないぞ」


ミアがそう言うと、涼の魔力が莫大に膨れ上がり背中には蒼炎の翼が形取られた。


「ありがとうミア。けれど次で必ず決めるさ」

「綺麗な翼だな。まるで天使のようだ。ほら、もっと私を楽しませてみろよ!」


レイラは極限の命のやり取りによる興奮を抑えきれず、身体から蒼いオーラを放つ。

涼は地を蹴り、ロケットのように飛び出した。


レイラは左手に水の槍を作り、飛び込んでくる涼の顔面に向けて突き出す。

涼はそれを首を振って避け、そのままの勢いで剣を脇腹に向けて突き出した。


レイラは水の障壁を作り出したが、先ほどより大きな魔力を込めた剣が障壁を貫通し、深々と剣がレイラの身体に突き刺さり貫通した。


「あああ!ぐぁぁぁ!」


涼はそのまま剣を手放し、右足の蹴りを刺さったままの剣の柄に放つ。


剣は深々と刺さり、レイラは受けた勢いのまま弾き飛ばされ、数十メートルほど地面を転がり止まった。

涼は最後の一撃で大きく魔力を消耗し、立っているのも覚束(おぼつか)ないくらいにフラフラになり、倒れそうになる。


「涼!まさか殺してしまったの?」


大勢を決したのを悟った凛は、涼の元へと駆け付けて倒れそうになった涼を抱き留める。


「いや、殺すわけがないだろ。今刺さっている剣を消してしまうと血が溢れるだろうけど、今は剣が栓のようになってると思う。今から治療してくるよ。」


涼は凛の身体に寄りかかるようにして自分の体勢を立て直すと、頰が紅潮しそうなのを堪え、すぐに凛から離れる。


「そう…。涼の魔力は大丈夫なの?治したらまた襲われない?」


凛は心配そうに尋ねたが、涼に表情に心配の色はなかった。


「さすがに今は攻撃して来ないだろうね。後でまた来る可能性はあるだろうけど、向こうも死なないために今魔力を使ってるだろうし、助けられて襲ってくるのは正々堂々とは言わないだろ?」


涼はレイラに近づくと、刺さった剣に手を添え、魔力を込めた。


「カガリ…お前なかなかやるじゃねぇか…。油断してしまった私の負けというわけか。ほら、さっさと止めを刺してくれ。これ結構痛いんだ。」


レイラは血の気の引いた顔で薄く笑う。


「いや、そんなことはしない。俺は人を殺すことだけはしたくないからな。お前にも家族や大切に思う人がいるだろ?お前を殺すとその人達が悲しむからな。悲しみは憎しみしか生まない。」


涼がそう言うと、レイラは声を上げて笑い出した。


「ふはっ!ふははははは!甘い。甘すぎるぞお前は。流石は平和な温室育ちだな。自分の権利を守るためには少々の犠牲は気にしない、それが私の考え方だ。確かに、人を殺めるのは間違っているかもしれない。しかし、この戦争でも私が他の契約者の9人を殺せば、私の願いによって誰でも、何人でも救うことができる。そういう考えにはならんか?」

「お前の言っていることは、人間の命に価値をつけるということだ。多くの人間を助ければいいという話ではない。その行為までに至る過程が大事なんだ。」


涼はレイラの目を見て反論した。


「言ってろジャパニーズ。それで、お前は今何をしてるんだ?身体が楽になって来たのだが、もしかして苦しませないために毒でも盛ったのか?」

「違う。お前の内臓を再生し、傷を塞いだ。今回は見逃してやる。話し合う気になったらここに連絡しろ。」


涼はそう言うとレイラの服から取り出した携帯電話に自分の電話番号を打ち込み、コールして履歴を残した。

淡々と質問に答える涼にレイラは信じられないものでも見たように目を丸くする。


「お前、殺されかけた相手を助けて見逃すのか?相当の平和ボケだな。」

「なんとでも言え、ほら、俺は道路を直すからお前はさっさと帰れ。」


治療を終えた涼が立ち上がり、レイラの腕を引っ張って起こすと、レイラは少し俯きながら礼を言った。


しかし、レイラはそこから動こうとしなかった。


「おい。今日はもう帰っとけって。魔力もあまり残ってないだろ?俺はもう戦えないが、もう1人契約者がいることを忘れるな。」


涼が呆れ顔で言うと、レイラは首を振る。


そして俯いたまま、さっきまでとは正反対の消え入りそうな声で言った。


「いや、その…今日の宿が無くてな…。どこか、泊まれるところを教えてほしいのだが…。」

「は?え、あ…うーん…とりあえずちょっと待て。」


肩透かしを食らった涼は間抜けた面を晒し、しばらく動くことができなかった。


「こんなことをお願いするのもおかしいのはわかっている。だが、頼めないか?」

「う、うん。わかったから。」


なんとか立ち直った涼は、道路に向けて炎を放ち、壊れた箇所を元通りに直す。

直し終わると、次は自分とレイラを炎で包み、傷を治し、破れた服を元どおりに直した。

それを確認した涼は魔力を切って蒼炎を纏った状態を解除し、完全に戦闘態勢を解除した。


「涼、はい、これ。」


凛は涼の荷物をまとめて持ってきて涼へと渡した。

涼はそれを受け取ろうとしたが、いつもは楽に持てるはずの荷物が魔力の使いすぎによる弊害(へいがい)で尋常じゃないレベルで重く感じられ、腕にと力がうまく入らず大きくバランスを崩してしまう。


「えっ?」

「あっ…。」


凛はとっさに涼を支え、涼が何かを掴むために伸ばしていた両腕は凛の腰に回される。

期せずして2人は抱き合うような形になり、お互いの吐息がかかるような距離まで近づく。


涼はすぐに離れようと身体に力を入れ直したが、やはり上手く力が入ることはなく、凛にもたれかかってしまう。


「ごめん。ちょっと限界みたいだ。」

「だから私は貴方1人に戦わせたくないと思ったのよ。」


内心で焦りまくる涼とは対照的に、凛はただ素直に涼の身体を心配するのみだった。


(ミア、頼むから少し力を分けてくれ。)

(別に構わんが、あまりお勧めはせんぞ。)

(なんでもいいからすぐにやってくれ。)

(仕方がないな…。)


ミアは呆れたようにため息をつくと、すぐに限界した。

いつもとは違い涼の目の前まで移動すると、いきなり首筋に口付けた。


「はっ!?おまっ!お前何やってんだ!?」

「何と言われてもな。ただお前に力を与えただけだ。」


ミアは薄く笑いながらそう告げると、また虚空へと溶けていった。

涼の首筋には蒼い花の紋章が浮かび上がり、それが消えると涼は途端に身体が軽くなったように感じた。

ゆっくりと凛から手を離し、自分の力で立ち上がる。


「本当にごめん。なんていうか、色々と。」

「別に構わないわ。」


凛はなぜだか不機嫌そうな声でそう答えた。


「ごめん。嫌だったよな…。」


涼は好きでもない男に事故とはいえ長時間にわたり抱き付かれるような形になったことに凛が怒っていると思い、素直に頭を下げた。


「もういいって言ってるでしょう。」

「あ、ありがとう。あのさ、寮の部屋にもし良かったらレイラのこと、泊めてやってくれないかな?」


涼はすまなさそうに頬をかいて目をそらす。


夕日の光が眩しく感じられ目を細めるが、凛からの返答はない。


「あのー?凛?」


再度問いかけると俯いて静かに震えていた凛は顔を上げて涼へと詰め寄った。


「はぁ?貴方頭は大丈夫なのかしら?貴方に襲いかかってきた人物をなぜ私が家に泊めなければいけないの?」

「いや、宿がないらしくてな…。まぁ、今日だけでもいいからお願いするよ。悪いやつではなさそうだし…。」


涼が頭をさげると、凛はしばらく悩んだ後、大きくため息をついて呆れ顔でしぶしぶ頷いた。


「レイラ、この女の子がお前を今日家に泊めてくれる人だ。感謝しろよ。」

「あ、ああ。すまない。私の名はレイラだ。今日はもう魔力もあまり無いから襲ったりするようなことは決してしない。」

「私は坂井凛よ。そしてこっちが私の契約した守護天使ハニエルのリーン。」


凛はピアスを外しレイラに触らせると、リーンを現界させ天使と一緒に自己紹介をした。


レイラもそれに(なら)い、ネックレスを外して凛と涼に触らせてから守護天使を現界させた。

目を覆うような青い光のあと、空中には翼を生やした黒づくめの少年が現れた。


「俺を呼び出すとは。何の用なんだよ。」

「お前にも挨拶をしてほしい。ここにいる者は全員名乗り終わった。残りはお前だけだ。」

「おいおい。ここにはミアもいるんだろう。俺あいつ苦手なんだよ。」


現界した天使はどうやらミアを知っており、加えて苦手意識を抱いているらしかった。


すると、ミアも光を放ち現界する。


「ほう。私のことが苦手と。黙って挨拶をすればよかったものを、余計なことしか喋れないのか。」


ミアが現れたことを視認すると、少年のような見た目の天使は焦りを隠せず、思い切り態度に出てしまう。


「げっ!?出てくるんじゃねぇよ…。俺は第4のセフィラ、『ケセド』の守護天使ザドキエルだ。名はアメルという。2度と会うことはないだろうが、いや、会いたくないが以後お見知り置きを。」


アメルの態度を見て、リーンは呆れたように少し笑う。


「相変わらず態度が悪いのです。でも、いつも通りで良かったのです。」

「は?馴れ合うんじゃねぇよ。お前らも全員敵だからな。」


アメルは怒ったようにそう言い残すと虚空へと溶けていく。

それを合図のようにして、残りの2体の天使も虚空へと消えていった。


「とりあえず、今日はレイラは凛の部屋に泊まってくれ。そして、明日の朝に凛の部屋から出たら俺を襲ってきてもいいけれど、よく考えてからにしてくれよ。」


涼の若干の猜疑心が見え隠れした言葉を受けると、レイラは力強く頷いて、凛に向き直った。


「ああ。わかっているよ。ではリン、よろしく頼む。」

「はいはい。なんで私がこんな役回りなのかしら」


凛は呆れたように笑いながらも嫌がるそぶりは見せなかった。

今回はここまでとなります。

お読みいただきありがとうございます。

また次話も宜しくお願い致します。


誤字、脱字やわかりにくい表現等ご指摘ください。

感想、評価いただけると幸いです。

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