XIII
初の戦闘シーンです。
描写がアレなのはすみません。
「な、なんで涼が…!?」
凛の瞳には驚愕と恐怖が入り混じったような感情が映る。
「凛こそ…どうして…?」
涼も驚きに声が出せず、絞り出した声は掠れた弱々しいものだった。
「私は…私は…。」
凛は俯き口ごもる。
凛が持つ風を纏う細剣は緊張や怒りからか剣先が震えていた。
「俺は凛と戦いたくない。こんなのは…やめよう。」
涼は震える声で呼びかけたが、顔を上げた凛の眼光は感情の込もらない冷たいものへと変化し、声もそれに伴って感情を押し殺したような落ち着いた声になる。
「私は涼と友達になれて嬉しかったし、楽しかった。何より貴方には感謝している。けれど、私の願いは世界を変えるために叶えなければいけない。だから…ごめん。」
凛はそう言うと細剣に周囲の風を集め始めた。
暴風とも言える風が凛を中心に渦を巻き、涼は目を開け立っているのがやっとだった。
「待ってくれ!俺は凛を傷つけたくない!まずは話を—」
「そんな悠長なことをする暇はないのよ!」
涼の必死の訴えを遮り、凛は地を蹴る。
そのまま剣を振るい、束ねた風を涼に向けて全て叩きつけた。
防御態勢が取れていなかった涼はまともにそれを受け止めることとなり、簡単に吹き飛ばされてしまい、屋上のフェンスに背中から叩きけられる。
「がはっ!!」
衝撃により肺の中の空気が強制的に奪われ、一時的な酸欠状態に陥り激しく咳き込む。
四つん這いになりやっとの事で呼吸を整え、凛の方を見る。
「おい。何をしておる。そんな無防備で勝てると思っておるのか。」
一方のミアは涼が吹き飛ばされたり、咳き込んだりする様子を見ても全く心配する様子を見せておらず、むしろ余裕すら感じる態度で宙に浮いていた。
「体は全く痛くないだろう?それが我が能力よ。ダメージを受けても魔力さえあれば即座に回復することができる。」
そう言われて涼は、信じられないような速度でフェンスに叩きつけられたにもかかわらず、身体から痛みが全く感じられないことに気付いた。
「痛みはなくても機能的な不全はフィードバックを受けるんだな。」
立ち上がりながら憎まれ口を叩くと、ミアは都合が悪いのか何も答えずにそっぽを向いた。
破壊による煙が晴れ、凛は傷1つない涼の身体を目の当たりにすることとなった。
自身の魔力を込めた攻撃に全く効果がないように映る涼の姿に瞳には動揺の色が浮かぶ。
それでも追撃のため地を蹴り、細剣を水平に振るった。
涼はそれを逆手に持ち替えた剣の腹で攻撃受け、空いた左手に蒼炎を纏い凛の心臓へ拳を放つ。
凛はそれを右手に握った剣を消すことで右手を自由にして受け止めた。
涼の思惑とは違い、纏った炎は凛の肌を少しも焼くことはなく、いとも簡単に受け止められ、炎も風の鎧にかき消されてしまった。
困惑する涼に構うことなく凛は剣を今度は左手に喚び出しガラ空きの涼の腹を突き刺した。
涼の回復は間に合うことはなく、明確な痛みと体内に異物が侵入する違和感が灼けるような感覚として脳に伝わる。
「っ!?ぐっ!」
凛がすぐ剣を抜いて後方へ通りだ飛んだため、小さな傷口から血が流れ出た。
涼はあまりの痛みに剣を顕現させるための魔力を持続させることができず、剣は姿を失ってしまう。
「お前の炎はそのままでは何かを燃やすことなどできないぞ。燃やすための意思を込めないと燃やすことなどできない。」
蹲った涼の頭上でミアが苛立つようにそう呟く。
涼が刺され、流血までしているというのにまだミアは涼の苦しみなどどこ吹く風といった態度だ。
涼は震える足で立ち上がり、傷口に蒼炎を纏った手を当てる。
すると瞬く間に傷口にも蒼い炎が灯り、傷口は一瞬にして塞がり、どこを傷つけられたのかもわからないぐらいに回復する。
「これじゃまるでゾンビみたいだな…。」
「死ぬよりはマシだろう?」
「それには違いないけどな…。」
涼は暗く笑うと凛と再び正対した。
「凛。俺はお前を傷つけたくない。凛がいくら俺を傷つけても絶対に恨んだりしない。だから1度だけでいい。少しだけ話し合わないか?」
凛は一瞬動きが止まったように見えたが、また戦闘態勢に入る。
凛の戦意を悟った涼は地を蹴り空中に飛び上がると、大きな火球を喚び出し、それを凛に向けて投げつける。
凛はそれを避けて空中に浮かぶ涼に向かって突進を仕掛けたが、涼は凛が間合いに入った瞬間に凛の手首に蹴りを入れて細剣を取り落とさせた。
武器を失ったことによる一瞬の硬直を見逃さず、凛の腹に今度は燃焼の意思を込めた蒼炎を纏う拳を放ち、凛を学園の屋上へと叩き落す。
屋上が盛大に壊れたことにより煙や瓦礫が舞い、それが晴れた時には傷だらけの凛が立っていた。
「もう降参してくれ。これ以上攻撃することによって俺は友達を失いたくない。」
凛は唇を噛み締めると右手に喚び出していた細剣を消した。
「なら、涼が私の願いを代わりに叶えてくれるの?私に自分の願いを捨て去れと言うの?」
凛は先程まで無表情で戦っていたように見えたが、実際は悲しみを抑えて戦っていたのだろう。
凛の瞳には涙が溜まっていた。
「それは、凛の望みを聞くまではわからない。俺はただ…凛をこれ以上傷つけたくないだけなんだ。だから、どうか俺を信じて欲しい。」
「そんな風に言われたって…私はまだ…人を信じきることはできないわよ…。でも私だって貴方と戦いたくはない!」
凛の眼から抑えきれずに涙がこぼれ落ち、その涙がコンクリートに染みを作った時、凛の姿は涼の視界から消え、一瞬で涼の真後ろに回り込んでいた。
涼が気配を察知し振り向いた時には凛が再び喚び出した細剣が涼の眼前に迫っていた。
涼はそれを強引に右手で掴み取り、回転の勢いのまま右の蹴りを脇腹に放った。
蹴りは凛の左手によって防がれ、体勢を崩したところに膝蹴りが涼の腹にめり込んだ。
「かはっ!!」
口から吐瀉物が溢れそうになるのを懸命にこらえて後ろに飛ぶ。
「いつまでも手加減してはいられないぞ?早くあの娘を焼き殺せ。」
ミアは憮然とした表情でそう囁いてくるが、涼としてはこれ以上凛を傷つけたくなかった。
彼女の苦しみを理解し、彼女が少しでも他人を信じようと思えるように彼女を支えたいと思っていた。
「このままではジリ貧だぞ?回復にも魔力が必要だ。あと2回程度致命傷を負えば助からないかもしれないな。」
「うるさいな。わかってるよ。俺が信じる道のためにお前の能力、使わせてもらうぞ。」
涼はそう言うと剣を消し、纏った蒼炎を腕と足に集中させた。
「凛。今は人を信じられないかもしれない。でも、俺は絶対に凛を裏切らない。だから少しの間俺を信じてくれ。」
凛が返す言葉を発する前に涼は足の炎を爆発させ凛の眼前まで高速で移動し、凛の持つ剣を叩き落とした。
そのまま凛が今まで全身を覆うように纏っていた風の防御を貫く威力の拳を腹にたたき込み、一瞬で凛の意識を奪う。
凛は叫ぶ間もなく崩れ落ち、涼は倒れる凛の身体を腕の中に抱きとめた。
「痛い思いをさせてごめん。けど、今はこうするしかなかったんだ…。」
意識を失った凛をゆっくりと寝かせると、涼はところどころ壊れた校舎に向けて蒼炎を放った。
すると壊れた校舎がまるで時間を巻き戻すように、さっきまでの惨状が夢だと思えるくらいに綺麗に修復される。
「殺さなくていいのか?仮にもお前を殺そうとしていた娘だぞ?」
ミアは納得がいかないといった顔で唇を尖らせる。
「前も言ったが、俺は誰も殺したりはしたくない。しかも、凛は人が信じられずに苦しんでいる。そんな友達を俺は見捨てたりはできないよ。」
「ふん。殺されない保証などないではないか。」
「それが信じるということだろ?俺が信じなければ彼女は俺を信じてはくれないよ。」
涼が優しく微笑みながら答えると、ミアは自身の手に蒼炎を喚び出して、それを涼と凛に投げつけた。
「甘いな。だが、その甘さがお前の武器でもあり、弱点でもある。せいぜいこれからも励むことだな。」
ミアはそのまま姿を消し、炎が消えたあとには、ボロボロだった2人の服が元どおりになっていた。
「ありがとな。ミア。」
涼は寒さが嘘のように消え去った初夏の夜に誰ともなく呟いた。
今回はここまでとなります。
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