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10th Round  作者: 藤島高志
始まりの少女
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Prelude

初めまして。

藤島高志(ふじしまたかし)といいます。


初の作品となりますが、本気でプロを目指しております。


かなり長い作品となりますが、感想や評価、批評等してくださると幸いです。

月明かりに照らされた浜辺ーー

その少年は海水と血に塗れた顔を右手で拭い、虚空に浮かぶ少女と向き合っていた。


少年は左手に力を入れたが、再び彼の手が動くことはなかった。

彼の手の甲には黒い龍の紋章のようなものが浮かび上がり、それは皮膚の上を這うように(うごめ)いていた。


正対する少女は少年の装いとは対照的に身体や服に一切の傷や汚れもなく、赤い編み上げのドレスによく映える新雪のような美しい長髪を風に(なび)かせていた。

彼女の表情は喜んでいるようにも、悲しんでいるようにも見える不思議なものだった。


しばらく波の音が辺りには響き、少女はようやく口を開いて、その体躯にそぐわない重々しい声で語りかける。


「我が契約者よ。お前は戦いに勝った。さぁ、汝の本懐(ほんかい)()げるが良い。」


少年は(うつむ)く。

そしてまだ少し海水で濡れている(まぶた)を閉じ、震える声で少女に問う。


「俺が…勝ったのか?俺が多くの他人の正義や願いを打ち破ったことが勝利なのか…?」


少女はほんの一瞬だけ辛そうな顔をした。

しかし、少年が(まばた)きをする間も無く、すぐに元の無表情に戻り、今度は(いつく)しむような声で彼に語りかけた。


「確かに、お前は他の者の正義を退けたかもしれない。自らの正義を通すためにな。だが、ここに残ったのはお前だけなのだ。過程がどうであれ、お前が勝者であることは、天界の法に(のっと)り認められた事実だ。」


少年は目を開き、その悲しみや怒りといった様々な感情が入り混じった瞳を海に向けた。

その目は焦点が曖昧(あいまい)で、何を映しているのかは定かではなかった。


こみ上げてくる何かをこらえ、少年は海を見たまま掠れた声で答える。


「俺は、俺は…。最初は、ただ利己的(りこてき)な願いのみを掲げ、幸せになりたかっただけなんだ…。だけど…だけど俺が招いたのは…大切な人を失うという結果だけだ!お前にも迷惑をかけた…。だが、次こそは失敗しない…。だから俺の願いは……。」


少年が願いを告げようとすると、それを少女が(さえぎ)る。


「お前の言わんとしていることはわかった。だがな、こんなことを続けてもいいのか?いつか疲れ果て、自身が壊れてしまうかもしれんのだぞ?そんなことよりも手に入れたこの世界を有意義(ゆういぎ)に生きることを考えないのか?」


少年は少女の方を振り返る。そして、自分自身の運命を、そして己を取り巻く全てを嘲笑(あざわら)うかのようにどこか(いびつ)に笑う。


「心配をかけてすまない。だが、もう俺にできることなんてこれしかないんだ。最初に望んだ願いを叶えることは、大切な人を失った今では…俺にはできない。今さら願いを自分のためだけに叶えることなんて…。俺にはできないんだよ…。」


少女は少年からひしひしと伝わってくる苦痛に表情を(ゆが)めた。

しかし、生憎(あいにく)少女はその身に『涙を流す』という機能を備えておらず、何もかける言葉も持ち合わせていなかった。



「本当に良いのだな。今から『お前』の記憶もなくなってしまう。また最初からやり直しだ。その覚悟はできているか?お前はこれまで味わってきた恐怖や悲痛をまた味わうことになるかもしれないのだぞ。」


少年は月を見上げ苦痛に満ちた表情を和らげる。

先ほど見せたような自嘲(じちょう)するかのような笑みではなく、全てから解き放たれ、心から落ち着いたように笑う。


既に動かない左手の中指に()めてあるダイヤモンドをあしらったリングを右手で外し、向き合う少女が差し出した手のひらにそっと乗せた。



「ああ。いいんだ。今度こそは必ず…………」

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