監査なるもの・2
「次はあなたの番です。」
そう異端審問官、局長が告げても室長の顔色は変わらなかった。変わらずニコニコとした表情で私たちを見ている。しかしいつもと同じ笑顔のはずなのに室長の目は笑っていなかった。
彼はたとえ何が見つかっても構わないのだろうな、と思う。
その表情からは自信がうかがえる。
それはそうだ。彼は史上最年少の最強魔術師だもの。年増でぺーぺーの端くれ、何某本持ってる私とは違いますわね?
「どーぞどーぞ!つまらぬ机ですが。」
大仰な動作でさっさと席を明け渡す室長。監査官たちはごくり、と生唾をのんでためらいを見せていたが局長の指示によりこわごわと机を調べ始める。あんたの机がつまらないわけないでしょーが、監査にひっかかるものばっかでしょうが!とつっこみを飲み込む。それにしても室長の机を調べる異端審問官たちの目が本気だ。命かけてるマジのレベルである。
しばらく執拗なくらいに調べているのに予想外にうんともすんとも言わない審問官たち。室長は絶対何かしら怪しげなものを持っていると思っていたのになぜないのだ!と何とも言えぬ顔をする彼ら。ちなみに私も同じ顔をしている。
あれ、さっきの引き出しの中に呪いグッズいれてなかったけ?!
監査官たちが来る直前まで何をしていたのか知っている私の顔には疑問が浮かぶ。
隠してた、よね?
隣のジェスウィン君を見るもなぜか彼もどこ吹く風だ。明後日の方向を射て口笛を吹いている。
・・・うぜえ。
「さすが・・・。室長殿。史上最年少の最強黒魔術師と呼ばれるだけはありますね。」
監査官の一人が呟いた。いや、なんか何もないのがすごいみたいな言い方するけど、何もないのが普通じゃない?!
私だったら職場に何某本持ち込んでんの見たらそいつのこと本気で疑うよ?!
隣の馬鹿だって本気で軽蔑してるからね?ちなみに私は違うから!!不可抗力だから!隣のクズのせいだから!!
「では次にそこの、ジェスウィンハーレイン。君の周りを調べさせていただくとしよう。」
私の時はあんなに粘ってちょっかいをかけてきたくせに妙に室長の時は引き際がいい。なにそれ差別!!
なぜか名前を憶えられているジェスウィン君。思わぬことに驚いたようだった彼も次の瞬間元の表情に戻っていた。
「いや~、俺の机も面白くないものばかりです。」
おどけて返すジェスウィン君。
2段目!!2段目開けろ!!そこにいろいろ男の夢(ジェスウィン談)入ってるから!!
ぶちまけちゃって!奴の性癖暴露してやって!教師と生徒ものなんて奴の性癖の一部に過ぎないから!!
そうして私の望みをかなえる様に審問官の一人が2段目を開けた。よし!こい!!
・・・。
「この方も特段隠すことはないようですね。ただ、もう少し清潔感のある環境を心掛けられた方がよろしいかと。ただでさえ使役科、という場所ですし・・・。」
つまらなそうに片づけていく審問官たち。最後の言葉は遠慮がちに言われたものだったが、なるほど確かにジェスウィンの机の上はものを指でつまみたくなるような汚さだ。
「はい!気を付けます!」
元気よく、まるで子供のように手を挙げて返事をするジェスウィン。
おい、ちょっとまてえええええええ!どこみてんだ!2段目にあったろ!何某本あったろ!
「あとの2人は休みですね、まあ両者とも問題なさそうですね。・・・しかし本当に残念です。唯一の女性黒魔術師がこんな低俗なものを。嘆かわしい限りです。」
はあ、と色気たっぷりに息をつく局長。
え、なんで。なんでなの。もしかして男の暗黙の了解とかで見逃されてるわけじゃないよね?!
なんで奴のいろいろ暴かれないの?!落ち着き払っているような仮面の下で私は一人異端審問官につかみかかりそうな勢いだ。
「あなたは・・・そうですね。まず本日の業務が終わり次第監査室に来ていただきましょう。そこで罰を受けていただきます。」
「え、私だけ?!なんっ」
でだ!と続けようとした私の言葉は局長によって阻まれた。
まるで秘密を共有するかのように、私の唇に指をあてたのだ。キモイ!!
「言い訳は聞きません。・・・では、使役科のみなさん、お疲れ様です。どうぞこの後も業務を続けてください。」
局長はにっこりとそう告げると部下たちを引き連れて早々に出ていった。
残された私は茫然と去っていった奴らの後姿を目で追うだけ。
「・・・」
「ちょ!!おかしいでしょう!ジェスウィン君、君の何某本とか!室長の呪術グッズとか何でばれてないの?!てかなんで教師と生徒の何某本が私のものになってんの?!」
「いや~日頃の行いだよな、室長。」
おちゃらけたジェスウィン君の言い方に私の頭の血管が切れたような音がした。
「あんまなめた口きいてると本気でしめんぞ。」
「すみませんでした。」
即答である。ジェスウィン君を瞬殺しそうな空気の中、室長が私たちの間を取り成すように割って入った。
「まあまあ、ごめんねえ?監査官たちが来るとき君がジェスウィンのエロ本持ってくるなんて思わないじゃん~。僕の黒魔術もそこまでは隠しきれないよ~。」
ん?黒魔術とな?
「え、室長。どういうことですか?魔術使ったんですか?」
「そうだよ!僕の見せたいよ~に監査官たちにみえるよ~に幻覚作用がある魔術を使わせてもらったんだあ。それがジェスウィンの時も効いてたから彼のエロ本も見えなかったんだあ。ちなみに僕の呪いのアイテムもね。」
「そんな卑怯な!ってか魔法使ったらだめでしょう!抜き打ち監査ですよ?ばれたらどうするんですか!」
「ばれなかったねえ、魔術師としての僕のレベルが彼らよりもはるかに高かったってことだよ。」
「ええええええええ・・・・。私模倣的な子なのに!!」
ますます納得がいかない。なんでこの隣の変態のために私が罰をうけなければいけないんだ。
今まで身を粉にして仕えてきた神殿に裏切られた気分だ。
「ごめんねえ、即効性のあるものじゃなかったから。」
「ということは私は囮ですか?!生贄?!」
「すまん!次なんかおごるから!!」
「じゃあ今日の懲罰かわ」
「だが断る!!」
「なんでだよ!もとはといえばてめーのじゃねえかああああああ!!!!」
その日から使役科から呪いの言葉を吐き居続ける女の声が聞こえたという。その声を聴いた隣の部屋の者たちは次々に体調を崩していった。
呪いの内容は教師と生徒ものはこの世から消え去れええ!!というようなものだったとかなんとか。