白魔術師なるもの②
なんだか懐かしいなあ、若いっていいなあと思って笑っただけなのに。
亜麻色の髪の乙女-リリエルちゃんはどうやら怯えてしまったみたいだ。私からの反撃があるとでも思ったのだろうか。その期待に応えてみるのも面白いかも、と悪戯心が沸くが、ことを大きくしたいわけではない。迷っていると、天使のエルドッグ様の口からこれまた天使の言葉がでてきた。
「リリエル、だめだよ。そんなひどいことを言っては。」
先ほどまで私に暴言をぶつけてきた彼女はエルドッグ様に向き直ると弱弱しい声で「でも・・・」と反論した。
「リリエル。白魔術師にしろ黒魔術師にしろ同じ魔術を使えるものとして差別されるべきではないと僕は思うよ。使役科だってちゃんとした部署だ。彼らがいなければ神殿は成り立っていかないよ。普通人は泣いて嫌がるほどの所だ。なのに彼らはちゃんとそこで勤め上げている。それに対して悪口を言うなんて僕はどうかと思う。」
さすが天使である。リリエルちゃんはもちろん浄化されたであろうが、なんだか私も浄化された気分であった。しかし浄化とともにリリエルちゃんは段々と涙目になってくる。彼女にとってのエルドッグ様の言葉はきっと「そんな風に意地悪を言う女の子は嫌い」とでもいうように聞こえたに違いない。あ、やばい。これでもかとでもいうように大きく見開かれた目からは今にも涙が落ちそうだ。
泣きそうなリリエルちゃんに私がどうしようか内心オロオロしていると、またまた天使は私に助け舟をだしてくれた。
「すみません。部下の教育不足です。しかし、彼女も悪気があったわけでないはないのです。許していただけますか?」
きらきらとした視線。だめだ、まぶしすぎて目が合わせられない。仮面越しだというのに。
非礼を詫びられているのに不要なフェロモンまで送られている気がする・・・。謝られているのに謝られている気がしないのはなぜだろう。これぞ天使マジックである。
そのキラキラに若干引きつつも冷静な声をだせた私は偉い。
「・・・お気になさらず。本当のことですし。」
別に皮肉でもなんでもない。本当のことだと思っているし、自分を卑下しての言葉でもない。
しかしなぜか私の声にその場に集まった神官たちが息をのんだ。
なぜそんなに静まるの・・・。と思いきや、誰かが漏らした言葉にその理由を知る。
「女だ。」
「使役科に女?!あそこに女いたっけ?!」
あ、声を出さなければよかったと思うもあとの祭り。
こんな風に珍しがられてるのには理由がある。まず今まで女性が黒魔術師になる例は少なかったからだ。やはり黒魔術師というのは呪いや、攻撃などといった過激なものが多い。それらが命を生み出す女性と結びつけるのは世間では好ましくないとされているからだ。
私を含め在中の黒魔術師の女性神官は4人。ちなみに他三人は違う部署に配置されている。
元から女性が少ない上に、今まで使役科に女性が起用されたことはない。使役科イコール根暗なオタク男どもの集まり、と思われているそうだ、とこの前聞いた。
それに私は身長が一般女性より高めなこともあって、少しサイズの大きめのものを着用している。同僚がいうには長身痩躯の男女、というのが私の印象だそうだ。
だから女だとか、男だとかは体形からは判断しずらいのだ。それに加え仮面があるので私の性別はもはや闇の中である。
髪も伸ばしてはいるが、フードの中に隠れているし。
「・・・では、失礼します。」
これ以上ここにいる理由もなく素速く立ち去った。やたらと興味津々だという視線が突き刺さったが、気にせず使役科までの道をつっきる。やっぱり神殿内は歩き回らない限るんだな、と頭の片隅にとめた。
*****
「室長!この前ミック君がまた怪我してたんですが。」
「ええ、大丈夫?」
若干乙女な言葉を発するこの方こそ我らが霊魂担当室使役科の室長シャルマーニ様である。
多分ご両親は彼に白魔術師になってほしかったのだろうな、と予想できるシャラシャラした名前だ。
しかし彼は色々こじらせた結果、黒魔術に長けた史上最年少の天才魔術師になってしまった。
黒魔術師になろうとした理由は確か、小さい時に大好きな大好きな付き合っていた彼女を隣に住む男子に寝取られたからだとか。まず10歳ころから寝取るとか何事、とか、どんな関係だったの、とか、彼女ビッチだな、とか言いたいことは色々あるが、とりあえず私はそのつっこみを飲み込んだ。
最近の10歳すげ~である。
私がその年齢のころには鼻水垂れ流しながら野生動物と野をかけまわったり、カブトムシをつかまえて喜んでいたものだ。
あ、うち実家が田舎なので。
さて、話を戻すと。その後当然復讐に燃える彼が黒魔術にすべてをつぎ込み、やがては史上最年少の黒魔術師と呼ばれるようになるのだが、その時の少年は思いもしなかっただろう。幼かった室長が隣の彼にどういった復讐をしたのかは聞いていない、というか、聞きたくない。
しかし、その地区のすべての思春期少年のあるものが一時期使い物にならなくなったという話を聞き、この人だけは怒らせないようにしようと私は誓ったのだ。
あるものが、ナニなのか。それは聞く人の想像力に任せたい。そして寝取られ事件の直後に復讐するのではなく華の盛りの思春期を狙った犯行、ということに少し寒気がした。
そのころから我が室長、復讐に燃える少年は狡猾かつ冷酷であった。
そんな彼でも一応奥さんはいる。騎士をされている美しい男装の麗人で、男気のあるしっかりとした女性だそうだ。
ちなみに寝取られ彼女ではない。昔の女を忘れられてよかったと思う。
へなっへなの女性的な室長にはぴったりの奥さんだ、って思ったら殺されそうなので考えるのをもうやめよう。室長と男前女性騎士がどうやって出会って、何があったのか実に興味があるがそれはまたの機会に教えてもらうことにしよう。
「テルトラ君がこの頃ゾンビに怪我が目立つ気がする~って言ってたんだよねえ。それも大半普通の怪我じゃないんだよねえ。」
「やっぱりですか?前ミック・・・39番の腕にナイフ刺さってたんですよ?農作業しててナイフ刺さることなんてないですよね。彼らに持たせるのは大概クワか鎌くらいなのに。」
「だよねえ。どこからそんな凶器持ってきたんだろうねえ。・・・その時の残してある?」
「あ、一応あります。人によるものだったらとんでもないと思ったんで、証拠として置いてあります。」
「さっすがあ!後でもってきてくれる?これが一度や二度だったら、見逃してあげてもよかったんだけどねえ。何回もやるようなら、こっちとしても黙っちゃいられない、からね。」
最初のテンションとは大違い、室長は少しトーンを下げた冷たい声で獲物を定めたように目を細めた。
奥さんもこうやって捕まったのかもしれない。
不覚にも室長をかっこいいと思った今日この頃であった。