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腐りゆく世界の中で  作者: roko
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白魔術師なるもの。

ざわざわ。

「見ろよ。黒魔術師だ。それにあの仮面って、霊魂担当室使役科だ・・・ひっ!こっち見た!

ひそひそと決して良い感じではない会話をしているであろう方に目を向ければさっと顔を逸らされて、私から距離をとろうとさかさかと後ずさる白の神官たち。

私を中心に人の波ができる。なんかの十戒みたいだね。

呼ばれたようだからそっちを見ただけなのに。

まあ、歩くとき楽でいいからいいか。と呑気な私は考える。

私たち使役科は仮面をつけることを義務付けられている。脱魂術の際、犯罪者の恨みを買わないためだとか、術返しがなんとか、っていう理由だった。馬鹿な私は特に内容は覚えず、規則だからつけますね~という感じだ。まあ仮面つけてる方が何かやらかしてもばれないのもある。


全身黒づくめでしかも気味の悪い仮面をつけている、そしてちょっと腐臭がする、と言ったら避けられるのはしょうがないのかもしれない。それに使役科の人間は大体根暗であり、人とのコミュニケーションが苦手なものが多い。過去最多の5人雇用体制だが、うち3人は自ら望んできたらしい。

普通の人間だったら泣いて嫌がる職場を自ら望むなど相当な人付きあいの苦手さだろう。

それぐらい使役科は生きた人間との接触が少ない。自分からコミュニケーションをとりに行くような人間ばかりでないので使役科の印象は暗いままだ。

喋ってくれないしぶつぶつなんか言ってるだけ。→使役科はなんかよくわからない→やっぱ黒魔術師だし呪われるんじゃ、怖い!という負の連鎖ができあがる。

負の連鎖ができあがったとしても、私たちの中には誤解を解きににいこうとする者もいない。

黒魔術師ということで大分のマイナスイメージがあるようだが、極めつけは仮面だと私は思う。額から鼻の途中までを覆う異様な仮面の色は銀色。柄は個人のお好きなように、という感じだ。仮面屋さんに行って柄を書き足してもらうのもよし、ちょっと破壊してみてロックな感じにするのもよし。

ちなみに私は何も手を加えずそのままである。


別にめんどくさいから、では、ない。


さて、今のように人の波ができるくらい嫌われている私たち黒魔術師と正反対の、真逆の存在が白魔術師である。もう名前から想像できるように清楚で可憐で清らかな感じがする。いい匂いがしそうだし、優しくしてくれそうだ。そして十戒ができるどころか人の天使の輪ができる。なんだこの違いは!と言いたくなるぐらいの違いだ。


別に人に囲まれたい、とかでは、ない。


十戒の中心を歩くというのもある意味経験し難いものであり、気分がいいから別にいいのだ。その十戒の中心を歩く私の前に現れたのが、白魔術師様。しかしその華やかな雰囲気も私というどす黒い存在を認めると一瞬でなりを潜めた。わいわいきゃっきゃっやってた白魔術師女子たちは怯えたような悲鳴をあげると中心にいる一人の白魔術師様の背の陰に隠れた。きゃっとか言って何気なく裾を掴む新人女子。・・・ちょっとこういう反応にショックを受けることもあったりする。

袖を引いた新人女子を仕方ないな、という風にフッと笑って目元を緩めた表情で見つめるのがこの神殿一のモテ男。名前は、なんだったか。エルドッグだとかなんだか。

王子様さながらの金髪の緩くウェーブかかった髪と青く澄んだ瞳。すっと通った鼻筋、それらがうまい具合に配置された顔は一枚の絵画から出てきた天使のようだ。

いや、もう私の表現力が乏しいのはわかっているが、うまく説明できない。

わかりやすく言えば甘い顔をしたイケメンだ!

あと、髭とか生えなさそうな感じ。剃っても青くならなさそうだ。

曰く、甘いマスクと白い清潔感溢れるローブはもう最高の組み合わせだとか。(ベテラン女性神官より)

曰く、彼は天使の生まれ変わりだとか(新人男性神官より)

曰く、彼がほほ笑めば雲も晴れるだとか(ベテラン男性神官より)

曰く、彼が発するマイナスイオンだけで周りの空気は浄化される(退職前女性神官より)

曰く、彼はイタンヘ王国の王子と一、二をあらそう美貌の持ち主だとか(街の住人代表より)

そしてこのエルドッグ様、よろしいのは容姿だけでなく性格もなんだとか。多分人の輪ができるような性格ではあるんだろう。

彼のファンが女性層だけでなく男性層もいることなどからその噂も嘘ではないのだろうと思う。うちの上司とは大違いである。いや、うちの上司の性格が悪いとかではない!!一般的な上司だ。

ちょっと過激なところがあるだけで。


静けさと白魔術師を横目に何事もないように通り過ぎようとした時だった。

「・・・これはこれは黒魔術師様。こんな真昼から出歩いていて大丈夫なのですか~?陽の光はあなたの弱点だと思っていましたわ。」

しーんとした廊下に鈴をころがしたような可憐な声。間違いなく私を侮辱した声の主は白魔術師のモテ男エルドッグ様を庇うように進み出た一人の新人っぽい女性神官だった。周りの「だめだよ」とか「やめときなよ」という制止の声も聞かずに勇ましい女の子だ。喋り方から、貴族の出身なのだろうと予想がつく。そしてわざわざ黒魔術師に単体で突っかかってくる、というあたりから今年から入った新人さんなんだろうな、と思う。

普通は呪われる・・・とか黒魔術で病にかけられる、とか言って直接絡んでくるものはいない。

だからこうして何も知らずに絡んでくるのは新人か、恋に狂った乙女ちゃんだけなのだ。

ぱっちり二重の大きな瞳と厚くプルンとした桜色の唇。シミ一つない白い肌に蒸気したピンクの頬。どちらかというと守ってあげたくなるタイプの女の子なのに意外と意地悪を言えるみたいだ。

私が何も言わずにぼーとしていたのが気に入らなかったのか、彼女の悪口はさらに悪化した。

「あーあ。ここらへん少し匂うんじゃありません?そう思いませんか、みなさん?やっぱりこのにおい。そこにいらっしゃる黒魔術師様からじゃあないですか?だからこんなに匂うのねえ。だって使役科で働いていらっしゃる黒魔術師ですもの。ゾンビも同じ。」

え、私匂うのかな、と思うもさっきトイレから出てきたばかりなので爽やかなグレープフルーツの香りがするはずである。

芝居がかった言葉で私をノックアウトしようとする可愛こちゃん。しかしエルドッグ様にもてたいのならあまり意地悪な態度はとらないほうがいいんじゃないかと思うの。

私をみて弱々しく袖を掴んでエルドッグさんの後ろに隠れている彼女のほうが男にもてる術を知っていそうだ。今年は白魔術師は豊作だと聞いている。こんなタイプ色々の可愛い女の子が入ればそれはそれは職場は華やぐだろう。いいな。

黒魔術師の科とは大違いだ。なんで黒魔術師には可愛い女の子が入らないのか!!

自分が入った時はどうだっただろう。一応若い娘、というだけでちやほやされたっけ・・・?


・・・いや、確か女扱いされずびしばしと叩き上げられた気がする。ふふっと、若い頃の記憶に思いをはせると思わず笑いがこぼれた。

それを見るや否や今まで高飛車で意地悪な彼女も急に怯えたように一歩後ずさった。


・・・いや、脅しじゃないからね?!

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