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邂逅

作者: 田貫うどん
掲載日:2016/04/26

夕食の時にテレビを流し見していた懐かしの昭和特集で、茶碗の中に集中しつつも聞き覚えのある名曲が耳を通り抜けた。

昭和歌謡にはこれといった関心がないのだが、白黒の映像はチラチラと横目に入ってくる。

途切れ途切れの映像はナレーションの音声と今まで経験してきた歴史の勉強や同じような番組によって大部分は補完されているけども、

一息つくようテレビの方を向くとその時頭の片隅にあった何かが反応したようだった。

夕食が終わってもやたらとその映像のその一部だけがこびり付いてトイレに行く時も本を読んでいる時も頭の中に浮かんでくる。

これは何か自分自身に悪い事でも起こるのだろうか、胸騒ぎというか嫌な予感しかしなかった。

夜はなかなか眠りにつけなかったが一時の睡眠はしたようで気づいたら朝をむかえていた。

夢を見ていた、それは昨晩引っ掛かっていた何か、子供の頃に記憶だった。

絶対忘れないと心に決めていた事、夢の中で私は頷き泣いていた。

夢はいつもいい所で終わりを告げる、最後がどうなったのか分からなかった。

目を開けそして閉じ、あの時どうなったのか思い出そうとしたけど無理だった。

忘れないと決めた事は思い出したが、何を忘れまいとしたのかが分からない。

大切な物ほど蔑ろにしてしまうのは好きな子に意地悪してしまうのと同じなのだろう、いつだって思いとは逆の立場をとってしまう。

私が思い出せないのも何か後ろめたい事があるせいだろうが、色々浮かんでくる中に思い当たる節はなかった。


気になり続け数日が経ち、いいかげん神経をやられそうになっている。

今日だって仕事で失敗を連続してしまった。

忘れていた事だ気にする必要もない、そう思い込ませようとも一度気になったらどうなったか知らないと気持ちが悪いものだ。

次の休みに子供時代を過ごした町に行こう、そうすれば何か思い出すかもしれない。

仕事を早めに切り上げ帰りの電車内、流れる景色の中に手がかりが無いか探すも電飾だけが目について下を向いてしまった。


あの頃とすっかり変わってしまった町、合併して今は市になっている。

この通りの右側には学校指定の商店があったが数年前に無くなったらしい。

通った学校はいつの間にか廃校になり統合されていて、校門には錆びた鎖が垂れ下がっている。

鍵は壊されていて中には簡単に入れるが、誰かに見られて不審者だと思われるのは癪だ。

懐かしさに加え連絡を取っていない友人が今何をしているのだろうと思った。

学校を後にしたが、後ろ髪を引かれるような感じを持った。

あの頃に戻りたい、誰もが一度は考える事だろう、だが決して今が不幸せだというわけではない。

学校の前の道路から更に奥へ二つ目の道、右に折れ進み向かい側に山道があり、その先へ進むと小さなグラウンドがある。

別の道からは車で行けるのだが、課外授業という名目で山道を通りよく行っていた。

今その山道を探しているが見つからず、この先にあったかなと行ってみるが記憶の中の光景は否定した。

思い出すだろうと期待していた子供の頃の記憶は今も全く変わらず、それよりもまして混線したように悪化している。

まず私の記憶の曖昧さが目立った。

長い年月で必要のないものは別の記憶を上書きする。

取り残されていた断片はそれら同士で結合し真実だが間違った記憶を作り出す。

私が先日感じた事、今思えば気のせいだったのかもしれない、故郷へ来たけれどこれといって思い出す事もないのだから。


昼も過ぎそろそろ帰ろうと決め駅まで戻ることにした。

待てよ、この道は確かあのグラウンドへ繋がる道だ間違いない、ここにあったんだ。

煮え切らないままでは終われない、妙に興奮して山道へ足を踏み入れた。

枯れた落ち葉の上を歩く音、チロチロ流れる湧水の音、鳥の鳴き声、風に乗った緑のにおいがする。

サッカーボールを持った友人、縄跳びを持つ女の子、カメラを片手に嬉しそうな先生がいる様々な記憶が蘇る。

楽しかった・・・本当に?


歩いてみると距離は短くあっという間にグラウンド前まで来てしまった。

往復しても十数分、授業時間の二コマ分を使っていた事を考えれば妥当だろう。

グラウンドは高いフェンスで仕切られていて北側一角の外は竹藪になっている。

複数ある子供の足跡、ボールが地面についた時の衝撃で窪んでいる小さい跡。

今日も誰かが遊んでいたのだろう、手洗い場には乾いていない水が飛び散っていた。

ドッチボール、野球、サッカーをした記憶があるがこれ以上は何もない。

心にあいてしまった穴はふさがる事はなく、今日の全てが無駄に終わった徒労感がけが全身を覆い怠さがやってくる。

帰り道ははるか遠くの世界を目指すようで、霞む目は眠気さえ呼び起こす。

と、後ろから声がして暖かいものが足元にまとわりついた。

「すみません、ほら行くよ」

リード無しの犬、飼い主は急いでリードを繋ぎ一礼し遠ざかって行った。

犬か・・・犬?

犬を、私は飼っていた。

これも今まで忘れていたこと、謎の一部が雪崩のように固まって解けなかった答えを流してくれた気がした。

犬を連れてここまで来た記憶も蘇ってきた。

確か、そう、ここで誰かに会って、友達だった?

分からない、たとえ友達だとしても顔を思い出せない、顔だけ黒く塗りつぶされた卒業アルバムをゆっくり閉じる音がした。

私の卒業アルバムは家には無い、捨ててしまったのだ逃げる為に。

記憶を奥底に隠し今までずっと思い出さずにいた。

大声を出し叫びたい気分だ。

晴れる事のない心、苦しかったあの日々がフラッシュバックする。

カッターで切りつけられた表紙、破られたページ、私の姿だけ切り取られている。

待ち伏せされていた散歩道、殴り殺された飼い犬、逃げてしまったと嘘をついた土曜日夜の出来事。

泣きながら亡骸を埋めた竹藪・・・先日見た番組の「ゴミ捨て用に穴を掘っていた」所が昔の自分と重なったのだと理解した。


今は涙が止まらない。

せめて今まで忘れていた飼い犬に手を合わせたい、助けられなくてすまないと。

グラウンドの角はボルトの締め付けが緩み手で押すと隙間が出来る、探検と称し中へ入ったものだ。

修理されてる形跡はなく人が入れる程に固定されてしまっている。

この先の、場所はよく覚えていないが竹藪と林の境目だったかもしれない。

あった・・・小さな石が数個輪を作って置かれている、同じだったあの時と。

手を合わせ安らかにと祈った、しかし心の底にはまだ何か引っかかっていた。

ふと振り返り見上げると二つの隣り合った太い竹の上の方で汚い布きれを貫いているのを見つけた。

私はそれが彼の洋服だとすっかり思いだしてしまったのだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] タイトルがかっこよくて良かったです。 最後の一行が意外でした。 読みやすくもしっかりとした文章だったので、セリフがなくてもスムーズに読めました。
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