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頑張る私

 冬、貴族対象の「新年を迎えるための舞踏会」には今年も参加しなかった。ルーデンス殿下が見逃してくれたし。今の私の状態では参加、無理でしょ。サウザント家の皆様と会うなんてもってのほかだし。今さら舞踏会に興味も未練も無かった。

 代わりにめんどり亭で年越しして「新年を迎えるお祭り」の花火をエイダさんやマスターと観たのだ。官舎の皆は年越し帰省してしまったので、年末からめんどり亭に連泊していた。念願の花火は感動だったわ。花火って色んな色で大きくてキレイなんだよねえ。いつも音だけだったから本当に観られて良かったわぁ。


 振り返ってみれば、この冬、我ながらほんとによくモストダークに通ったわよね。薄汚れた格好にも慣れたし、怒鳴り声にひるむことも無くなった。酔っ払いや娼婦なんて人達を見ても、むやみに卑下しなくなった。我ながら図太くなったものだわ。

 5ヶ月たった今、大量のスケッチとメモ書きが目の前にある。

 今度はこれをまとめて、一枚の地図にする作業をするのよね。

 カフールさんに手伝ってもらって、自室のスケッチとメモ書きを王宮治安相談部屋に運んでもらった。私の部屋にこれらの資料を広げるスペースはないし、地図って他国には機密だよね。地図を作成するにあたって、安全な保管場所として王宮治安相談部屋は最適でしょ。


 ◇◇◇


「レディ・アンの淹れる紅茶が再び飲めるとは光栄だね。」

「お褒めの言葉ありがとうございます。」


(私もこんな高級なお茶を再び飲めて嬉しいわ。腕も鈍っていなかったようで、良かったぁ。)


 再び毎日王宮治安相談部屋に出勤している。

 地図のまとめの合間にルーデンス殿下達にお茶を淹れるという、懐かしい生活が戻って来た。黒髪おかっぱ頭のウイッグに茄子色の王宮女性事務官のドレス、どっちも今の私にはちょっと鬱陶しい。


 メモ書きとスケッチを元に大きめの紙にモストダークの(みち)を書いていく。それを何枚も書いて、糊でつなげていく…あらま、あっという間に王宮治安相談部屋の隅の床が紙で占領されてしまったわ。


「レディ・アンはちょっと見ない間に随分と表情豊かになったようだね。残念なことに上品さと女性らしさは減ってしまったようだけど。…プライベートで僕とデートしないかい? 直ぐに減った以上のものが身につくと思うよ。」

「ランセル様、私にそんな暇はありませんので。お断りいたします。他の方を当たってください。」


(へんっ。要するに、色気が無いってことでしょ。そんなの知ってるわよ。)


 少し仲良くなったモストダークの色っぽいお姉様方に、散々「もうちょっと、何て言うかねえ。」とか「素材は良いのにねえ。」とかって言われ続けたのよ。「あんたに客引きや娼婦はさせられない。」ってね。

 もしかしたら、私をその道に入らせないように配慮した言葉だったのかも知れないけど、散々「無理だ」と馬鹿にされたくらい、私に色気が無いのは自分で分かっている。仕草はキレイって言われたけどね。

実際、モストダークの兄ちゃん達に声をかけられること無かったし…まあ、見るからにおっかない兄ちゃんに声かけられても困っただけだから良いんだけどね。襲われることが無かったことに感謝しなくちゃ。

 私が今やるべきことは、地図を完成させること。その地図をきっかけにウェイとルーデンス殿下達を引き合わせること。地図が完成すれば、色んなことが動き出すはずなんだから。


 紙をつないで路を書いていたら、どんどん大きくなってしまって…地図作りのための別室を王宮治安相談部屋の隣りに用意して頂きました。

 なぜか残念がられた。私が通っていた日より居なかった日の方が多いのだから、別に私が居なくても問題ないって思うのだけどね。

 10時と3時にはお茶の支度をするべく王宮治安相談部屋に行くけれど、基本1人でひたすら紙をつなぎました。どうやっても路を思い出せなかったり、悩んだときは翌日モストダークに行って確認して、再度路を書く。

 モストダークでわざわざウェイに会う時間を作るってことは無い! 奴は同じような心の傷を持つ同士だけど、だからって惚れたとかにはならなかった。だって、なんかお互いの傷を舐め合うような存在って嫌だもん。それに見た目は王子で素敵とは思うけど、なんか根っこにひがみ根性があるって言うか…自分で色々と乗り越えて来たと思う私には鬱陶しく感じる時があってね。


 ーーコンコンコン


「失礼、入るぞ。」


「だいぶつないだ紙が大きくなったな。そろそろ完成か? …って、おい、無視するな。」

「へ?」


 人の気配に顔をあげれば、ロベルト様が居た。あー、集中していて気が付かなかったわ。床に(ひざまづ)き、書き書きしていたんだもん。

 標準仕様なのか不機嫌そうな琥珀色のアーモンドアイが怖い。ギロリと辺りを見回す姿に緊張するわ。


「この大きな紙はどうするんだ? 地図とするには大きすぎるだろう。」

「これはあくまで下書きです。これを元に王立図書館にあるくらいのサイズの地図を清書します。いきなりは書けませんから。残った紙はモストダークで協力してくれたウェイに渡すつもりです。彼なら詳細な記入のあるこの紙も役立ててくれると思いますので。モストダークを歩き回って書いたメモとスケッチは燃やして処分します。」

「それが良いだろう。殿下には私から伝えておく。この紙を持って向こうに行く時はカフールを一緒に行かせるから言うように。後の問題はお前の頭の中にあるモストダークの地図だ。欲しがる奴に狙われる可能性がない訳ではないからな。」

「私がそんなに路を覚えていられる訳が無いじゃないですか。安心してください。きれーいにどっかに消えちゃいますよ。」

「…それで良い。忘れるのが身のためだ。後は殿下とビーアウェイとやらの会談の日程の調節がしたい。会った時にカフールに連絡させると伝えておいてくれ。以前も聞いたが、お前は会談に立ち会わなくて良いのか?」


「私の仕事は地図作りまでです。会談の段取りは付けたので、後は皆さんに丸投げいたします。一介の下っ端貴族が出来るのはここまでですわ。」


 身はわきまえているつもりなんですけど。

 余計な仕事は増やしたくないのが本音。

 さあ、後もう少し頑張ろうね、私。まだやれるぞー。



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