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皇子以上の王子様

 貴族でないのに貴族としか見えない人、それもとびっきりのイケメン。繊細な個々のパーツが良い感じでお顔の上で主張している。私の知る皇子以上に物語に出てくる王子様のような人。誰かを見て感動したのは初めてだわ。

 その彼が、上品で優雅な仕草で私の手を取る。

 石畳に打ち付けた私の膝をズボンの上から優しくさする細く長い指。きっとアザになっているだろう膝は心臓になったかのようにドクドクと脈動を伝えている。それなのに不思議と痛みは感じない。

 白金色の髪が私の頬をかすめる。


「骨に異常は無いみたいだけど。立ち上がれないのかな? 連れの人はいないの? …ここは女の子が1人でいない方が良い場所だよ。うん、辻馬車で帰宅した方がいいね。」


 低すぎず高すぎない心地よいテノールボイスが私の耳元の奥底で響く。私を心配そうに見つめる灰翠色のガラスのように透き通った瞳。

 私より少ししか年上には見えないし、背は170センチ程だろうか、がっちりした身体には見えない。どこの御子息(おぼっちゃん)なのだろう。現実感が無くて、ガラス越しに遠くから彼を見つめているような気がする。

 それなのに…彼は「ごめんね。」と言うと私を抱え上げた。


「きゃっ。」


 こんな可愛らしい声が自分で出せるとは知らなかったわ。一気に現実に引き戻されたわ。


 現実なのに夢のようなお姫様抱っこという、世にも恥ずかしい状態で私は近くの辻馬車乗り場に連れて行かれた。辻馬車に私を乗せるや否や、彼は風のように去って行った。





 ◇◇◇





 1人になった私は、見慣れた辻馬車乗り場からヨタヨタと痛みを感じ始めた足を引きずり、めんどり亭へと戻った。


 食堂に入ると直ぐさまエイダさんが来て、私のズボンをめくり、赤青くなった膝を冷やしてくれた。


 少しすると慌てた様子のウェラー隊長とベインさんがやって来て、私を1人にしたことを謝ってくれた。あわや火事というボヤの情報を得て、2人は駆けだして行ったのだ。火事ならば人手は多いほうがいい。私だって知っている。その場でジッと待っていれば良かったのに、迷子を見つけて話しかけた私がいけなかったのだ。…迷子と共に歩いて行けば、気が付けば知らない場所に1人居て、ガラが良いとは言いがたい地区だったようで貴重品は取られなかったけど、邪魔とばかりに路上で突き飛ばされた。

 その結果、『親切な(イケメン)』に助けられたことを皆に報告する。

「良いこともあって良かったわね。無事で何よりだわ」とエイダさん。微妙な顔のウェラー隊長達、男性軍。


 それからバタバタと気が付けば私の夏休みは終了した。




 ◇◇◇




 日常となりつつあった王宮での通常業務に戻った私。膝のアザはまだ少し残っている。

 なぜか良いように言われているんですけど。


「うわさの『親切な(イケメン)』の名前は聞かなかったのか。それは残念だ。縁があればまた会う機会もあるだろう。」


 私の報告書は王都治安相談部屋に陣取るルーデンス殿下と仲間たちの間で共有された。

 どこからか聞きつけられる前に、ちゃんと迷子になったことも報告書に書きました。人づてに脚色されたりしたら困るから。お姫様抱っこされたなんて、絶対に馬鹿にされるから助けられたと書いて済ませたけど。…どうも知っているらしい。言葉の端端が引っかかる。


 乳製品が有名な避暑地から戻ったルーデンス殿下のお土産は、予想通りのバターの効いたクッキーとチーズの薫り高いチーズケーキでした。部屋付きの侍女さんの分をちゃんと別に取っておいて、今日のお茶菓子として振る舞う。私も少々頂いた。濃いめに淹れた紅茶に良く合います。王族の持って来たお土産ですよ。旨くない訳がないでしょ。


「最近、夢見がちなのは彼に会ったせいなんだね。恋している乙女か。良いね。恋は人を美しく魅力的にする。相談ならいつでものるよ、レディ。」

「物事に動じないたくましい令嬢だと思っていたが、普通に恋するんだな。良かった良かった。」

「浮かれてばかりいないで、仕事の方もちゃんとこなしてもらわなければ困る。」


「…」


 ズズズーーーーッ。

 あ、思わず音を立ててお茶をすすってしまったわ。否定の言葉の代わりに態度が出てしまった。私、ちゃんと仕事していると思うのだけど。

 …私は恋しているのだろうか? 恋したんだろうか? 端から見てボーッとしているように見えるのだろうか?

 確かに気になる。彼を思い出す。なんか気になってしまう。でも恋とは認めたくない。何か違うと思うから。何とは言えないけど、何か引っかかるのよね。


 眉間から力を抜いて、紅茶の香りを深く吸う。ふくよかな香りがイラつく心を落ち着かせてくれた。

 恋しているかどうか、自分で判断するには判断材料が少なすぎる。


 恋に夢見ていない私は彼らの言葉を聞き流し、せっせと王都散策へ向かうのであった。


 情報収集するには行かなくてはならない。

 レディ・アンになったり、アーシャになったりして、虫の音が聞こえ始めた頃にはふくらはぎがたくましくなり、ソバカスが増えてしまった(泣)






ウェラー隊長達にアーシャの居所を教えたのはカフールさんです。ルーデンス殿下達に色々と報告しているのも、もちろんカフールさんです。見えないところで大活躍~

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