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日焼けのその後

 仕事が終わったとたん、私は慌てて官舎へ帰宅した。レディ・アンからアーシャマリアへと戻って、バタバタと帰宅した私を見たスーザンおばさんが声をかけてくる。

「あらまあ、見事に日焼けしたわねえ。」

 うぐぅ、更なる言葉が私に突き刺さった……胸を押さえたいところだが、「おほほ」と愛想笑いで誤魔化し、自室へ逃げ込む。

 あれから濡らしたハンカチを顔に当てながら、仕事したが効果はさほど無かったようだ。


「日焼けしても赤くなって終わるはずだけど、焼けすぎて黒くなったらどうしよう…」


 手鏡をのぞいて顔色をチェックする。色黒の貴族の娘ってのは(さま)にならないよね。

 幸い、私は日焼けしても赤くなって終わるタイプの肌の持ち主だ。そうは言ってもここまで赤くなったことは無い。用件が済めばすぐに帰宅する外出ばかりしていたので、こんな長時間外に居たことは無かった。

 ドクダミ草の傷薬はアルコールが含まれているから、手足はともかく、顔に塗るのは危険すぎる。さらに赤くなってしまう可能性が高い。

(何か良い方法無いかな?)


 街へ行ってエイダさんに聞くことも出来ないし。

 あっ、マリエッタさんかハーミイさん聞けば何か知っているかも。騎士であるナターシャさんの方が屋外にいる機会は多いかも知れないけど、以外と大ざっぱな彼女が日焼けに気を配っているようには思えないし。


 ーーーコンコンコン

 自室から近い方のハーミイさんを訪ねてみた。

「はーい、どなた?」

「アーシャマリアです。あのう、相談があるんですけど。」

 ドアが直ぐさま開かれた。

「…、あら? お顔どうしたの?」

 声を聞いたとたん、私は思わず床を見つめてしまった。ソロソロと上目遣いで返事する。

「日焼けし過ぎてしまって…なんとかならないでしょうか?」


 フフッと可愛らしく微笑んだハーミイさんは「大丈夫よ。ご自分のお部屋で待っていてね。」と言って部屋を出ると、どこかにパタパタと駆けて行ってしまった。

 自室で私はしばらく待つ。

 ノックの音と共に戻ってきたハーミイさんは半円形の器の中にドロドロした薄緑色の物体を持っていた。おかゆのような粘性を持つその物体をスプーンで混ぜている。

 ハーミイさんを招き入れると、私は椅子に腰掛けるように指示されて従った。何されるのか分からないけど。


「それじゃあ、目を瞑ってね。」

「はい。」


 ペトリ、ペタリ

 顔にさっきのドロドロした薄緑色の物体を塗りたくられた。


「えっ。あの、これって。」

「はいはーい。口に入っちゃうから、閉じていてね。」


 ハーミイさんは有無を言わさずドンドン私の顔にドロドロを指で塗っていく。

 あ、この匂い。キューリだわ。夏の代表的野菜。キューリ。別名キューカンバー。このドロドロは食堂の厨房に行って、キューリと小麦粉を分けてもらって作ってきたらしい。すり下ろしたキューリに小麦粉を混ぜたお手軽パックだそうで。効果は冷却と美白だとか。おお、今の私にピッタリなチョイスです。


「このまましばらく居てね。アーシャマリアちゃんはやっぱり良いとこのお貴族様ってことよね。今まで、お屋敷の中にばっかり居たってことの証明よ。少しずつ日焼けしないから、こんなに赤くなっちゃったのよ。」

(はーい、分かってます。でも好き好んでこの時期に外に長時間居たわけじゃないんです。)


 しばらくしてキューリパックを拭き取って、両頬に手を当てれば、肌にホカホカした様子は無くなっていた。まあ、赤みはまだ少々あるけどね。


 その後、マリエッタさんも合流して、3人で食堂へ行って夕食です。

 おお、助けあうなんて正に友達…ひどい目にあったけど、良かったとも言えるかなあ。






 ◇◇◇


 一晩経てば、すっかり赤みも引いて、いつもの私の顔に戻っていた。

 いつものようにアーシャマリアからレディ・アンへと装いを変えて出勤です。


「一晩で元通りか。良かったな。」


 無言で頭を下げる私。

 良くも悪くも私に対して言葉が素直なロベルト様は、今日も健在です。この人に悪気が無いのは分かっているけど…普通の貴族の子女に気遣う程度の気配りを私にもして欲しいと思う。半分庶民だから扱いが……いや、放っておいてくれてもいい。


「はい、プレゼント。」


 ルーデンス殿下が私にくださったのは、薄い水色の生地で縁に大きな白いフリルのついたラブリーな日傘。派手すぎず、茄子色の服に合いそうなデザインだ。それでいて見るものが見れば高級品と分かる代物である。


「ありがとうございます。」


 受け取ってしまったが、(よう)はこれからも日焼けするくらいの外出があるってことよね。そりゃ、日傘を自分で買おうとは思っていたけど。


 その後、2、3日に一度程の割合で私は王都へ出掛けたのである。例によって、道順を指示された地図を持って。さらに戻って来ると報告書のようなものまで提出することになってしまった。

 私が歩き回って気になった点や場所を書き残すという単なるおつかいでは無くなってきている。心なしか色が黒くなったような…その上、靴底まで減っていると思われるし。

 ええい、今度は靴を買ってもらうぞと決心した私です。


 頻繁に王都を歩き回っていれば、土地勘は良くなるし、多少のなじみの店も出来る。うわさを聞きつけることもある。

 最新のうわさは『みんなに親切な(イケメン)がいる』というものであった。私が見かける「親切な人が多いなあ」はすべて彼であったようだった。










もしも日焼けしたとして、アーシャと同様にキューリパックしても効果があるかは保証できませんので、あしからず。キューリ=きゅうりとは限りませんので。ドクダミ草の傷薬も同様です。ドクダミ草=どくだみではないです。

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