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女子会

長めです。

 夕方毎に一週間、私は壺を長い棒でかき混ぜた。茄子色の服に鼻と口を覆う布。この姿が魔女がいるとの噂の原因だ。しょうがないじゃない。

 壺に入らなかったドクダミ草は広げたシーツの上で乾燥中させてお茶にする。

 …貴族の令嬢がすることではない。分かっている。有り難いことにスーザンさんは黙って私のすることを見守ってくれていた。


 時間が経つにつれ、壺の中のドクダミ草の成分は焼酎のアルコールへと溶けだして、独特の異臭もしなくなり、アルコールのきつい匂いだけが壺からは漂うようになった。ドクダミ草のすり潰された葉を布でこして取り除いたエキスに、水とグリセリンを加えて瓶に詰めれば、傷薬の完成です! 手荒れにも良い感じなのは私が実際使って保証済み。

 本で得た知識を実践。混ぜる割合は本に出ていなかったので、私のオリジナルレシピってこと。


「ナターシャさん、ドクダミ草の傷薬出来ました。お手伝いのお礼です。受け取ってください。」


 ドクダミ草がご縁で知り合ったソバカス美人のナターシャさんは私の部屋のお隣さんだった。私より2歳年上の中堅騎士さまなので、夜警があったり、仕事で遅くなり面倒になってそのまま王宮内の詰所に泊まったりで3日に1度ほどしか部屋には戻らないらしい。見事にすれ違っていました。

 そのナターシャさんに騎士さまご推薦の薬屋を紹介してもらい、保湿剤のグリセリンを購入した。ダメ元でドクダミ草のエキスの販売を打診したところ好感触。まだエキスたくさん残っているもんね。お金になる予感がする。


 ナターシャさんは更に同じ官舎の友人を私に紹介してくれるとのこと。一気に友人が増えていく…夢のようだわ。

 同じ「ーシャ」を名に持つせいか親近感が持てる。男爵家の令嬢とは思えない庶民的態度も私的にすごく良い。私が伯爵家の娘なのに官舎に住んでいることも「まあ、ここではよくあること」と言って家族のことには触れてこない。彼女も家族と何かしらのわだかまりがあるのかも。


「夕食を一緒に」との誘いをナターシャさんから受けたのは、指先からドクダミ草の色が抜けた頃だった。

 茄子色の事務服も薄い生地で仕立てられた半袖の夏仕様となって、春は終わり夏めいた日差しが眩しくなってきていた。


 ◇◇◇


 約束の時間ちょっと前に私は官舎の入口にやって来た。

 好印象を与えたいからね。女子会だもんね。

 シンプルで涼しげな水色のワンピースを身につけてみました。左側にまとめた髪をスズランの刺繍を施した水色のリボンで結んでみた。


 楽しそうな話し声と共に3人の娘さんが登場です。

「「「初めまして。」」」

 一人目はナターシャさん。身体の線が出るくらいフィットした黒いパンツに真っ白な開襟シャツが男前です。なのに漂う女っぽさ…ギャップ萌えしそう。続いて、フワフワの金髪頭のてっぺんで一結びして赤い髪飾りを留めてニコニコしているお嬢さん。豊かなお胸が印象的です。彼女はハーミイさん。最後にツヤツヤな栗色の髪を一本の三つ編みにしたパチクリ目のお嬢さん。小柄なのに身振り手振りが大きくて、見ていて可愛らしいです。彼女はマリエッタさん。お二人はどちらも文官でした。

 身分に関係無く友人関係を築いていることが驚きです。私もここへ加われるのかしら? ドキドキしちゃう。


 食堂で夕食の載ったトレーを受け取り、4人でやや端のテーブルを占拠する。今晩のメインメニューは川魚のパン粉ハーブ焼きだ。ローズマリーと岩塩が良い感じで効いている。デザートにイチゴジャム添えのチーズケーキをセレクトしましたよ。女子だものデザートは必須よね。

 私はハーミイさんとマリエッタさんにもドクダミ草の傷薬をプレゼントした後、驚きつつ皆の会話を聞いていた。だってこんな風に女子で集まって会話するなんて、初めてなんだもん。どこで会話に加わって良いのかタイミングがつかめない。驚きばかりがあるんだもん。


 3人は久しぶりに会っているらしく、近況報告がなされる。皆、自分の仕事に誇りを持っているようで、「忙しい」と言いつつも充実した生活をおくっているようだ。王宮で働くつまり国のために働いているという連帯感プラス、女だてらに働いていて大変という共通の苦労が彼女たちの友情の根っこにあると私は感じた。うん、私も共感できるよ。

 ただ…国への忠誠心や尊敬の念がそのまま王族や中枢で働く方々への憧れと美化へとなっているようでして。私には??であった。


「アーシャマリアさんはどちらで働いていらっしゃるの?」

「政務課のロベルト・デュ・エデンバッハ侯爵の元で雑務をこなしております。」

 取り決められた返事をかえす。アーシャマリアはロベルト様に雇われていることになっている。今の私はレディ・アンではない。ルーデンス殿下の側付きとは絶対言えない。

「アーシャマリア、言葉が固い固い。普段仕事で堅苦しい言葉遣いしているんだから、今くらいは気楽に話していいよ。それとも平民とは対等に話せないかい?」

「そんなこと無いです。…こんな風に女子だけで話すのに慣れていなくて。」

 私は否定しながら思わず椅子から立ち上がってしまった。まあまあと座るようにうながされる。


「あのロベルト様のところで働いているの?」

「ええっ、良いなあ。ロベルト様って、すごい紳士的な人なんでしょ。働きがいがあるわね。」

(私の頭の中に紳士的なロベルト様はいませんよ…お二人ともそんなにキラキラした期待の目で私を見ないで。)


「そういえば私は今日の訓練の時にルーデンス殿下の姿を見たよ。颯爽として相変わらず素敵だったわ。」


 さすが女子の憧れツートップ。語る皆がうっとりしている。身分とか関係無く人気があるって本当なのね。今ここにいる仕事熱心な3人に彼氏は誰にもいないらしい。それでもうら若き年頃の娘が集まれば、素敵な殿方の噂話となるのは当然か…

 それからは素敵な方々の話が続いた。ランセル様やレイヤード様の名もあがった。チーズケーキは美味しかったけど、彼女たちの素敵な方々を褒める言葉に同意し続けて疲れた。初っぱなから反対意見を言う勇気は無い。

(見てくれは良いけど、そこまで素敵じゃないわよ。)

 何度も心の中で訴えたのだもの、疲れるわ。



 ◇◇◇



「レディ・アン。私にはドクダミ草の傷薬をくれないのかな? 完成している報告はあがってきているのだけど。」

 執務机に向かいペンを走らせながら、ついでのようにルーデンス殿下に言われた。

 監視されていたんだね。カフールさんの報告かな。

「殿下ならもっと効果の高い薬を使ったほうがよろしいかと思いますが。」

「かなりの手間暇と苦労をかけて作ったんだろう。君の力作が気になるってものだ。なのに一向に私に手渡してくれる気配がない。つれないなあ。」

 ルーデンス殿下はペンを置き、ニコッと私に笑いかける。

(黒い…面倒くさい人よね。)


「もちろん私達にもくれるよな。」

(ハイハイ、ロベルト様ね。ここにも黒いのいるよ。)

「…わかりました。後日、お渡しします。」


 近くに居るからだろうか私にはルーデンス殿下をはじめ、ロベルト様達の素敵さが今ひとつ理解できない。

 仕事は出来るかもしれないけど、素直じゃ無い、面倒くさい人達だ。

(世間の皆さーん、顔にだまされちゃダメですよー。)

 心の中で何度も私は叫ぶしかない。












名前のミスとか気が付いて修正を以前の話にかけています。まだ修正ミスがあるかと思います。すみませんですorz


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