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王立図書館での収穫

 ノワール伯は思いのほか優しい瞳で私に告げた。

「伯爵はお変わりないですよ。この間お会いした時、私が貴方のことを聞く前に『遠くの街の知り合いに行儀見習いとして預けられている。』とおっしゃっていられました。少し寂しげでしたね。それと、ご安心ください。貴方に関する噂は貴族界に出ていません。ご家族に関しては、上のお嬢さんに縁談の話が来ているとの噂を聞いています。」


 思ったより私は平静に話を聞くことが出来た。誰が聞いているか分からないので、家名をはじめアーシャマリア(イコール)レディ・アンと分からないように名は出さないで話をしてくれている。ノワール伯の心遣いは有り難い。

 …そうか、皆元気みたいね。

 父の中で、私は遠くに預けられたことになっているんだ。まさか、王都に再び居るとは思っていないよね。くれぐれも会わないように気を付けなくちゃ。サウザント家に何も迷惑をかけないってのが、約束だったからね。まだ平民にはなっていないけど、約束は守る。

 父が寂しげというのはノワール伯が私に気をつかって言ってくれた言葉なんだろうと思う。今までだって、私が居ても居なくても父の生活に私の存在は大して影響を与えていたわけじゃ無いし。今では私に関する話題はサウザント家では御法度になっていることだろう。ご家族か…なんか遠い昔の知り合いの話のようだな。


 私が、父やサウザント家のことを思い出すことは家を出て以来ほとんど無かったことだ。あえて考えないようにしていた。思い出せば、肩身狭く居心地の悪い思いも一緒に思い出してしまうから。故意にどうしているかなんて思わないようにしていたくらいだ。


 それでも、私の行方云々(うんぬん)でサウザント家に迷惑をかけていないことを知ったのは良かったわ。ちょっと、ホッとした。離れたのに嫌な思いをさせるのは私としても不本意なことだから。


 …微妙な表情を私はしていたようで。

 側に立つノワール伯も「言わない方が良かったか?」的な微妙な表情をしていた。


「ノワール伯爵様、お話ありがとうございました。」


 貴族の令嬢の礼をもって感謝の意をあらわす。感情は表情に出て来ない。私が王都にいることは釘を刺さなくても、ノワール伯から父に伝わることは無いはずと思う。

 顔を上げた私はニッコリとノワール伯に微笑みを向けていた。


 微笑むレディ・アンを見守るノワール伯…(私が殿下に伝えたばかりに貴方には苦労をかけますね。)

 元凶であると自覚はあるが彼がそれを口にすることは無かった。


 ◇◇◇


 地図や治安関係の本の貸し出しは出来ないと言われたけど、王宮書類事務用語辞典は貸し出せると言うので貸し出しをお願いすることにした。殿下達は当たり前のように使う用語が、私には分からないことがあるからね。

 色々な意味で再度ノワール伯へお礼の言葉を述べ、別れた後、やっとお待ちかね庶民向けの書棚の見学です。

(もう時間無いし、今日はどんな本が庶民向けとなっているのか確認して終わりかなあ。)


 私の背より頭一つ分高い書棚が広いスペースにいくつも並んでいる。ちょっとした迷路のようだ。

 庶民向けとなっているが、貴族が利用したって構わない。実際、庶民向け書棚の上位貴族の利用はほとんど無いようだけど。


 この辺りには、調べるための本というより娯楽としての本が多い。挿絵のきれいな子供向きの物語や大衆向けの恋愛ものなんてのもあるみたい。

 私が読みたい本は星の本。星座?だっけ。夜空に浮かぶ星の並び方に呼び名があると知ったのはクールデンでのこと。アーシャマリアだった時は基本早寝早起きだったから、星を見て「綺麗だなあ。」と思うことはあってもそれ以上のことは考えたことも無かった。それ以上考える暇はなかった。夜中に起きていて出迎えることはあっても、外に出ていることは無かった。だからクールデンで誰かと夜道を歩いて星座のことが話題になっても、何のことだか分からなかったのだ。皆が知っていて自分だけ知らないのは少々悔しい。だから知りたい。


 知らないこと知りたいことは自分で調べる。これは私が幼い時からしてきたこと。当たり前なこと。得た知識で生活改善。


 星座の本はどこかなあ、と探すがなかなか見つからない。

 だからノワール伯と同じ図書館職員を探す。本の女神をあしらった緑灰色のバッジをジャケットの左襟に付けていればビンゴだ。

 キョロキョロと辺りを見渡すと、居ました。フワフワとした明るい茶色の髪をうなじで一つにまとめた少女が6冊もの本を抱えて書棚の足下にうずくまっている。貸し出された本の返却作業を行っているようだ。私は彼女の後ろから声をかける。


「あのう。すみません。」

「は、はいっ。」


 律儀な彼女は6冊の本を抱え直して、スッと立ち上がり振り返った。私と同じ王宮女性事務職員である彼女も自前のジャケットの下には茄子色の事務服を着ている。ちょっと親近感がわくわね。


「星座に関する本を探しているんですけど。場所を教えていただけませんか?」


 そう伝えれば、2つほど離れた書棚へと案内された。

 立ったまま、教えられた書棚から気になるタイトルの本を取り出す。手に取りパラパラとページをめくる。ふむ、こんなに星座ってあるんだ。星ってこんなに見えるものなんだ。残念ながら、とてもこんなにたくさんの星座なんて覚え切れそうに無い。

 その中で、全ての星の基準となる不動の星があるとの記述に気が付いた。『道しるべの星』…聞いたことがあるようなないような。北の夜空に浮かぶらしい。何日間か北の夜空を見れば私でも覚えられるかな。


 今回の王立図書館での収穫は、王宮書類事務用語辞典と道しるべの星。

 近いうちにまた来られると良いなあと思いながら、私は王宮へと戻ったのであった。





活動報告にてお知らせした新キャラ登場まで、もう少し時間かかりそうです。頭の中からイメージが消える前に登場させたいのですが…

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