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再度クールデンへ

 ロベルト様の恋人なんて言語道断。

 全くどこから愛人なんて発想が出てくるのよ。


 それでもウェラー隊長、エイダさん、マスターが私の言葉を待つように見つめている。

(みんなして、何期待しているのよ!)


「私がロベルト様と会話するようになって、まだ一月(ひとつき)も経っていないんです。愛人どころか手さえ握ったことも無いですよ。」


「アーシャが成人したばかりの16歳だろ。ロベルト様って21歳だっけ。どっちもいい歳じゃないか。あの、ロベルト様の執着は恋愛感情じゃないのか? 上位貴族のロベルト様は貴族同士の家が絡む結婚するだろうし、そうしたらアーシャはどうしたって愛人だろ? 貴族同士の結婚なんて契約なん……うぎゃっ!」


 ーーギュギュッ


 少々むかついた私はウェラー隊長の足を踏んでいた。踏みつけていた。

 自分で考えていたより、短気だったようだ。ドルシエ先生、ごめんなさい。私、もう貴族の令嬢としての振る舞いが出来ないみたいです…



「まぁ、そうよねえ。こらこら、この酔っ払いは言い過ぎよ。16歳ならまだ恋愛結婚に憧れているでしょうに。そんな()に愛人だろうって言うなんて。まったく、デリカシーの無いおじさんなんだから嫌になっちゃうわ。」


 横で私も頷く。

 貴族で契約結婚は当たり前。まして上位貴族なら当然。ロベルト様だって分かっているでしょ。身分が釣り合わなくて一緒になりたいなら愛人に…平民にだって分かること。

 でも後ろ盾も何も無い今の私なら、貴族的結婚は無いって言えるんじゃ無い? 仮平民なら恋愛も有りなんでしょ。でも相手にロベルト様みたいな貴族は無い。


 まったくウェラー隊長ったら…私の何を見ているんだか


「で、アーシャちゃんの用事は済んだの?」


 私は苦笑いするしかなかった。これで察して欲しい…


「…まあ、色々大変そうだな。」

「…そうねえ。」

「……」


 これで何となく解散となった。

 あまり深く触れられなくて良かったと言うべきか…ちょっと複雑な心境です。



 ◇◇◇


 翌日、私は再び辻馬車に乗り、クールデンへと戻った。

 王都郊外の母の墓参りとも思ったけど、平民になったら報告に来ると決めているんだもん。まだ早い。


 行きは馬車でのお迎えだったから無料だったが、帰りの辻馬車は運賃が結構かかる。宿代もめんどり亭で払ったし。ほんと、(しゃく)よね。また王都に戻って来る時も辻馬車だろうし。限られたお金は余分に使いたくないのが本音。

 王宮で仕事するならドレスとかも用意しなくちゃならないのかな。支度のためのお金のことを考えると頭が痛くなる。


 エデンバッハ家の馬車と違って、揺れる辻馬車の中では刺繍をする気力は起きなかった。

 刺繍したのを見せに行っても、雇ってもらうのは断らなくちゃならないし。

 平民気分を味わえたお礼にまたハンカチに刺繍したのをボビルスさん夫妻に渡そうかなあ…なんて考えながら、ボーッと揺れる馬車の中から外の景色を覗き見ていた。




 クールデンの中心街で辻馬車を降りれば、若芽の新緑がチラホラと増えて、木々の小花の花びらが風でヒラヒラと舞っている。

 ポニーテイルの首筋は少し寒かったけど、すっかり春になっていた。王都よりずっと季節を感じる。


 空から降ってきた薄桃色の花びらを手に受けようとしたが、ヒラヒラと私の手を避けるように逃げて行く。

 小さな幸せが逃げて行くようで、今の私の状況みたいで、思わず苦笑いしてしまった。


 郊外の警備隊まで行く辻馬車は昼の時間には運行されていない。朝夕だけなのだ。

 まだ時間はある。以前乗った荷馬車にはもう乗るもんかと思う。あの揺れは勘弁したい。学習したもんね。


 黒いカバンを片手に持ち、背負いカバンを背負って私は歩いて行く。

 急いでしなくてはいけない用事もないし、この風景をよく見ておくには良い機会だし、良い天気で気持ち良いし。行けるとこまで行って、辻馬車が横を通ったら乗せてもらおうかと大通りを歩いて行く。

(ここって、こんなに良い街なんだけどなあ。もう少し住みたかったなあ。)

 そんなことを考えながら歩いていたら、なんか声がした。


「…アーシャさん、…アーシャさん。」


 声のする方に首を回せば、無骨な馬車が一台、パカパカと私に併走するように走っている。

 御者を見れば、どこかでお見かけしたような…ああ、皇国警備隊の事務官の貴族っぽい人だわ。

 馬車が止まり、私も止まる。


「こんにちは、アーシャさん。こんな処でお会いするとは。王都から戻って来たのかな? 警備隊へ向かうなら馬車に乗っていかない?」

「こんにちは、事務官さん。それじゃ、お言葉に甘えて乗せて頂きますね。」

「あぁ、僕の名はマルチェ・デュ・リーンフェルトです。よろしく。」

「知っていると思いますが、アーシャ・オルグです。こちらこそ、よろしくお願いします。」


 やっぱり貴族だったんだ。もう貴族とは関わり合いたく無かったところだけど。

 でも貴族とは思えない気さくな好青年との会話で心が洗われた気がするわ。自然と笑顔が出た。

 私は運良く馬車に出会い、乗せてもらって皇国警備隊へと戻ったのだった。


 それから皇国警備隊の食堂へと行けば、『無事か』とばかりにボビルスさんを始め、大勢の人に囲まれ、早々とボビルスさん宅へと私は避難した。

 癒やしのエメリーさんと可愛い子供達を堪能しましたとも!






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