報告会的な集まり
「次、これ、2番。」
「はっ、はい。」
マスターの指示に従い、私は料理や飲み物を次々と各テーブルへと運んだ。
私の他にウエイトレスはエイダさんを含めて3人いる。エイダさん以外はもう結婚しているんだって。
料理を作るのはマスター1人、補助で2人いる。皆、おじさん。ここのガードマン兼任らしくがっちりした体つきだわ。それなのに野菜を持って丁寧に皮をむく姿は可愛らしく見えてしまう。これが萌えってやつかしら。
これだけの人数がキリキリと動き回るくらいにはお客が来ている。
(ここってスゴイ繁盛しているよね。)
不慣れで見慣れない私を、お客さんはあたたかい目で見てくれて、すっごく助かってます。たぶんこのドレス姿が慣れない仕事している感をかなり増長しているんだろうなあ。
若干、何度もお客さんに「今日だけのお手伝いなんです。」と言うのは面倒だった。
料理をテーブルに運べば、衛士の皆さんもすっごく優しいのだけど、私の素性がバレているのか又はウェラー隊長に何か言われたみたいで、ちょっと距離をとられている気がする。
◇◇◇
「これであがれ。食事しろ。」
お店の混雑が一段落した頃、マスターの掛け声と共に私のお手伝いは終了した。
泊まり客としての夕食を頂きます。
今日の夕食は、肉団子のトマト煮とエンドウ豆の卵とじ。すっごい彩りがきれい。食材が新鮮なんだなぁ。
肉団子の肉が荒くて噛み応えある。煮込んであるのに、ちゃんと肉の味が残っている。オレガノの香りも強すぎなくて良いよね。
エンドウ豆も火が通り過ぎない絶妙なシャキシャキ感がすごい。
ボビルスさんといい、マスターといい何処で修行して料理人になったのだろう。平民レベル以上だと思う。
前回同様にカウンターの隅の席で私は食事していた。
仕事中は気が付かなかったけど、よくお腹が鳴らなかったと思うくらいお腹はペコペコだった。
あー、美味しいわぁ。身体に染み渡るわぁ。今日一日、私、頑張ったよなあ。
「隣り座らせてもらうぞ。マスター、日替わりディナーをくれ。エイダ、いつもの頼む。」
ドサッと隣りに座ったのはウェラー隊長だった。エイダさんが大きなジョッキでエールを置く。
喉を鳴らしエールをゴクゴクと飲んでいく。
(美味しそうに飲むのねぇ。)
私もいつかこんな風に喉を鳴らしながら飲んでみたい。まだお酒は果実酒をなめるくらいしか飲んだことないけど。
何となくそれから私達は二人とも無言で食事をし、私が夕食を食べ終わる頃同様にウェラー隊長も夕食を終えた。
店内の客もだいぶ減っている。
エイダさんも休憩に入り、椅子を私達の近くに引っ張って来て、話を始めなくちゃいけないような雰囲気になってしまった。
「あっ、お菓子をもらっているんです。今持ってくるのでちょっと待っていてください。」
私は宿の自室へマカロンが入った箱を取りに行った。
戻って来たらエイダさんがお茶を淹れていてくれた。マスターからのサービスだって。
箱の中にはシュークリームが3個、マカロンはバニラとチョコレートとフランボワーズとブルーベリー味が各1個入っていた。たくさんくれたのね。
「もらい物なんですけど、良かったら食べてください。」
「きゃい、なんか高そうなお菓子ねえ。では、遠慮無く頂きます。うわっ、すっごく美味しい。マカロンなんて滅多に食べられないから幸せぇ。」
「俺は甘いものはちょっとな。マスター、エールのお代わりをくれ。」
「…モグモグ。隊長、飲み過ぎなんじゃない?」
「今日も一日以上衛士として街の治安を守ったんだ。この位の楽しみは許せよ。」
各自、聞く準備万端で私が話し出すのを待っていた。
マスターもカウンターの中でこちらに聞き耳を立てているのが分かる。
ふう、しょうが無い。今日までのいきさつを話せる範囲で語りますかね。
◇◇◇
「…クールデンで暮らしていました。マスターの紹介でお兄さんのボビルスさんに会って、ボビルスさんが料理長をしている皇国警備隊の食堂で働いていました。奥さんのエメリーさんと子供達とも仲良くなりましたよ。」
「そうそう、クールデンなんだよな。マスターもエイダも何にも知らないって言うから、何処に行ったか調べるのが大変だったことと言ったら…」
ウェラー隊長はここでグッとエールを飲む。
「何で私の行方を調べる必要があったのですか?」
ちょっとこれは聞いておかなくては。
「ああん? ロベルト様だよ。知り合いなんだろ。アーシャが翌朝すでにめんどり亭にいないと分かって、詰所に何処へ行ったか調べろって来たんだ。」
「そうよぉ。しつこいったらありゃしない。機嫌悪いから、まぁ、目つきの悪いこと。行き先知られたくなさそうだったから、私とマスターは何処に行ったか教えなかったのよねえ。」
マスターがうんうんと頷いている。
「こいつら頑固でさあ。威張って教えろなんて言う人には知っていたとしても教えないなんて言いやがって。不敬罪にされるんじゃないかって、ハラハラしたぞ。仕方ないから、あちこちに聞き込みして、辻馬車に乗ったことを突きとめて何処まで行ったか調べて、何度も頭下げてこいつらに確認をとったんだ。」
「はぁ。ご苦労様でした。その苦労をウェラー隊長がしている間に私は新天地で新しい生活を楽しんでいたんです。」
「それがどうして、こんなに早くまた王都にいるの?」
ウェラー隊長、エイダさん、マスターの視線が私に刺さる。
目を瞑り、深呼吸してから私は話した。
「用事を果たすために、ロベルト様に連れ戻されたんです。」
皆から可哀想な者を見る目で見つめられた。エイダさんなんて溜息をついている。
私だって溜息をつきたい。
バニラ味のマカロンを手に取り、一口かじる。甘い。優しい甘さだ。
「あの人はストーカーかい……あのさ、アーシャって、ロベルト様の愛人なのか?」
ーーゴクン
(マカロン、噛まないで飲み込んじゃった…)
ーーバン!
私はカウンターに両手を叩き付けた。
「そんなわけあるわけないじゃないですか!!!」
淑女にあるまじき大声をあげてしまったわ。自分に自分で驚いている。
興奮を抑え、息を整え、私はウェラー隊長をギロリと睨み、マスターに水をもらって飲み干した。
(もう、やだあ。何でまた、恋人でなく愛人なのよ。本当にあの人達に関わると碌なことないわ。ヤケ食いしてやる。)
私はガシッとシュークリームに手を伸ばした。
ウェラー隊長の「愛人?」質問をさせたいがために書いた話です。思いつきと勢いで書きました。




