表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/87

めんどり亭での再会

 「お世話になりました。お礼はまた何かしらの形でさせて頂きます。」


 貴族の最上礼をとり、出来るだけ深く頭を下げた。足早にエデンバッハ家の馬車に乗り込み、目的地を告げる。


 馬車をそそくさと降り私は歩き出した。

 うぅう、なんか首元がフワフワしていて気持ち悪い。

 ウイッグをかぶるために何本も三つ編みを編んでいたから、ウイッグを外して三つ編みをほどくとフワフワのラブリーな髪型となってしまったのだ。ちょっと乙女すぎるかなぁと思ったけど、少しでも早くエデンバッハ邸を出て行こうとしたので、ほどいたままで歩いて行く。

 街を出歩いている女性は一纏めにしている姿が多いので、人目を引いていた。


 もう、何かやだやだ。

 貴族なんてやだーと心の中で叫びながら私はズンズン歩いた。


 空は青く晴れているというのに、私の心は雷雲立ちこめ荒れている。


 私は地方へ向かう辻馬車乗り場近くでエデンバッハ家の馬車から降り、『めんどり亭』へと向かったのだ。



 ◇◇◇



 ーーギィイ

 昼休みに入ったのか『めんどり亭』はヒッソリと静かだった。


「こんにちは。失礼します。…」


 思わず小声で声をかけ、そっと店内へと足を踏み出す。

 カウンターへ向かえば椅子に座り腕を組んでうたた寝しているマスターの姿があった。


(頭のてっぺんは失礼だから見ちゃイケマセン!私!)


 チラッと薄目をを開けて私を見たと思ったら、ガバッとマスターは起き上がった。

 ヒェッ。

 飛び上がっちゃったよ。私の方が驚きましたよ。


「…いらっしゃい。」

「一晩泊まりたいんですけど、部屋開いていますか?」


 マスターはうん、うんと頷いて、私に何時(いつ)ぞや見た鍵を渡してきた。


「…同じ部屋だ。……あー、元気にしていたようだな。」


「あのぅ、おかげさまでルーデンスでちゃんと生活できていました。マスターの手紙のお陰です。ボビルスさん一家にはたいへんお世話になりました。それで、たった一晩だけですがお礼として、厨房の下働きでも食堂の掃除でも何でもいいのでさせてください。」


 私はガバッと頭を下げた。

 しかし、マスターに止めてくれって感じで肩を掴まれ、私はすぐに頭を上げることになる。


 以前泊まった部屋に黒いカバンを一つとマカロンの入った箱を置いて、私は再び食堂へ戻った。




 (ほうき)を持ち、食堂の入口付近を私は掃いていた。丁寧に丁寧に。

 やっと心が落ち着いてきた。

 ミルクティー色のドレスしか持って来ていないので、エプロンを貸してもらい身に付けている。髪はポニーテイルに纏めたが、いつもよりフワフワしていて変な感じがする。


(視線を感じるのよね。エフェルナンド皇国衛士第2詰所の方から。早く夕食が食べたくて開店を待っているのかしら?)


 女性を吟味するような男の視線に慣れていない私は、すべてガン無視していた。皇国警備隊で働いていた時もだ。

 自分が異性を意識していないせいか、若い男性に接する機会が少なかったせいか、全くそっち方面には(うと)い自覚はある。かといって積極的に恋愛とかに関わろうとは思わない。

 そんな時間があったら、刺繍とか他のことに時間を費やしたいからね。

 だから男性の意図を察するなんて無理無理。


 掃き終わると今度は、雑巾を持ってドア付近を拭きだした。入口は顔だもんね。キレイにしておかなくちゃ。

 ーーキュッキュ

「ドアノブは丁寧に…と。ドアの上も拭かなくちゃね。」

 あまり背が高くない私はピョンピョンと跳びはねてドアを拭いていた。


 背後に人の気配を感じた時には、雑巾は私の手から奪われていた。

「あっ。」

「これでいいか?」

 ーーゴシゴシ。

 ドアの上部が誰かによって雑巾で拭かれた。


 振り向くとそこにいたのは「ウェラー隊長…。」


「うん? アーシャだっけ?」

「は、はい。拭いてくださりありがとうございました。」


 雑巾を奪い取り、食堂の中へ去ろうとしたが、以外と強いウェラー隊長の赤錆色の瞳から逃れることができない。

 ウェラー隊長の視線が私の身体をてっぺんから足下までツーと移動した。


「皆が可愛い新入りが入ったみたいだって言っていたが、あんたのことだったのか…。」

「ん? 単にお手伝いしているだけですけど。」


 詰所で若い衛士が騒いでいるので元凶の確認に来たらしい。

 私はウェラー隊長に今までの経緯を話すよう詰め寄られた。

 何でも前回のあの時、ロベルト様に「アーシャマリア嬢が何処へ行ったか?」と散々聞かれて大層困ったらしい。…そうだよねぇ。分からないように頑張ったもんねえ。マスターとエイダさんに助けてもらったんだよね。

 でも結局見つかって、これから先はどうなるやらなんだよねえ。

 私は遠くの空をを見つめ、言葉を濁した。


 そうこうするうちに、夕方の開店の少し前にエイダさんが出勤してきた。

 私を見つけるなり飛びついてきて、ドキドキしちゃったわ。


「きゃい、アーシャちゃんじゃない。久しぶり! 元気? ちょっと、ウェラー隊長訊問なんてしていないでしょうね。」


エイダさんがウェラー隊長に詰め寄り、ウェラー隊長が今から話を聞くところだと言えば、「私もアーシャちゃんの話が聞きたい!」と騒ぎだし、あれよあれよと二人で相談して、結果、私は8時までめんどり亭で配膳の手伝いをすることとなった。手伝い終了後、夕食を摂り、その後エイダさんの休憩時間にこれまでの話をすることとなったのだ。

「俺も8時過ぎに店に来る。」と言ってウェラー隊長は業務へと戻って行った。


(何? その報告会的な集まり。)


 ともかくまずはめんどり亭でお手伝いをしよう。何かしていないと、気分が落ち込んで行きそうだし。

 長い夜になりそうだ。言えないことは上手く誤魔化さなくちゃな。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ