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母との生活

 一番最初にお屋敷に拉致られて帰宅したときの母の有り様はひどかった。

 げっそりと痩せていた。そりゃあ、可愛い我が子がいきなり自分の側からいなくなって2週間以上帰ってこないんだもの。どこに居るかは知っていても自分の行けない場所で。悶々と時間だけが過ぎただろうし。かろうじて気晴らしに身の回りのことはキチンとこなしていたようだったが。


 誰も私の事を説明しなかったのか?と思ったが、父が母の所に来てしたとのことだった。母の様子を見て心配したのか2日に一度は来て私の様子を話していたようだ。いつの間に話せるほど私のことを見ていたんだか…

 私には殆ど無関心か関わろうとしないくせに、母には「婦女子には優しく」の精神は発揮されるようでして。私も女子ですが。範囲外ですか。でもさ、もうちょっと自分の子なんだから可愛がってもいいと思うんだよねえ。それほどフローレ様が怖いのか。

 まあ、私がいない時にだけでも父が母の側にいるのは良しとしよう。父が来ることで母が安心できるならそれに越したことは無い。


 やつれた母を見て、母に心配かけちゃいけないっていう気持ちは大きくなった。だからお屋敷でのことは良いことしか言わない。美味しいもの食べたとか、字が読めるようになったとかね。



 母と一緒にいるときは一生懸命母の手伝いをした。

 掃除はもちろん、水汲みに食事作り。洗濯に畑の仕事まで。畑っていっても芽の出てしまった野菜を土に埋めただけでして…それでも少ない食材でやりくりしている生活では貴重であることに変わりなかった。

 お屋敷の本を読んで得た知識を生かし、畑の収穫アップに貢献した。野菜くずを発酵させて肥料にしただけなんだけど。畑仕事の経験は母には無かったから、すっごく褒められた。やっぱり褒められると人間さらに頑張るんですよ。


 お屋敷にいる時とは違って、素直に私も感情を出すことが母と一緒にいるときは出来た。

 たわいのないことで顔を見合わせケタケタと笑い、ドジをしてはガハガハと大笑いをして、走って転んでは大泣きをし、母に甘えて膝枕をしてもらいながら髪を撫でられた。

 なんという充実感。

 庭師の作業小屋は私と母の城だった。


 優秀なお針子の母の指導で、私の裁縫の腕はメキメキと上がっていった。得意は母と同じ刺繍。貴族のたしなみレベルを超えたのは10歳の時。刺繍に関してはドルシエ先生に怒られた記憶が無い。へへーん。

 母の受ける内職の仕事を私ももらうことが出来た。もうプロだね。


 家事に畑に、お勉強。そこに内職が加わって生活はもっと忙しくなったけど、お金が増えて母との生活が豊かになると思えば苦では無かった。

 私が大きくなった時、どうサウザント家から扱われるかわからない。私は貴族の血を望むだけのおじさんの所へ嫁に行かされるかも知れないが、3女の私にわざわざ持参金をつけるだろうか? 召使い扱いのままお屋敷に留め置かれる可能性の方が高そうに思える。私の顔を見たくないだろうフローレ様が居るから何とも解らないのが現状だ。

 何にせよ、将来の母との生活のために少しでも貯金することにしたのだ。


 大きくなるにつれ、お屋敷に行っている時は自室の掃除や洗濯も自分でしなければならなくなった。

 だって侍女並に出来るんだもん。庭師の作業小屋に居るときはしているって皆知っているんだもん。食事は食べさせてもらえるんだけどさあ。


 私に対してお屋敷で働く人達は、幼い頃は少しは同情があったと思う。大きくなってしかも自分達と同じようなことを出来ると分かって、嫉妬や理不尽さを感じ始めたに違いない。

 私がお屋敷に居る間は、最低限のお嬢様扱いをしなくてはいけない。その鬱憤が母へいっているのに中々気付けなかった。


 お屋敷に時々とはいえ住む私には、良くも悪くも知り合いが増え、一応関わってくれるようになった。だから母と二人分の食事の材料を厨房にもらいに行けばそれなりにもらえたし、多少はごねて色々もらえた。

 それが私がお屋敷に行っている間、母が厨房に行くと食材を減らされたようだった。特に肉。くすねられたのだろう。父は母の元に顔を出すときに菓子は持っていったようだが、肉はない。

 精神的なやつれは無くなっていたのに、肉体的やつれが母の身体を徐々に蝕んでいった。

 食材がもらえないなら街で買えば良かったのに、喜んで貯金していた私の姿がそれをさせなかったのだろう。



 私が14歳で社交界にデビューしたのを確認して、母は亡くなった。

 金色だった母の髪は淡い金色に変わっていた。













楽しい話にするはずが…すみません。

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