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リラックスできないお茶会

 ランセル様、ロベルト様に続いて中宮の中を進んで行く。

 緊張が少しとれて、周りを見る余裕が私にも出て来た。


 時折すれ違う侍女は、皆の憧れ上位貴族のお二人を見て頬を染める。そして私を見て、一瞬嫌悪感を浮かべた表情をした後、安心したような表情を浮かべ、かわいそうな者を見たといった顔をする。


(この髪型のせいよね…)


 黒髪おかっぱのウイッグは髪の長さが肩くらいまでしかない。

 貴族の娘にとって髪は長いのが当たり前。腰くらいなんてざらにいる。手入れが大変な長い髪をきれいなまま維持できるって事は、そのまま彼女が大事にされているってこと。

 私なんて背中半分あるかどうか。短い方だがまあ長いって言える。

 その髪が肩までの長さしか無いってのは、夫に先立たれた未亡人か、はたまた結婚する意思が無いっていう意思表示と言うのが貴族界での常識。

 平民はそこまで長さにはこだわらない。まあ、夫の死後に髪を切る人も居なくは無いけど。


 どう見ても貴族にしかみえないドレスを着ている今、髪が短い私はランセル様とロベルト様と一緒に居ても問題ないって思われている。

 ロベルト様、そこまで考えてこのウイッグを用意したのかな。


 まあ、結婚なんてしなくて良いならするつもりも無いから良いけど。

 でも、成人したばかりで、未亡人と思われるのは心外だ。かわいそう認定されるのはちょっと癪だな。



 謁見した部屋から階段を幾つか昇ったり降りたりして、中宮の最奥辺りの2階で私達は一つの部屋へと入った。

 日当たりが良く、バルコニーまで付いている。

 大きながっしりとした実用性重視の執務机が幾つか並び、脇机には本やら書類が山積みだ。家具は明るいブラウンなので圧迫感はない。少し離れて柔らかそうなクリーム色のソファが幾つも置かれていて、品の良いクッションにフットレストまである。奥には何やらしまってある頑丈そうな棚もある。

 部屋の左右の壁には扉が3カ所あり、続き部屋があるのだろう。


 私室と言うには実用的で、執務室と言うには居心地が良さそうだ。


 ロベルト様にソファに座るようにうながされたので、一人掛けを選んで座る。

 ランセル様がベルをチンと鳴らすと、右側の扉が開き、侍女が出て来て指示を受けていた。

 間もなくお茶セットと共に軽食の載ったワゴンが部屋に持ち込まれた。ソファのサイドテーブルに軽食の載った皿が幾つも並べられる。お茶は殿下が揃った時に私が淹れるようロベルト様にうながされた。


(もう昼食って言っても良い時間だもんね。さすが、美味しそう。)


 生クリームと濃紫色のジャムが添えられたスコーン、小ぶりの野菜とフルーツのサンドイッチ、ケークサレなど甘みが少なくお腹に溜まりそうな男性が好みそうなものが多く用意されていた。甘いものとしてはマカロンにシュークリーム。どれも小ぶりに作られている。

 思わず目が離せない。


 ーーギィ。

 左側の奥の扉が開いた。着替えた殿下の登場だ。

 上質な生地と分かる厚手の濃紺のシャツに赤い石の付いたループタイ。ビロードの黒いズボン。さっきの装いとは色味が真逆だ。金色の髪が映える。

 よぉっと片手を挙げてリラックスして部屋へと入ってきた。先ほどの護衛騎士は居ない。

 この部屋の中にはランセル様しか護衛騎士は居ない。


「待たせたな。アーシャマリア嬢、ここは人払いしてあるからリラックスして過ごしてくれ。まあ、何かあればすぐ隣の部屋から大勢飛んでくるからな。」


(このメンツでリラックスなんて出来るわけ無いのに。分かって言っていたら嫌味だわ。)


 私の正面の二人掛けソファにはロベルト様(お目付役か)とランセル様が姿勢良く座り、その隣り私との間の一人掛けソファにルーデンス殿下がフウッと座り身体をソファに沈める。

 私は立ち上がり皆様のために真っ白い陶器にお茶を淹れる。…うわあ、この茶葉薫りがハンパなくある。色もきれいなオレンジに近い。最高級ってやつかしら? 緊張しつつ高級感溢れるカップをお湯で温め、持てる技術を駆使してお茶を淹れ、各自の前に並べた。

 その間、皆、無言。


 私も腰掛け、皆してお茶を頂く。


「相変わらず、旨いな。」

「そうだな。」

「ロベルト様、ランセル様、お褒め頂きありがとうございます。」


(やっぱり殿下は後から口にするのね。毒なんて入れないのに。信用無いのかな。それなのにこんなプライベートな場所に招くなんて…)


 殿下はお茶を一口飲むと、うん?と一瞬目を見開いた。


「へぇ、こんな特技を持っているんだね。美味しいお茶を淹れるね。王宮のお茶くみ侍女に負けていないよ。」


「お褒め頂き有り難いですが、ここの茶葉が素晴らしいから、こんなに香り立って綺麗な色が出せたのです。色の変化がすぐにわかる真っ白い陶器にも助けられていますし。」


「チャンと白い陶器の意味も分かっているんだ。合格だね。さあ、食べよう。」


 やはり殿下は私達が食べ始めてから、手を伸ばす。

 トングで取って、ナイフとフォークで私はスコーンをいただいた。添えられている黒スグリのジャムの粒が大きくて目にも美味しい。

 目では並んでる軽食を全種類食べたいところだが、さすがにこのメンバーの前でガツガツと食べる勇気はない…それにサンドイッチを手で持って食べるために手袋を外すことをここではしたくないって乙女心が騒いでいる。この場にかさついて荒れた手は似合わない。

 仕方ないから美味しいお茶ばかりお代わりして飲んでいた。


 あー、私なんでこんな場に居るんだろう?

 周りを見れば、優雅な仕草で食事する成人貴族が3人。何だか色々話をしているが、聞かない方が良いと思うので私の耳の中に会話の内容は入ってきていない。


 早く私の貴族戸籍の話をして、クールデンに帰ろう。

 ふと、自分に驚いた。

 クールデンが私の帰る場所になっている…

 ニコッと自分の口角が上がったのが分かる。さぁ、とっとと用件済ませて帰らせてもらいましょう。












なかなか話が進みません。さすがにアーシャちゃんも王宮内では思うように動けません。 orz

黒スグリはカシスです。この成人貴族男子3人にはイチゴや木イチゴのジャムは似合わないかと。

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